『身勝手』
今思えば、そう難しいことではなかったはずなのだ。
手にした扇をほんの一振り、そうすれば辺りの雑魚だって
一掃出来たはずで。
なのに。
「危ないッ、龍斗はん ! 」
その背後に閃く刃に、考えるより先に身体が動いていて。
振り下ろされる白刃が、己の身を斬り裂くと思った、その
次の瞬間。
隻眼に映ったのは、振り返った貌の切ないまでの美しさと。
そして、降り注ぐ血の雨。
己のもの、でも。
そして、龍斗のものでも、なく。
「な、・・・・・」
その光景に呆然とすれば、そのまま。
不意に、足下に転がっていたらしい怪物の残骸と思しき
ものに、足を取られて。
「う、うわわわわッ」
愛しい人の前、見事なまでに。
不様に躓いて、転んでいた。
「・・・後ろから斬り掛かってきているのは、知ってたし」
声は低く、不機嫌さを滲ませていて。
「避けるどころか、一撃で倒す算段だってあった」
包帯を巻く手付きも、あからさまに乱暴で、なのに。
どうしても、口元が弛んでしまう、のは。
「・・・・・何を笑っている」
「いやァ、やっぱり別嬪さんは怒った顔も綺麗やなぁ、と」
「・・・・・人の話を聞いているのか、お前は」
やや、呆れた顔。
それもやはり、本当に綺麗で。
「いや、ほんま・・・申し訳ないて、思ってるんやで」
「・・・・・それは、何に対してだ」
「何、て・・・・・」
目の前で転んで、運悪く足を挫いてしまった們天丸に肩を
貸して、そのねぐらに担ぎ込んで。そして、常備している
薬やらで、その治療をしてやりながら、龍斗の機嫌はずっと
斜めであって。
だから、そんな手間を掛けさせたことを。
怒っているのだ、と。
「・・・・・確かに、しなくてもいい怪我をした事に関して
思う所はある、けれども」
「・・・・・ちゃうの?・・・何、怒ってはるん?」
「分からないのなら、いい」
そう吐き捨てるように、呟いて。
包帯を巻き終わった足を軽く叩き、そのまま立ち上がって
去ろうとする、のを。
「・・・・・待ちや」
どうにか、身体を起こして。
腕を伸ばして、縋るように。
引き留めて。
「言うて、・・・・・分からん」
「だから、分からないのなら、別に」
「嫌や」
引き寄せて。
強く。
腕の中に収めてしまう、刹那。
苦しげな表情に、チクリと胸が痛んだけれども。
「全部、言うて・・・・・何でも、ぶちまけてしもて」
「・・・・・な、・・・」
「罵ってもええ、・・・・・何も、隠さんといて」
やがて。
胸元、溜息をつくのが感じ取れて。
「隠しているんじゃない・・・そうだな、多分、お前が分から
ないのが・・・自覚がないのか、腹立たしかったのだろう」
「・・・・・それ、何やの」
「・・・・・この、怪我が・・・」
そろりと。
包帯を巻いた足に、龍斗の白い指が触れる。
血に染まっても、なお。
美しい、手。
「・・・・・俺を庇って、負ったものなら・・・俺は・・・」
お前を許さなかった
「龍斗、はん・・・」
「許さない・・・・・俺を庇って、身を投げ出すなど・・・
絶対に、俺は・・・・・」
腕の中、小刻みに震える肩に。
怒りと、どうしようもなく深い。
悲しみとが。
混在、していて。
「・・・・・わい、結構頑丈やし・・・」
「そういう問題じゃない」
「・・・・・せやな」
この強く儚い生き物を。
どうしようもなく、愛おしいと思う。
気持ちの、ままに。
「堪忍、・・・・・な」
「口だけだ、いつも・・・お前は」
「意地悪やなァ、この別嬪さんは」
強く、抱きながら。
髪に唇を寄せて、口付けながら。
体温を。
その、熱を。
伝えたくて、互いに。
身を擦り寄せるように。
「ほんま、・・・・・堪忍」
「・・・・・聞き飽きた」
ボソリと呟いた、その言葉に。
微かに滲む、それは。
「そんな、拗ねんといて」
「拗ねてない」
「ああもう、ほんま可愛いなァ、堪らんわ」
「・・・・・」
抱き込めば、やや躊躇いがちに縋り付く手は。
肩はもう、震えてはいないけれど。
この愛おしい存在を護ることが、何よりも。
だから。
また、きっと。
考えるより先に、この身体は動いてしまうのだろう。
そして、また不機嫌になる彼に、ひたすら謝って。
抱き締めて、許してもらう。
そのために。
絶対に。
生き抜く、だから。
少しだけ、この我が侭を。
怒ってもいいから、だから。
赦して、欲しい。
もんちゃん、御誕生日おめでとうーvvv
御祝SSなのに、微妙な(何)。
「好きだから」「護りたいから」というのを
理由として押し付けちゃうのは、時に身勝手と
取られるコトも。
「理由」にしたとしても、「押し付け」ちゃ
イカンのね、やっぱ。