灯りを落として。
 口付けの余韻の覚めぬ内に、龍斗を抱き上げて寝所へと続く襖を
開けて。
 早朝の、急な任務だったため、敷かれたままの布団へ。
 そっと、横たえ。
 その傍らに膝をつき、胸元で結んだ紐を解けば。
 カチャリと鎖が無機質な音を立てて。
「・・・・・村正・・・」
 背の刀を下ろせば、上体だけ起こした龍斗が、怪訝そうにこちらを
眺めている。
「寝てる時も、外さないのかと思った・・・・」
 そう言って、クスリと笑うのに。
「そこまで器用ではない・・・・」
 フ、と笑い返して。
 鎖に封された刀を枕元に置き、羽織を脱ぎ捨てて。
「龍」
 まだ、互いの肌は曝さないままに。
 ゆっくりと、下半身を縫いとめるように体重をかければ。
「・・・・・」
 すぐ、脇の。
 妖刀が、やはり気に掛かるのか。
 霜葉を受け入れるように、首に腕を回しながらも、不安げに視線を
泳がせるから。
「あれ、が・・・・・恐ろしい、のか?」
 村正にチラリと目を向けて。
 また、龍斗を返り見れば。
「・・・そう、じゃない・・・」
 困ったように、顔を逸らして。
「龍・・・」
 背から外したとしても、あまり遠くへ置いてはおけない。
 魂を喰らう刀だ。それが、手を伸ばせばすぐ届くような処にあっては
確かに怯えてしまうのも無理はなかろうと。
 宥めるように、両手で頬を包み込むようにして。
「あれには、何も・・・させぬ。・・・・・怖がることはない」
 視線を戻して。真直ぐに見つめて、そう囁けば。
「・・・・・怖く、ないんだ・・・・けど」
 逡巡するように伏せた目を。
 そろりと、上げて。
 夜目にも、それははっきりと。
 朱を敷いた、貌で。
「視られてる・・・・・恥ずかしい、よ」
 キン、と。
 瞬間、高い音を立てたのは。
 村正、だったのか。
 それとも。
「・・・・龍」
「あ、ッ・・・・・」
 戸惑いを乗せた唇を、塞いで。
 ゆっくりと。
 着物の合わせを、寛げて。そっと。
 手を、滑り込ませれば。
 途端、ヒクリと跳ねる身体を。
 宥めるように。確かめるように、手を這わせ。
「・・・・・すぐ、に」
「・・・・ッん・・・・・」
 帯を解き、自分も着物を落として。
 肌を。
 合わせて。
「余計なことは・・・考えられぬように」
 触れあう、そこから。
 じわりと沸き上がってくる、熱を。
 逃さぬように、ひとつひとつ。
「・・・あッ・・・・ん、霜葉・・・・ッ」
 辿るように。
 白い、肌に。
 幾つも散らす、朱の印と。
「龍・・・・龍・・・・・」
 名を。
 欲に掠れた声で。
 何度も、呼んで。
「ん、あ・・・・ッい、や・・・・・」
 熱の集まる場所に、触れて。
 そっと握り込めば。
 ふるふると首を振って、微かな抵抗を見せながらも。
 それでも、完全な拒絶など、なく。
「・・・良い、のか・・・・?」
 聞けば、戸惑ったように瞳を揺らして。
 眦に溢れそうな涙を、舌先で拭えば。
 また、小さく震える身体と。違う色の涙を流す、それを。
 包み込むように。愛撫を重ねて。
 解いた帯が腰に絡まって、辛うじてその辺りだけを覆うだけの
浴衣の裾を割るようにして。
「・・・・ッ」
 自分の身体でもって、脚をその付け根から。
 大きく、圧し開けば。
 溢れる体液が伝い降りた、そこは濡れそぼっていて。
 霜葉の先走りの滑りも手伝って、軽く押し当てた先端さえ、すぐに
飲み込んでしまいそうに、ヒクヒクと。
 息づく蕾に。
 誘われるように、ゆっくりと。
「あ、ッ・・・・・・霜、葉・・・・ッ」
 龍斗の内へと。
 半身を、潜り込ませ。
「く、ッ・・・・」
「は、・・・・ッん・・・・・んッ」
 だが、その狭さに阻まれて。
 強引に押し進めようにも、苦し気に身を震わせる様子に。
 壊してしまうのではないかという、恐れと。
 それでも、首に縋り付き、何とか霜葉を受け入れようとする
意志を伝えるかのように。
 濡れた睫毛を震わせながらも。
 逸らさない、瞳に。
 どうしようもない、愛しさを。
「・・・・・龍・・・・大丈夫だ・・・・」
 伝えるように。
 額に。目元に。頬に。
