『子供以上、大人未満』




 大人、じゃない。
 子供、でもない。
 とても。
 微妙な。



「・・・・・ふー・・・」
 今日も1日、よく歩いた。
 徳川の馬鹿狗共に、1発蹴りも入れたし。
 適度に疲れを訴える身体に、村外れから湧き出る温泉の、
熱い湯は心地良く。
 風祭は、それこそ独り鼻歌でも披露してしまいそうな程
御機嫌な様子で。
 だが、それは。
 突然、開けられた引き戸によって。
「な、ッ・・・・・!?」
「ああ、澳継だったのか」
 立ち篭める、湯気の向こう。
 手拭いを腕に掛け、湯殿に入って来たのは。
「た、たんたん・・・・・ッ何で、てめェがッ!!」
 ザバッと、湯舟から立ち上がり。
 人さし指を、真直ぐに龍斗へと向ければ。
「俺が一緒だと、何か都合悪い?」
 クスリ、と。
 試すように微笑むのが、気に喰わなくて。
「せ、狭くなるだろうがッ!! 俺は独りで、ゆっくり入るのが
好きなんだッ!!」
 言い捨てて。
 龍斗に、背を向ける形で。
 激しく飛沫を立てながら、再び湯に身体を沈めれば。
「・・・・・そう」
 異論も、反論もなく。
 そろりと、腰を下ろす気配に。
 肩越し、ちらりと返り見れば。
 板を張った床に膝をつき。
 手桶に掬った湯で、身を浄める龍斗の。
 白く、しなやかな。
 裸体、が。
「・・・・・ッ」
 濡れた、肌が。
 湯で暖められ、ほんのりと上気していく様に。
 知らず。
 目を、奪われて。
 コクリと。
 喉、が。
「・・・・・澳継」
「ッな、ななな何だ、よッ!!」
 不意に掛けられた声に。
 もしや、聞かれてしまったのかと。
 焦り、あからさまに上擦ってしまった声で。
 それでも、背を向けたままに。
 応えれば。
「ちゃんと、肩まで湯に浸からないとね」
「・・・・・な、ッ」
 やはり、その。
 年長者、ぶった。
 今も口元に敷いているであろう、微笑みも。
 口調にも。
 どうしても、苛つかされて。
「俺を子供扱い、するなァッ!!」
 勢いよく、立ち上がり。
 真直ぐに龍斗の方に向き直って。
 再度、指を突き付ければ。
 一瞬。
 呆気に取られたような、顔で。
 だけど。
 それは、すぐに柔らかい笑顔に摺り替えられて。
 どうして。
 綺麗だ、と。
 思ってしまうのだろう。
「・・・・・そう、だね」
 しかし、柔らかなそれは。
 いつもとは、微妙に違って、何処か。
 含みの、ある。
「ちゃんと、成長してるみたいだし?」
 笑みを、口元に浮かべ。
 その、黒目がちの大きな瞳が。
 ゆるりと、その視線を移した先、は。
「あ?・・・・・ッあああああああ」
 龍斗の、目の前に。
 しっかり曝してしまった、己の。
 そこ、は。
「元気だね」
「ち、違うッ・・・・・これは、別にたんたんの裸を
見て、こうなった訳じゃ・・・」
 拙い言い訳は。
 そう、なったと。
 いっそ、言っているようなもので。
 慌てて背を向け。
 湯舟に深く身体を沈めるけれど。
 知らず、昂らせていたものを。
 龍斗に、見られてしまったのは。
 もう、今更どうしたって。
「あああああもう、何だってこんな事に・・・」
 頭を抱えて、苦悩したところで。
 そう、なってしまったものは。
「・・・・・しょうがない、ね」
 湯の表面が、揺れ上がって。
 すぐ、後ろから。
 笑いを含んだ、声が。
「た、ッ・・・・・」
 いつの間にか、真後ろで龍斗が湯に浸かっているから。
 振り向きざま、湯舟の中。
 驚いて、壁際まで後ずされば。
「もう、大人・・・なんだよね」
 濡れた前髪から、覗く瞳に。
 揺らめく、艶めいた光に。
 湯を弾く、張りのあるほんのりと色付いた肌に。
 囚われそうで。
 壁に背を預け、思わず仰け反れば。
「あ、ッ・・・・・」
 若さに、はち切れんばかりに反り返った、風祭の雄が。
 その先鋒を、覗かせるのに。
「すごい、・・・・・」
 それ、を。
 龍斗の、格闘術の使い手とは思えぬ程、繊細な指が。
 包み込むように。
 捕らえてしまって。
「ッ・・・・・」
 触れる、その刺激だけで。
 達してしまいそうなのを、歯を噛み締め堪えて。
 白い手に包み込まれて震える、己の欲望を。
 視界に入れるのが、恐ろしくて。
 目を、逸らせば。
「・・・・・ふふッ」
 敏感な、剥き出しのそこに。
 掠める、吐息と。
