『鬼ごっこ』



「俺を捕まえられたら、ね」

 そうしたら。
 天戒の。
 好きにして良いよ。

 そう言って、笑って。
 駆け出すものだから。
「・・・・・龍、ッ」
 逃げられれば、それを。
 追いたくなるのは、獣の習性でもあって。
 慌てて伸ばした手を、躱されれば。
 捕らえて、そして。
 その柔らかい肉に喰らい付きたい。
 いっそ、本能のようなものだから。
 木々の中、子鹿のように。
 軽やかな足取りで、その間を縫って走る。
 悪戯な獲物、を。
 追いかけて。
「待て、・・・・・ッ待たぬか、龍」
「ヤだよー」
 クスクスと、笑いながら。
 指先が、触れる直前。
 本当に、紙一重といった差で。
 ヒラリと身を躱して、また逃げて。
 それは、どう見たって。
 この状況を、楽しんでいるとしか。
 気付いてしまっても、それでも。
 こんなに必死になって追ってしまう、のは。
「・・・・・ッ龍」
「何ー?」
 それは。
 きっと。
「ッ愛している」
「・・・・・・・ッ!?」
 乱れる呼吸に。
 擦れた声で。
 告げれば。
 一瞬。
 その足が。
 躊躇する、から。
「あ、ッ・・・・・」
「・・・・・捕まえたぞ」
 その、僅かな隙を。
 見逃さずに。
 腕を捕らえれば。
 避けようとした勢いと余って。
 ふたり。
 茂みの中、倒れ込んで。
「・・・・・ずる、い」
 仰向けに転がる龍斗の上、覆い被さるような形で。
 勝者の笑みで、見下ろせば。
 どうにも納得出来ないといった、表情で。
 睨むように、見上げてくるのに。
「俺は本当の事を言ったまでだ」
 澄ました顔で。
 言ってのければ。
「・・・・・ずるい、よ」
 呟いて。
 ツイ、と逸らした顔。
 その、頬は。
 走り回った故か。
 それとも。
 微かに、朱に染まる。
 肌理細やかな、そこに。
「・・・・・ッ、ひゃ・・・」
 そろりと。
 舌を這わせれば。
 驚いて、のしかかる身体を押し退けようとするのに。
「小枝を掠めたのであろうな」
 言葉に。
 舐められた、箇所が。
 チリリと、微かな痛みを訴えるから。
「・・・あ」
 知らず、傷をつけてしまっていたのだと。
 気付いて。
 まじまじと、天戒の顔を眺めれば。
「・・・・・済まぬ、ことをした」
 目が合って。
 それが。
 強い意志を持って、ゆっくりと近付いてくるのに。
「て、天戒・・・ッ」
「美しい肌なのに、な・・・・・こんな傷を・・・」
 ペロリと。
 今度は、鎖骨の辺りを舐め上げられて。
 おそらく、そこにも擦傷がついていたのだろうけれども。
 だけど。
 その熱い舌は。
 ゆるりと、浮き上がった骨をなぞり。
 悪戯な手が、胸元に忍び込むから。
「待っ、て・・・・・」
 その感触に、コクリと喉を鳴らしながらも。
 肩を押し返すようにして、その行為を嗜めれば。
「・・・・・何だ?」
 愉しみを中断された、不機嫌さを微かに滲ませつつ。
 のそりと顔を上げるのに。
「そ、そろそろ・・・・・屋敷に戻ろ?」
「嫌だ」
「ッ嫌って、天戒・・・・・ッ」
 子供のような、返答に。
 半ば呆れた様子で、それでも覆い被さる身体の下から
逃れようと身を捩れば。
 更に体重をかけて。
 土の上に、縫い留められて。
「着物、・・・・・ッ汚れるよ」
「気になるのなら、脱がせてやろう」
「そ、じゃなくて・・・・・ッ」
 いずれにしたって。
 龍斗の衣服は、胸元から大きくはだけられて、既に半分
脱がされているも同じで。
 転んだ時点で、汚れてしまっているのは明白であったし。
 今更、着ているものが土にまみれたからといって、気に
する性格でもなかったけれども。
「・・・・・龍」
「は、い・・・・・」
 低い声で、名を呼ばれて。
 そろりと目を上げれば。
 怒ったような。
 困ったような。
 それでいて、真摯な瞳が。
 龍斗を見据えていて。
「捕まえられたら、好きにして良いと言ったな」
「・・・・・言った」
「俺を挑発したのだ・・・覚悟の上だったのだろう?」
「う、・・・・・」
 誘い掛けたのは。
 逃げ切れる、という。
 確かな自信があったからで。
 それでも。
 こうなる、ことを。
 きっと。
「・・・・・俺の、負け・・・・・」
 降参だ、と。
 パタリと、顔の横に手を投げ出して。
 全身の力を抜けば。
 ゆっくりと降りて来た唇が。
 龍斗のそれを、羽根のように掠めて。
「そんな顔をするな・・・・・可愛がってやる」
「・・・・・本当に、ここでするの?」
「開放的なのも、たまには良かろう」
 楽し気に囁いて。
 既に手は、龍斗の下肢を覆う布まで取り去っているから。
「・・・・・ケダモノ」
「俺の野生を刺激した、お前が悪いのだ」
 そう言われれば。
 確かに、返す言葉もなく。
 投げ出した手を、そろりと上げ。
 背を、抱くようにすれば。
「・・・・・龍?」
「可愛がって、くれるんだろ?」
 怪訝そうに覗き込んでくる、瞳に。
 ゆるりと弧を描く、唇で。
 囁いて。
 引き寄せて。

「お手柔らかに・・・・・俺の、鬼さん」

 晴れ渡る、青空の下。
 そんな。
 鬼ごっこの、結末。




「待て、こいつぅ」「うふふ、捕まえてごらんなさーい」
・・・・・とか何とか。どうなんですか、この人たち。
まぁ、いつもの寝所で閉じこもってヤるのも良いですが
たまには、こういう青空えっちも健康的(??)で
宜しいかと。あああ畜生、全くもう(何)!!