『みもこころも』
今日は、朝からとても天気が良い。
頬を撫でる風は少し強く冷たいけれど、落ち葉の舞う風情は、
決して嫌いでは無い。
それに。
自分の中の、何かが告げる。
今日は、きっと。
彼が来る、と。
だけど。
「・・・・・やれやれ」
腕組みをしながら、部屋の中を一瞥し。
梅月は、深々と溜め息をついた。
「こんにちは、真琴さん」
勝手知ったる、というか。
門を潜り抜け、だけど玄関はその手前で素通りして。
そのまま。
にっこりと笑いながら、龍斗が顔を覗かせたのは、梅月の
私室に続く縁側で。
そこで柱に凭れるようにして立って待っていた梅月に、不審な
表情の欠片も見せず、笑顔で挨拶を告げると履物を脱ぎ、きっちり
と揃えて置いて。
部屋へと入って行く。
いつもの、ように。
「・・・・・あれ?」
先に立って部屋に入った龍斗の後を追うように梅月が、足を
踏み入れれば。
きょとんとしたような瞳が、振り返って見つめていて。
「何、あれ・・・あんな、沢山・・・・・」
部屋の隅には。
高く積まれた箱やら包みやら。
どれもこれも、がらくたなどといった類いのものではなく。
それぞれに、凝った装飾やらが施されていて。
相当に高価な品物なのだと、見て取れる。
「・・・・・確か、南蛮渡来の菓子もあったと思うよ」
「俺の、じゃ・・・ないよね」
甘いものが大好物の龍斗にと、梅月はいつも菓子を用意して
くれているけど。
目の前のこれは、そういうものだとは思えず。
「・・・・・僕は要らないと言ったんだけどねぇ・・・」
肩を竦め。
文机の前の座布団に、ゆっくりと腰を下ろして。
そのすぐ傍らに、龍斗も膝を揃えて座れば。
やや困ったような瞳が、品々にチラリと映して。
「祝い、だと言って持って来た・・・秋月の家関係の者がね」
「・・・・・祝い?」
何の?、と首を傾げる龍斗に、たいした感慨もなさげに梅月が
告げたのは。
「生誕祝いだそうだよ・・・・・秋月家当主の、ね」
「・・・・・・・え、ええ・・・ッ真琴さんの誕生日!?」
「ああ、・・・・・実に下らない」
「・・・ッどうして・・・」
本当に。
興味すらない、といった顔で淡々と告げる、から。
驚いていた龍斗の表情が、困惑に彩られる。
「彼らは別に僕の誕生日を祝っている訳じゃない・・・所謂、
御機嫌取りという奴さ」
「そんな、真琴さん・・・」
「それに・・・・・僕は、生まれてきて良かったと思ったことは
・・・・・なかったよ、ずっとね」
「な、・・・・・」
困惑、から。
その貌は、ゆっくりと。
哀しみの色に、染まって。
こんな顔をさせてしまう、ことも。
分かっていた、けれども。
「ずっと、・・・・・逃げて来たからね、僕は」
己の星から。
宿星が示す、全てから。
目を、背けて。
「・・・・・真琴、さん」
「・・・・・それは、君も知っていること、だろう・・・?」
「知ってる、けど・・・だけど、でも・・・」
だけど。
逃げた、その先に。
「・・・・・そして、君に・・・・・出逢った」
「・・・・・ッ」
彼は、いた。
見つけた。
そして。
手を、伸ばしていた。
「生まれて始めて・・・・・生まれてきたことに、僕は感謝したよ
・・・生きている、ことに・・・」
触れた、頬は。
暖かい。
愛おしい、温もり。
彼の。
「君と共に歩もうと決めた、あの日から・・・あの日、ようやく
僕は・・・産声を上げたのかもしれない」
唇に、そっと。
己のそれを、押し当てて。
「今日、ではなくて・・・今、に・・・感謝したいね、僕は」
「・・・・・俺も、感謝したいよ」
ここ、に。
こうして。
ふたり。
在る、ことに。
「でも、・・・・・やっぱり、俺も何か御祝したいなー・・・ねぇ
何か欲しいもの、ない?」
「僕は、龍先生がここにいてくれるだけで、充分なんだけどね」
「あああもう、そんなんじゃなくて ! 」
「・・・・・この、ひとときが・・・・・至福、なんだよ」
「・・・・・ッ真琴、さん」
手や、唇。
それだけじゃ、なくて。
身体、で。
自分の全てで、この温もりを確かめたくて。
閉じ込めたくて、強く。
しなやかな肢体を、抱き締めれば。
「・・・・・じゃあ、今日は・・・ううん、今日も・・・明日も
・・・ね、ずっと・・・こうしていよう?」
一緒に。
いよう。
「・・・・・龍、斗」
自由よりも。
何よりも。
欲しくて。
求めて、この手に。
掴んだ、もの。
「御誕生日、おめでとう・・・・・大好きだよ、真琴さん」
何にも代え難い。
愛おしい。
人。
「・・・・・有難う」
ずっと。
共に、在ろう。
決して遠くない、その。
瞬間まで。
叶うなら、魂ごと。
寄り添う2人であれば、良い。
そう。
願って、いる。
・・・・・おめでとう、梅月センセ(微妙に小声・笑)v
御祝SSなのに、しんみりなのは・・・むー。
星視は短命っつーのが、どうにもこうにも切ないのですが
その分、濃厚に(何)!!存分に(だから何)!!!!