「な、ッあ・・・・・」
 瞬間。
 濡れた暖かい、ものに。
 包まれて。
 痺れが走るような、感覚に。
 視線を戻せば。
「た、・・・・・」
 風祭の、股間に。
 顔を埋めるようにして。
 勃ち上がったものを、その口に銜え込む。
 龍斗、が。
「な、何し、ッあ・・・・・」
 柔らかい先の部分だけを、唇で挟むようにして。
 チロリと。
 先端の窪みを、尖らせた舌でくすぐられれば。
 背筋を一気に駆け上る、未知の快感に。
 目眩すら、感じて。
「や、めろ・・・ッ」
 震えてしまう、手で。
 どうにか、龍斗の髪を掴むようにして。
 引き離そうとするけれども。
「ん、ッ・・・・・」
 鼻に抜けるような、溜め息ともつかぬ声。
 長い睫毛に縁取られた瞳が、上目遣いに。
 こちらを、見遣るのに。
 心臓が、激しく脈打ち。
 それが。
 龍斗の口の中で、固さを増す風祭自身にも。
 あからさまに。
「嘘、だ・・・・・ッ」
 これでは。
 まるで。
 自分が、龍斗に。
 欲情、している。
 それを、認めてしまうには。
 余りにも。
「俺、は・・・・ッく・・・・」
 けれど。
 ゆるりと、頭を揺らす動きで。
 口腔内の粘膜に、擦られて。
 奥まで飲み込まれた、敏感な部分を。
 喉が、締め付けるように。
 する、から。
「う、ッく・・・・・あああッ」
 未だ体験した事のない、凄まじい快楽に。
 遂に。
 埒をあけて、しまって。
 堪らず、髪を鷲掴みにして龍斗の口から解放すれば。
 まだ、ドクドクと迸る白濁が。
 紅く染まった唇を。
 薄桃色に染まった、頬を。
 汚す、のに。
「ふ、ッあ・・・ァ」
「・・・・・う、・・・・・」
 その、様に。
 感じた、のは。
 嫌悪。
 だけでは、なく。
 これ、は。
「・・・・・気持ち良かった・・・?」
 口元を伝う、体液を。
 紅い舌が、拭う。
 何処か、恍惚としたその表情は。
 見たことの、ない。
「じゃ、ね」
 不思議な。
 生き物の、ようで。
 顔を拭った手を、湯で漱いで。
 スイ、と。
 何事もなかったかのように、背を向け。
 湯から上がろうとする、のを。
「・・・・・ッ待てよ」
 後ろから。
 縁に押し付けるようにして。
「澳、継・・・・・?」
 腰を掴み、引き寄せれば。
 驚く程、それは細く頼り無げで。
 触れた先から、吸い付くような肌理の細やかさに。
 熱、が。
 急速に、高まって。
「待って、澳継・・・・・」
 小ぶりな双丘に、押し当てられたものが。
 その隙間を広げるように、精を漲らせていくのに。
 驚いたような。
 微かに、怯えたような貌が。
 肩越し、振り向いて。
 目が、合うのを。
 引き金のように。
「澳・・・や、ッああああァ・・・ッ」
 勢いの、まま。
 辿り着いた、蕾を。
 放ったばかりの体液の、僅かな滑りだけでもって。
 強引に、開かせて。
 性的な知識は、豊富な訳はなく。
 実践でだって、まだ。
 女も、まして男を抱くという行為に。
 どうすれば、良いのかなんて。
 全く。
 風祭には、分からなかったけれど。
 考えるより、先に。
 身体が。
 むしろ、考える余裕等あったならば。
 ここまで。
 することは、なかったかもしれない。
「・・・・・ッ澳、継・・・」
 衝動のままに。
 自身を、その内に全て収めてしまって。
 狭く、そしてきつく締め付ける内壁に。
 性的な経験においては、未熟であるが故に。
 そのまま、動けずに。
 収縮する肉襞が与える、強烈な快感だけで。
 昇り詰めそうに、なるけれども。
「た、・・・・・つと」
 そろりと。
 名を、口にすれば。
 ゆるゆると、首を振るのは。
 何を。
 訴えている、のか。
「・・・・・龍斗」
 どうしたら、良いのか。
 分からずに。
 悩んでしまえば。
 ただ、突き入れようとしただけの、頭に昇った熱情が。
 その温度を、ゆるやかに鎮めて。
「どう、・・・・・したら良い?」
 触れる、龍斗の身体も。
 血の気を失って。
 白く。
 泣きたくなる、くらいに。
「どうしたら・・・・・お前を、楽にしてやれる?」
 こんなことで、壊れてしまうとは思わないけれど。
 でも。
 常の龍斗からは、想像もつかぬ程に。
 深々と貫かれ、小刻みに身を震わせる様は。
 儚げに、見えて。
 いっそ。
