『許容』



 受け入れられるものなら。
 この手で、ちゃんと。
 抱き締めてあげたいと。



 パシャリと。
 水音が、木々に微かに響く。
 風は、なく。
 鋭く尖った月と、瞬く星だけが。
 揺れる水面を、浮かび上がらせて。
「・・・・・ふ・・・」
 初夏の陽気に、昼間こそ水浴びに飛び込むには良い場所では
あったけれども。
 さすがに、夜ともなれば。
 好んで冷たい水に身を浸す者など。
 そう、いるはずもないのだけれども。
 だからこそ。
 ひとり、火照る身体を冷やすには、丁度良い。
「・・・・・?」
 半刻程。
 そうして、水と戯れて。
 完全に冷えきらぬ内に、上がろうと岸に近付けば。
 脱ぎ捨ててあった、衣服が。
 忽然と、消えていて。
「・・・・・ふ、ん・・」
 水の滴る上半身を露に。
 宙を見上げ。
 高い木々の。茂る、そこに向かって。
「・・・・・盗人に成り下がるか・・・天狗」
 静かな。それでも、はっきりと響く声で。
 告げれば。
「ちょっとした悪戯や」
 すぐに。
 笑いを含んだ、返答と共に。
 ガサガサと枝をゆらして。
 降ってくる、影。
「・・・・・們天丸」
 着物を、手に。
 数尺離れた大木に、背を預けて。
「あんまり、眺めが良いもんやから・・・・つい、な」
 堪忍、と言いつつも。
 それを返す素振りを見せずに。
 月明かり。
 浮かび上がる、白い肌を目で堪能しながら。
「ほんま、綺麗やなぁ・・・」
 呟くのに。
 濡れた眉をひそめ。
「返せ・・・・・寒い」
 外気に、しだいに奪われていく体温に、微かに身を震わせれば。
「なんや、せやったら今すぐ、わいが暖めて・・・・」
「お約束通りだな、その台詞は」
「あちゃ〜・・・」
 しまった、とでもいうように、頭をポンと叩いて。
「ま、でもほんまに風邪ひかすんは、忍びないしなぁ」
 ひとりごちて。
「降参や、返すよって・・・上がって来ィや」
 その言葉に。
 静かな水音を立てて。
 ゆっくりと、その全身を曝け出していくのを。
 あくまで。
 にっこりと笑んだ表情は、そのままに。
 歩み寄って。
「・・・・・」
 立ち尽くす、裸身に。
 持っていた着物を、そっと掛けて。
「・・・・・あんさんに、誂えたもんやないな・・・」
「・・・・・」
「これ、の・・・・御人やろ」
 その、首筋に。
 胸元に。
 視線を落とせば、その大腿の。
 内側にまで、幾つも。
 散らされた、紅い印。
「・・・・・お前には、関係のないことだ」
「ま、せやけど」
 帯も結ばず。
 肩に着せ掛けられた、そのままに。
 傍らを、擦り抜けようとして。
「・・・・・おんなじように、京で出逢うたのに・・・・・」
 肩が触れあう、距離で。
 足を止めて。
「なんや、切ないなぁ・・・・・」
 それは。
 直接、龍斗に語りかけているものでは、なかったのかもしれない。
 けれど。
「同じ時に、同じ地で出逢っても・・・・・お前と、『あいつ』は
・・・・・違う、から」
「・・・・・言われんでも、分かってるつもりやけどな」
 それでも。
 彼が、選んだのは。
 自分では、なく。
 同じ時、同じ地で出逢った。
 呪われた刀を背に封じた、剣士。
「分かってても・・・・・あかんのや」
「・・・・・ッ」
 その、声が。
 常からは想像も出来ぬほどに。
 そんな、苦しい想いを。
 一体、どこに隠していたのか。
「あかんのや、もう・・・」
「離、せ・・・」
 後ろから。
 抱き竦められて。
 その、耳元で。
「惚れて、しもうたんや・・・・もう・・・・」
 吐息と共に。
 囁かれれば、それだけで。
 背筋をかける、甘い痺れを。 
「どないも・・・・ならん」
 そのまま。
 傍らの木に、ゆっくりと。
 押し付けられて。
「・・・・・ッ止め・・・」
 はだけたままの、着物の合わせ目から。
 するりと入り込んでくる、大きな手。
「・・・・・あ、ッ・・・」
 胸の突起を摘まれて。
 その刺激に、身を捩れば。
 もう片方の手が裾を割って、そろりと下肢へと伸ばされて。
 やんわりと、包み込む。
 熱い手に。
 冷ましたはずの、熱が。
 また、じわりと。
 呼び起こされそうで。
「・・・・・好き、や・・・」
 絶えまなく与えられる、刺激と。
 掠れた声で囁かれる、切な気な告白に。
 奪われていく。
「あ、・・・あァ・・・・い、や・・・・んッ」
