『惑う月』



 散歩は、好き。
 特に。月の綺麗な、こんな夜は。
 誘われるように、外に出て。
 その光を、浴びてみたくなる。


「良い子は、お眠の時間やで」
 森に差し掛かれば。
 頭上から降ってくる、飄々とした声と。
 まさに天狗の身のこなしで目の前に降り立つ、声の主。
「俺が子供だと言いたいのか」
 軽く睨み付けてやれば。おお怖、と笑いながら肩を竦めて
見せて。
「そういうつもりやあらへんけど。しかし怒った顔も、ほんま
別嬪やなぁ・・・龍斗はんは」
「それが、お前の口説き文句か」
 ズイっと、顔を覗き込んでくるのを、躱して問えば。
「口説かれてくれんのかいな」
「そういう遊びは、吉原で幾らでもすれば良い」
「つれない御人やな」
 そう言われても。
 この男は何時も、冗談とも本気ともつかない言葉で。
 誘い掛けて、くるから。
 深入りだけは、するまいと。
 踵を返そうとして。
「・・・お月さん、綺麗やなぁ・・・」
「・・・・・」
「不思議な、光や・・・・どこか、妖しゅうて。そう、まるで」

 あんさんみたいや。

 月明かりに。
 顧みた、その表情は。
 からかいの色など、何処にもなくて。
「・・・どういう・・・」
「あかんて・・・・こんな夜に、フラフラ彷徨い出たりしたら」

 天狗に。
 攫われる。

「・・・・・ふん」
「逃げた方が、ええで」
「逃げないよ」
「天狗に、喰われるかもしれんで」
「頭から、バリバリと?」
 ゆっくりと近付いてくる、自分よりやや大柄な男を。
 真直ぐに、見据えて。
「そんな、下品な喰い方は」
 しないのだと。
 それを。
 言葉ではなく。
「・・・・・ん」
 降りてきた、唇で。
 示して。
 そのまま、掻き抱かれて。
 口付けは、深く。
 忍び込んできた舌は、逃げるそれを巧みに捕らえて。
「・・・・は、ァ・・・・」
 息苦しさに、相手の着物を強く握りしめれば。
 濡れた音を立てて、離れていく唇。
「・・・・・やっぱり、下品だな」
 密着する、身体。
 口付けの間に、あからさまに自己主張を始めた、それを。
 その昂りを指して、口の端を吊り上げてみせて。
 そこにまた、落とされる口付け。
 今度は、軽く。啄むように。
「な・・・おとなしく、喰われてくれへんか」
「・・・・・こんな、場所でか?」
 木々に囲まれた。
 大地の、褥で。
「お望みやったら、わいの寝床まで抱いてったるで」
「・・・・・ああ、もういいから」
 口付けに。
 熱を植え付けられたのは。
 こいつ、だけではなく。
「ここ、で」
 一瞬。
 惚けたように口を開けたまま見つめてくるのが。
 じれったくて。
「来い、よ」
 首に、腕を回して。
 誘い掛ければ。
「・・・・・ほんまに、ええんか?」
「聞くな。も一回、同じこと聞いたら殺す」
 そのまま。
 今度は、こちらから唇を重ねて。
 やがて。腰に回された腕に、忍び笑いを漏らしながら。

 少しずつ、確実に灯されていく快楽の中で。
 ふと、見上げれば。

 月が。
 俺達を、見下ろしていた。




もんちゃんです(悦)。結構、好きです。楽しいです。
過大な期待をしていなかったお陰か(ヲイ)、意外と
すんなり馴染んだのです、私は。
しかし。もんちゃん相手だと、ナニやら強気です
龍斗ったら・・・くす。