『声』
その、手が。
好き、だと思う。
その、手で。
触れて欲しいと、思った。
「・・・・・ッ」
「・・・どうした」
不意に、乾いた手の平が頬を撫でる感触に、龍斗は思わず
息を飲み、後ずさるように上体を逸らした。
宙に置かれたままの、その手を。
そして、その手の主を。
弥勒を、まじまじと見つめる。
「ど、うした・・・って・・・・・」
それは、こちらの台詞。
いきなり、触れてくるなんて。
いきなり。
「思い過ごしだったか・・・いや、そうなのか・・・ふむ」
やがて、戻した手を顎に添えて。独り呟きながら考え込む
弥勒に、怪訝な目を向けてしまえば。
「・・・・・済まなかった」
「え、・・・何か、良く分からないんだ、けど・・・・・何?
思い過ごし、とか・・・って」
「・・・・・ああ」
普段余り表情に変化のない弥勒の貌に、微かに苦笑めいた
ものが浮かぶ。
「君が、・・・触れて欲しいと、言っているような気がした」
「・・・・・・・ッ ! 」
「気の、せいだった・・・と思う。済まない」
違う。
気のせいなんかじゃない。
呆然と弥勒の端正な横顔を見つめながら、龍斗は声にならない
叫びをぶつけた。
触れて欲しいと、思っていた。
その、手に。
力強く、そして繊細な。
その手で。
「・・・・・例えば、この木だ」
「・・・?」
床に据えられた作りかけの面を、弥勒はそっと抱え上げると、
龍斗の前にかざしてみせる。これは、鬼の面だろうかそれとも。
弥勒の手によって、どんな貌を見せてくれるのだろうか。
「これは、鬼面となる・・・そうなるよう、俺が彫っていくのだが
・・・だが、それだけではない」
ゆっくりと、面を龍斗の座る床の上に置き、その表面を手の平で
確かめるように撫でる。その手の動きに何故か胸の内がざわついて
龍斗は思わず顔を上げると。
そこには、弥勒の真摯な瞳があった。
真直ぐに。
視線が、絡み合う。
「・・・・・声が、聞こえる」
「・・・・・な、に」
「この木が・・・・・俺に語りかける。どういう面に作り替えられ
たいのか、訴える・・・声が、聞こえる」
本当に、そうなのだろうと龍斗は思った。
不可思議な、ことだけれども。
それでも、弥勒にはやがて面となる木の声が聞こえている。
聞こえる、のだと。
「その声と、・・・俺の意志とが通じ合って、初めてこの木がどんな
面になるのかが、決まる」
「・・・・・そう、なんだ」
弥勒と木の、双方の意志が絡み合って生まれる、面。
成る程、と感心しながら龍斗が漏らした声は、何処か乾いていて。
自分の発した声色の固さに、龍斗は驚いたように目を逸らした。
このまま、弥勒と視線を交わしていたら。
聞こえて、しまう。
ジリジリと胸を焦がす、この。
「・・・・・龍さん」
「ッ、・・・・・」
頬に。
触れる、手の平。
「ま、た・・・また、聞こえたって言うのか、俺が・・・・・」
「・・・・・いや」
払い除けようと、して。
だけど。
もっと触れていて、と。
望んでしまう、のは。
「俺が、・・・・・触れたいと思った」
「な、・・・・・」
「龍さんに、・・・・・触れたい」
ゆっくりと。
それは、確かな意志を持って。
滑らかな頬を辿り、親指が微かに開いた唇に触れる。
その、くすぐったいような奇妙な感覚に、微かに肩を震わせれば。
翳る、視界。
目を閉じる暇も、なく。
指先ではない、柔らかな熱いものが。
龍斗の唇に、触れた。
「・・・・・龍さん」
掠めるようにして、離れていく熱。
それに追い縋るように、頬に添えられた手を濡らす。
透明の、雫。
「・・・・・弥勒」
指先が、それを拭うように目元を辿り。
そのまま髪を梳き、大きな手の平が頭を抱き寄せて。
押し付けられるように、弥勒の肩口。
龍斗は顔を埋め。
「弥勒・・・・・」
ただ、名を。
何度も。
「俺が、こうしたいと・・・思うように、君も・・・・・」
確かめるように、ゆっくりと囁きかけられる言葉に、頷いて。
その広い背に、腕をまわす。
「抱き締められたい、・・・・・抱き締めたいんだ」
ようやく、口にすれば。
耳元、微かに笑った気配がして。
「・・・・・気のせいでは、なかったな」
片方の腕が、強く。
その肢体を、抱く。
そして、互いに。
互いが望む、ままに。
「もっと、・・・・・」
互いを。
求める、ままに。
サト●レ・・・?←違います
龍斗の『声』が聞こえたのは、弥勒も同じコトを
望んでいたからなのですv
以心伝心・・・?←こっちが正解に近いかも
弥勒の手、かなり器用そうだし鍛えられてるしで
ウハウハですね(何)!!