『願い』
元々、夜目の効く方ではあったけれど。
それでも、灯を落としてしまえば、そこは黒い闇で。
目を閉じて寝入ってしまえば、そんなことは別段、気に
掛かるものではなく。そのまま、眠りに落ちていくのを只
待てば良い。
だが、時折。
天井の模様が、見て取れるまで眺めてしまう。
眠れない、夜。
それも確かに存在する。
「・・・・・誰だ」
夜八つ。
見張りの任に就いているものを除けば、皆寝静まっている
はずの、時刻。
とはいえ、自分はこうして眠ることなくいるのだから、
同じように寝つけずに彷徨う者がいないとも限らず。
襖越しの、気配。
誰、と問うてはいても。
それが。その氣は、違えようもなく。
「・・・・・龍」
口にすれば。
それを待っていたかのように、スッと開けられる襖。
闇の中なのに、どういう訳か彼の姿は、それ自体が仄かに
光を放っているかのように、白く浮かび上がって。
白い、妖しかと見紛うほどに。
「「・・・・・眠れないのか」」
互いに。時を同じくして問いかけた、同じ言葉に。
フ、と空気が和んでいく。
「・・・・・そこへ」
入り口に立ち尽くしたままの龍斗が、ふと。
何処か躊躇いがちに、口を開いて。
「そこへ・・・・・行っても、良い・・・?」
その様が、常とは違ってどこか心細気に見えて。
「・・・来い」
微笑んで、手招きすれば。
フワリと柔らかく笑んで。襖をきっちりと閉め、天戒の
褥の傍らに歩み寄る。
「・・・・・澳継の寝言が煩くて眠れなかったのか?」
冗談混じりに問えば、クスクスと笑いを零しながら。
「そうだね、確かにあれは・・・・・。でも、そうじゃなくて」
ゆるりと弧を描いた口元のまま。
真直ぐに。
夜目にも鮮やかな、瞳。
「泣き声が・・・・・」
「・・・赤子・・・は、おらぬと思うが」
「ううん、違うよ・・・・・そうじゃなくて」
縮まる、距離。
肌の温度さえ、感じられそうな。
「・・・・・独りに、出来ないと・・・思った・・・・」
それは。
誰の、声だったのだろう。
「・・・た、つ・・・・・」
律儀に、正座したままの。
その、膝に。
自分は、一体何をしているのだろうと。戸惑いが頭を
過ったけれども。
ゆっくりと。
頭を、乗せて。
「・・・・・ああ」
暖かいな。
そう、呟けば。
微かに笑ったような気配と、下りてくる手と。
「・・・・・天戒・・・・・」
名を、呼ばれて。
髪を梳くように、撫でられて。
その心地よさに、そっと目を閉じる。
子供のような、自分。
「・・・・・暖かいね」
こうしていれば。
暖かい、氣に包まれて。
満たされて。
「・・・ああ、もう」
聞こえない。
泣いていた、あの声は。
呟きながら、膝の上に乗せられた頭を、そっと抱くように
するから。
思わず。縋るように、腰に腕をまわして引き寄せれば。
その、細さに。
鼓動が。
「・・・・・ここに、居ろ」
高鳴るそれを、抑えようとするけれども。
もう。
「ここに・・・・・俺の、傍に・・・・・」
止める術など。
「・・・・・いるよ、ここに」
下りてきた言葉に、顔を上げて。
見つめ返せば、そこに。その瞳に、偽りの陰など感じられ
ないから。
「・・・・・そう、望んでくれるのなら」
もっと。
その体温を。
温もりを、肌を。
感じたくて。
「龍・・・・・」
触れあわせた、唇。
重ねて、より深く。熱を、互いに与え奪い合うように。
肌を、曝けて。
重ねれば、また生まれてくる熱を。
分け合う、ように。
何度も何度も。
身体を、繋げた。
「・・・・・何処へ行く」
まだ余韻の覚めやらぬ身体を、起こし。脱ぎ捨てられた、
夜着を纏う、背に。
幾分不満げな、声が掛けられる。
「ここにいろと、言ったはずだ」
「・・・・・いるよ、でも」
褥に引き戻そうとする腕を、擦り抜けて。
振り返った貌は、夜明け前の解かれ始めた闇の中、それは
息を飲む程に艶やかで。
「坊やが気付くと・・・何かと、ややこしくなりそうだから
・・・・戻るけど、でも」
ここに。
いつも、傍にいるから。
だから。
「・・・・・離れない、から」
「・・・・・離さぬ」
掴まえていて。
離さないで。
例え。
逃れようのない大きな渦に、巻き込まれ引き離されても。
ここに、いるから。
いつか。
必ず、見つけて。
そして、また。
抱き締めあおう。
御屋形様ーーーーッ(愛)!!!!
とても強い人なのです。でも弱い人なのです。
そして龍斗との出逢いが、彼を・・・(悦)!!
陰から始めたせいか、かなり御屋形様贔屓(笑)。
ちなみに、風祭×龍斗SS『片恋』と、微妙に
繋がっていたり(微笑)。