 そして、唇に。
 口付けを落とせば。
「・・・・・ふ、・・・ッ」
 そろそろと、息を吐いて。
 強張った身体を、少しでも弛緩させようと。
 ゆっくりと、呼吸を繰り返せば。
 ふ、と。
 戒めを解かれたように。
「ッ龍・・・・」
 フワリと溶けた、そこに。
 一息に。
「ッあ、あああァ・・・・ッ」
 押し進めて。
 一番、奥まで。
 全部、その内へと。
「・・・・・あ、つ・・・・い」
 収めてしまえば。
 熱い内壁が、それを待ち望んでいたかのように、しっとりと
絡み付いてくるから。
 その感触に、目眩のような快楽が迫ってくるのを。
 躱すように、身を引いて。
 縋り付く秘肉に先端だけを絡みつかせ。
 そしてまた、新たな快感を。
 揺り起こす、ように。
 突き上げれば。
「や・・ッそ、こ・・・・・」
「・・・ああ」
 途端。あからさまに、跳ね上がる身体と。
 戸惑ったような貌に。
 得心したように。
「ここ、だな・・・・」
 龍斗が反応を示した部分を、確実に掠めるように。
 何度も揺さぶり、突いてやれば。
「な・・・ッい、や・・・ッも・・・・・だ、め・・・・」
 漏れる声に。吐息に。
 明らかに、艶めいたものが混じりだす。
「・・・・龍」
 それに煽られるように。
 激しく打ち据えれば。
 振動に合わせて不安定に揺れていた脚が、そろりと。
 霜葉の腰に、絡んで。
「・・・んッ・・・ふ・・・・ッん・・・んん」
 強請るような、それも。
 無意識の所作なのか。
 快楽に溺れる2人には、それは最早どうでも良いことで。
「霜葉・・・ッ霜葉・・・・・・ァ」
 回された腕に、引き寄せられて。
 請われるままに、吐息を奪えば。
 自然、深くなった繋がりに。
 また、身を震わせて。
「も、う・・・・」
 何度も痙攣を繰り返す内壁に。
 限界が近いのは、龍斗も同じで。
 すっかり勃ちあがり、張り詰めたそれに、手を添えて。
 解放を促すように、絡めた指に力を込めれば。
「ひ、ゃ・・・・ッ」
「・・・・・龍・・・ッ」
 その、刺激に。埒を開けた瞬間。
 一層きつい、締め付けに。
 グ、と。
 大きく腰を進めて。
 その最奥を突き上げて、そのまま。
 自身も、その内へと。
 激しく迸りを放って。
「く、ッ・・・・」
「ッあああァ・・・・ッ・・・」
 墜ちる。
 高いところから、一気に突き落とされたような、感覚。
 互いに。
 張り詰めたものを、ゆっくりと弛緩させて。
「・・・・・ふ・・・」
 まだ微かに痙攣を繰り返す、そこに。
 最後の一滴まで、残らず注ぎ込んで。
 大きく息を吐き、倒れ込むようにして覆い被されば。
 汗ばんだ、肌も。
 早鐘のような鼓動も。
 同じように。
 重なって。
 まだ、身体を繋げたままだから。
 本当に。
 何の違和感もなく、交わる身体。
 ひどく。
 安心、する。
「・・・・・大丈夫、か・・・・龍」
 涙の後を、舌でそっと拭えば。
 閉じていた瞳が、ゆっくりと開かれて。
「・・・・・ん、・・・霜葉、は・・・・・」
 まだ何処か、夢の世界を漂っているような。
 焦点の定まらない、目で。
 それでも、霜葉を映して。
 はにかむ、ように。
「霜葉、も・・・ちゃんと、・・・その・・気持ち、良かった?」
 そんなことを。
 訊ねて来るから。
「ああ・・・・・このままずっと、抱いていたい・・・くらいだ」
「・・・・・ふふ・・・俺も、このまま・・・・」
 そっと。
 触れるだけの、口付けを。
 とろりと眠り込んでしまいそうな、目元に。
 そして、唇に。
「・・・・・初心、だった・・・のだな」
「・・・え・・・・?」
 無意識の内に、噛み締めてしまっていたのだろうか。
 微かに、血の滲む。柔らかい、それに。
 触れて。
 ポツリと。
「・・・・・ここ、以外は」
「・・・・・あ」
 呟けば。
 途端、耳まで赤く染めて。
 両手で、唇を覆ってしまうから。
「・・・・霜、葉・・」
「・・・・済まん、おそらく・・・・嫉妬、しているのだ・・・」
 初めて、彼に口付けるのは。
 自分でありたかったのだと。
 困ったように、笑んで。
