『楔』



 繋ぎ留める事が出来るなら。
 どんな、ことだって。



「・・・ッい、たい・・・・あァ・・・ッん」
 啜り泣く、声。
 掠れて、もう。
 うまく紡げぬそれを。
 聞こえない振りを、して。
「あ、あァ・・んッ・・・・ふ、あッ・・・い、やァ・・・ッ」
 喘ぎに。
 混ざる、隠せない悦楽を。
 巧みに。
 利用、して。
「・・・・・嘘を、つくな」
「んッ・・あ、ァ・・・く、ッ・・・ンあァ」
 欲を。
 突き立てて。
 慣れた行為に、熱く震える内壁を。
 思うままに、擦り上げて。
「悦いのだろう・・・こんなに、締め付けて・・・ここ、も・・・
今にも達しそうだ」
 先刻、吐精したばかりなのに、また濡れて勃ちあがる、張り詰めた
ものを。
 その形を見せつけるように、撫で上げて。
 更に。
 言の葉を使って。
 蹂躙すれば。
「ち、が・・・あァ・・・ッん、ッ・・・・ふ」
 ゆるゆると首を振って。
 否定、しても。
 煽られているのは、事実で。
 突き放す事だって、可能なはずの腕は。
 しっかりと、首に回されて。
 だから、これは。
 一方的な陵辱、ではないと。
「いつものように・・・もっと、腰を使ってみたらどうだ」
 そう、耳元で囁きながらも。
 そんな、余裕すら。
 与える事なく。
 しなやかな身体を、折り曲げて。
 深く、激しく。
 一度、中で果てているから。
 濡れた音が、耳障りな程。
 それでも。
 それ以上に、上の口から溢れる嬌声が。
 甘く。
 絡み付く。
「も、・・・・許し、て・・・・ッ」
 それ、は。
 この、無理矢理に引き裂いた、この行為に対してなのか。
 それとも。
「・・・・・許さぬ」
 冷たく、言い放つ。
 内に。
 激しく燃える、熱いものを。
 隠して。
 顔を寄せ、瞳を捕らえて。
「もう、・・・・・誰も・・・・・」 
 ここ、に。
 誰も。
「誰も・・・・・映すな」
 自分、以外の。
 誰も。
 この瞳に映す事は。
「俺以外、・・・・・見るな・・・・ッ」
 出来るはずが、ないと。
 分かっていて。
 それでも、どうしても。
 どんなことをしてでも、彼を。
 自分に。
 自分だけに。
 繋ぎ留めて、おきたくて。
「み、ない・・・・見ない、から・・・・ッ」
 嘘だ。
 この宝玉は。
 その輝きに惹かれて集まってくる、ものが。
 どんなに沢山いるのか。
 そして。
 彼らから決して、逸らされることがないのを。
 知って、いて。
「俺を、誑ることは・・・許さぬ」
 逸らせない、ことを。
 知っている、のに。
「いや、ァ・・・・ッ」
 仰け反り、目の前に曝された。
 白い、喉に。
 ここに。
 歯をたてて。
 薄い皮膚を噛み裂いて。
 溢れる赤い血潮を啜れば。
 全て。
 この手に、出来るのだろうか。
「・・・・・誰にでも、その美しい瞳で微笑みかける・・・」
 出来は。
 しない、のに。
「そんな、お前が・・・・・」
 本当に。
 気が、狂いそうな程。
 憎くて。
 そして。
「龍・・・・・お前が」
 愛おしくて。
 もう。
 どうしようも、なくて。
 狂暴な、肉の牙を。
 その躯に突き刺して。
 甘美な抱擁に。
 酔いしれて。
 白濁した想いを。
 何度も、内に叩き付けて。
 いつか。
 身も心も。
 自分の色に。
 染め上げて。 
 しまえれば、良いと。
 そう。
 願いながら。




 離さない、と。
 眠っていても尚、強い力で。
 絡み付く腕を、解いて。
 そっと。
 その、暖かい檻から抜け出す。
 覚束無い、足取りで。
 それでも、悟られることなく、部屋を出て。
 そろりと。
 閉ざした襖の前から、足を踏み出せば。
「・・・・・今夜は、随分と手荒い・・・」
 声に。
 俯き加減だった顔を上げれば。
 微かな月明かりに。
 佇む、長身。
「・・・・・大丈夫か、師匠」
 気遣いからか、伸ばされた手を。
 そっと、拒んで。
「平気・・・・・だよ」
 無理に抉じ開けられた身体は、まだ痛みを訴えているけれども。
 それ、よりも。
「ごめん・・・・声、抑え切れなくて・・・眠れなかったよね」
 痛い、と。
 涙を流す、それを。
 隠すように。
 微笑めば。
「・・・・・若、は・・・お主を傷つけるつもりなど・・・」
「うん・・・分かってるよ」
 分かって、いる。
 彼の心も。
 その、傷口から。
 赤い涙を、流していたこと。
 だから。
「心配、しないで・・・・俺は、天戒が好きだから」
「・・・・・」
「だから・・・・・」
 その、痛みさえ。
 甘く。
 愛しい。
「俺も・・・・・天戒を、傷つけるような事は・・・」
 しない、とは。
 自分が前を向いて生きていこうとする限り。
 断言は、出来ないけれど。
「済まん・・・」
「どうして、尚雲が謝るかな」
 おそらく。
 つい最近仲間となった、飛水の抜け忍を名乗る男のもとを訪れて。
 明け方まで、戻らなかったことを。
 主人に、告げたのは。
「・・・・・何も、なかったのにね・・・」
 少なくとも。
 彼、を。
 裏切る事は。
 しない。
 今までも。
 これからも。
 それだけは。
「どうか、若を・・・」
「だから。頼まれなくったって、離れたりしないよ」
 何かに、誓うものではないけれども。
 もし、誓えと言うのなら。
 自分自身に。
 刻もう。
「尚雲や、天戒だって知らないくらい・・・俺は天戒を」
 愛している、と。
 それは。
 紛うことなき、真実。
 自分の。
 心、全て。
「・・・・・安心、して・・・・・じゃ、おやすみ」
 まだ、何か言いたげに。
 それでも、上手く言葉を見いだせずにいる、九桐の横を
擦り抜けて。
 夜が明けるまでの、数刻。
 それだけあれば、まともに動ける程度には回復出来るから。
 足手纏いには、ならない。
 天戒の、ために。
 それが。
 全て。
 自分が欲して。
 手に入れた。
 だから。

「繋ぎ、留める・・・から」

 もっと。
 いっそ、壊れるくらいに。

 求めて。
 欲しい、から。

「そのため、なら」

 何だって。
 出来る。




嫉妬に狂う・御屋形様(悦)。
・・・・・若いね・・・(微笑)。
某抜け忍と一夜を過ごしたのは事実ですが
やましいコトは、ナニもしてません、一応(念押し)。
っつーか、わざとですか・・・龍斗(怯)??