 敏感な部分を狙い済ましたように、攻めたてられて。
 堪えきれずに溢れる、声に。吐息に。
 混じる快楽の色は、どうしても隠せずに。
 ガクリと頭を垂れれば、目に。
 巧みな愛撫に、すっかり張り詰めて先端から漏れる体液に、包む
手をしとどに濡らす、のを。
「・・・・・ッいや、あァ・・・・・・・ッ」
 図らずも、見てしまって。
 羞恥に。
 そして、次の瞬間与えられた強い刺激に。
 ビクビクと身体を震わせ。
「あ・・・・・あァ・・・・」
 そのまま、埒を開け。
 解放された虚脱感に、崩れ落ちそうになる身体を。
 それでも抱き締めた腕は、解かれずに。
 幹に。押し付けたまま。
「・・・・・ええ声、やなぁ・・・・」
 手に受けた白濁を、拭いもせずに。
 その滑りでもって、双丘の。
 奥へと、指を。
「・・・・・ッ」
 その蕾の周りを、弧を描くように。
 中に潜り込ませることなく、すぐに離れていくのに。
「・・・・・な、・・・」
 怪訝そうに。
 肩ごし、伺い見ようとして。
「・・・・・堪忍、や」
「は、ッ・・・・ん、ッ・・・・あァ・・・ッ」
 瞬間。
 強張る隙も与えずに。
 押し当てられ、一気に捩じ込むようにして。
 後ろから。
 貫かれて。
「・・・・あ、ッあ・・・・ァ」
 衝撃と。その、圧倒的な質量に。
 背筋を駈け上る、もの。
「・・・・・全部、入ったで」
 耳朶をくすぐる、そんな囁きにも。
 どうしようもなく、熱くなるのは。
「・・・う・・・ッん・・・・ふ・・・」
 一度、奥まで収めたものを、ゆっくりと引いて。
 抜ける、ぎりぎりのところで、また最奥まで。
 突き上げて。
 何度も、繰り返し。
 そんな。
 性急な行為にも、傷付かなかったのは。
「・・・・・あ、・・・・」
 内から。
 トロリと流れ出す、その。
 数刻前の。
 流しきれなかった。
 残滓。
「い、いや・・だッ・・・・・も、離し・・・・て」
 殆ど時を置かずして。
 別の男に抱かれている。
 そして。
「こ、んなの・・・は・・・・み、とめな・・・・」
 それを。
 享受している。
 こんな、ことは。
「・・・・・でも、これが・・・真実や」
 ポロポロと涙を零し。
 こんなことは。
 こんな自分は認められないと。
 泣いて。
 訴えるのに。
「求められたら・・・拒めん・・・人や」
 繋がったところから。
 じわじわと、全身までも支配しようとする。
 波に。
 囚われたまま。
「違・・・俺は、・・・・ッそん、な・・・・」
「・・・・堪忍、そんな・・・変な意味やない・・・」
 止めどなく、頬を濡らす涙。
 それを、舌で。
 拭いながら。
「身体のことを・・・・それを言うてるんやない・・・・その、
心の・・・・・ことや」
 宥めるように。
 打ち付けるそれは、ゆっくりした動きに変えて。
「わい、を赦して・・・・・受け入れて・・・くれる・・・・・
あったかい心、や・・・・」
「・・・・・違う・・・・」
 それでも。
 ゆるゆると、首を振るのに。
「せやな・・・受け入れて・・・でも、おんなじ想いは返されへん
・・・・・それは、よう分かっとる・・・・けどな」
 想いを。
 否定、しない。
 そこにある、ものを。
 そのまま、受け止められる。
「ありのままの、わいを・・・・否定せずに受け入れてくれる・・・
それだけで・・・」
 ぎゅっと。
 抱き締めてくる、腕。
「・・・・・們天丸・・・」
「知ってて・・そこに付け込むような、ことして・・・・・ほんま
堪忍や・・・・」
 ああ、そうなのだ。
 どうしても。
 拒めない、もの。
 否めない、想い。
「・・・・・いい、加減に・・・・しろよ」
 それなら。
 もう。
「・・・早、く・・・・動け・・・・ッ」
「・・・・ッ」
 このまま。
 内に。
 その、想いを。
 受け止めて。
 溢れる程に。
「ほんま、・・・愛しゅうて・・・変になりそう、や・・・」
「・・・・ッふ・・・」
 注ぎ込まれても。
 それは。
 きっと、残る。

 想いは、ここに。
 消えずに。

 それを。
 この手で。

 抱き締める。



また、青●ですか(待て)。
裏デビューの、もんちゃんでございますー。
でも、霜葉×龍斗前提で。
・・・・・ご、ごめ・・・・(涙)。
人の想いを否定するのは、その人を否定する
コトにも、なりかねないのです。
受け入れる前に、そういうものだと認める心。
まず、そこからです(笑)。