 手に、唇を落として。
 胸の内を、告げれば。
「・・・・・們天丸、が・・・」
「・・・・・・・何?」
 気まずげに視線を逸らして。
 覆った手の下。
 くぐもった、声で。
「・・・・・挨拶、だって・・・・その・・・」
「接吻を?」
「・・・・・う」
「・・・・・それ、は」
 告げた、名に。
 微かに、眉を寄せながらも。
 笑んだ、口元のまま。
「そ、・・・ん・・・んッ」
 強引に、手を剥がして。
 驚いた表情のまま、強張る唇を。
 噛み付くように。
 強く。深く。
 息も、奪い尽くすように。
「・・・・・・は、ッ・・・・」
 微かに血の味のする、それを。存分に、味わって。
 銀糸を引きながら、ようやく解放すれば。
 新鮮な空気を求めて、喘ぐのを。
 見下ろす表情は、震える程に。
 怜悧で。
「・・・こういう・・・挨拶だった、のか・・・?」
 声色は、あくまでも優しく。
 それでも。
 そこに滲む、狂おしいほどの。
「・・・・・不意打ち、で・・・あいつとは、一度だけで」
「・・・・・あいつと、は?」
 その言葉に。
 別の。
 存在を。
「・・・・・鑑定料の、代わり・・・だって・・・」
「・・・・・・・」
 即座に。
 涼しげに微笑む、厚顔を。
 しっかりと。
 その不埒な輩を、胸に刻み付けて。
「・・・・・霜葉・・・・」
 怯えたように、見上げてくるのを。
「だが・・・・・これ、は・・・もう、俺のものだろう・・・?」
 今度は。
 穏やかな笑みに変えて。
 長い指で、そっと。
 濡れて色を濃くした、唇を辿って。
「・・・・そうだろう・・・龍」
 囁くように。
 問えば。
「・・・霜葉の、・・・ものだよ」
 指先を、ペロリと舐めて。
 その、答えに。
 満足げに、頷いて。
「ならば。ここ、も・・・」
「ッ・・・」
 そのまま。
 顎から、首筋へ。
 ゆっくりと、胸の突起を掠めて。
 少しずつ。
 確かめるように、肌を撫でるように。
「ここも・・・全部・・・・・そうだな、龍」
「・・・・・ん、ッ・・・・そ、うだ・・・よ」
 やがて。
 まだ、繋がりあったままの。
 その、部分を。
 敏感な皮膚を、なぞれば。
 また、ヒクリと震えて。
 飲み込んだままの、楔を。
 その、奥へと。
 誘う、波のように。
「・・・・・全、部・・・・・あ、あァ・・・ッ」
 だから。
 望みの、ままに。
 すぐに勢いを取り戻した、自分のそれを。
「俺以外に、・・・・許すな」
 与えて。
 欲しがる、ままに。
「んッ・・・霜葉・・・・霜葉・・・・・」
 その、声で。
 呼ぶのは。
 自分だけであれ、と。
 祈りにも似た、気持ちで。
 想いを、自覚してしまえば。
 通じ合って、しまえば。
 もう、とめどなく。
「龍・・・」
 求めてしまえば。
 きりがなく。
「霜、葉・・・・ッも、・・・っと・・・・」
「・・・・・た、つ・・・」
 それ、は。
 自分だけでは、なくて。
 互いに、だから。
 そこに、空虚は生まれることなく。
 身体だって。
 こんなにも、もう。
 触れて。
 重なって。
 繋げて。
 満たされている、から。

「・・・・・そうだ、な」
 もう、他の何も。
 ここには。

 お前も例外ではない、と。
 目、で。
 傍らの刀に告げれば。
 何やら激しく抗議をしていたようではあったけれども。
 そんなものは。
 もう。
 届かない、ところに。
 ふたり。


 後日。
 あくまで、霜葉の預かり知らぬところで。
 妖刀の、そのやり場のない憤りの鉾先が向けられたのは。
 まんまと、してやったつもりの、天狗と忍者だったらしいと
いうのは。
 勿論、龍斗も知らない話。
 



・・・長ッ(呆然)!!
『霜葉×龍斗の初夜』をと書いている内に・・・あああ(怯)。
今まで他人に執着がなかった分、いざとなるとかなりアレな
コトになると思うのです・・・霜葉(悦)。ふふ。
村正には気の毒ですが、やはりナマの刀(何)には勝てないと(爽笑)!!
そして、更に哀れ・・・・天狗と忍者(笑)。
ふたりが奪ったのは、上の口だけです念のため(待て)。