 身を離してしまった方が良いのかも知れないと。
 腰を、引きかけて。
「そ、・・・・・」
「・・・・・何?」
 それさえ、刺激になって。
 龍斗は身を打ち震わせ。 
 風祭自身をも、また締め付けてくるのに。
「そう、して・・・・・動いて・・・」
「動、く・・・・・?」
 耳に唇を寄せるようにして、聞き返せば。
 また、じわりと奥へと挿し込まれる形となってしまって。
 龍斗が、しなやかに背を反らせ。
「中、で・・・・・動いて・・・ゆっくり、で・・・良い」
 途切れ途切れに。
 震える声で。
 そう。
「・・・・・き、て・・・・・澳継」
 強請る。
 言葉に。
 誘われる、ように。
 そんなことをしたら、この驚く程華奢な生き物は。
 壊れてしまうのでは、ないかと。
 風祭を躊躇させていた、龍斗を気遣う思いすら。
 打ち壊してしまう。
 恐ろしく、蠱惑的な。
「く、そ・・・・・ッ」
 誰が。
 こんな、『もの』を。
 作りたもうたのか。
「あ、あああァ・・・・ッ」
 請われる、ままに。
 引きかけた腰を、また。
 躊躇いもなく、打ち付けて。
 擦り上げる度、生まれる快感と。
 それを貪欲に求めてしまう、若さに。
 そんな少年の性を。
 受け入れ、更に強請る。
 壊される、のは。
 むしろ。
「龍斗、ッ・・・・・」
 上擦った、声で。
 名を、呼び。
 そのまま。
 龍斗の内に、激しく迸って。
「んッ、・・・・・あ、ァ・・・・・ッ」
 自分の熱で、満たせば。
 ヒクリと震え、龍斗もまた自身を解放して。
「・・・澳、継」
 ゆるりと弛緩し、崩れていく身体を。
 咄嗟に、受け止めて。
「ッ、・・・・・」
 ついぞ。
 触れなかった、唇に。
 自分のそれを、ぶつけるように。
 合わせて。
「も、・・・・・子供扱い、させねェぞッ!!」
 途端。
 顔を、真っ赤に染めて。
 ピシリと、宣言するやいなや。
 龍斗を、その場に残し。
 湯殿から、駆け出して行くのに。
「・・・・・そういうところが、子供なんだけど・・・ね」
 ぐったりと。
 縁に寄り掛かるように。
 湯舟に、身を浸せば。
 暫くの後。
「ッ、たーさん!?」
 不意に。
 ガラリと戸が開いて。
 疲労し切ったような龍斗の姿を見るや否や。
 着物が濡れてしまうのも厭わず、駆け寄って来たのは。
「・・・・・桔梗」
 そろりと、顔を上げて。
 覗き込んで来る、心配げな瞳に。
 柔らかく、笑んで。
「何でも、ないよ・・・・・」
「・・・・・さっき、廊下で擦れ違った坊やの様子がね、
何だか・・・おかしかったから・・・こんな、たーさんを
置いて出ていくなんて」
 薄情な子だねぇ、と。
 濡れて額に張り付いた、龍斗の前髪をかきあげながら。
 溜め息をつくのに。
「・・・・・もう、子供じゃ・・・ないんだね」
「え、・・・・・坊やが、かい?」
「迂闊、だったよ」
 まだ、子供だからと。
 高を括っていた。
 あの行為も。
 最後の。
 口付け、にも。
 隠しきれなかった。
 それ、は。
「・・・・・でも、大人には・・・まだ早かったかな」
 クスクスと。
 笑う、龍斗を。
 やや、困惑の面持ちで眺める桔梗は。
 もしや、と思いながらも。
 敢えて。
 それは、追求しない事に決めて。
「あんまり長湯すると、綺麗な肌がふやけちまうよ」
「うん、心配させてごめん」
 ゆっくりと、湯から上がって。
 桔梗の着物を濡らさないようにと。
 そろりと掛け湯をする、龍斗の。
 下肢に、微かに伝うものを。
 やはり。
 見なかった、振りをして。
 出て行く白い背を見送り。
 ポツリ、と。
「・・・・・お赤飯でも、炊かなけりゃ・・・かねぇ」
 でも。
 子供では、なくなっても。
 大人では。
 まだ、ないのだと。
 龍斗も。
 言っていた、から。

 それは。
 もっと。
 身体だけでなく。
 心、も。
 ちゃんと。
 大人になったと。
 龍斗、が。
 認めた、日には。

 その日は。
 まだ。
 もう少し。
 先の。
 
 
 


中出しヤり逃げ(待て)。や、さすがに事後始末
する風祭は・・・・・どうにも(苦笑)。
恋を自覚する前に、身体の方が先に反応した
模様(微笑)。若さ故ですかね・・・(遠い目)。
ともあれ、筆下しも済ませたことですし、改めて
御誕生日おめでとうなのよ、風祭澳継クン(爽笑)!!