『胡蝶』



「・・・退屈」
 ふァ、と大きな欠伸を、ひとつ。
 しなやかな身体を畳の上に横たえ、伸びをして。
 澄んだ大きな瞳を悪戯っぽく瞬かせて、誘うように
微笑いかける。
 猫のように、気紛れで。
「遊んで」
 時に。
 犬よりも従順な。
 そんな彼も、見ていたい。
 けれど。
「・・・・・今は、駄目だと言っただろう?」
 甘やかな誘惑を、躱して。
 手元の書物から、視線は外さない。
 不意打ちに、訪れた彼を。
 取りあえず、部屋に上げて。
 読書中は、おとなしくしている、こと。
 そう、約束して。
 素直に頷いたのだから。
「菓子が足りなければ、あちらの部屋に確か・・・」
「お腹は、一杯」
「・・・・・」
 こっそりと溜め息をついて、横目で彼を伺えば。
 いつのまにか、すぐ傍らに。
 腹這いのまま、擦り寄って来ていて。
 頬杖をつき、上目遣いに。
「真琴、さん」
 そうして、名を呼ぶ。
 呼ぶ、それだけのことなのに。
 逆らい難い。
 それを、知っている狡猾さ、さえも。
 どうしようもなく。
「・・・何が、お望みだい?」
「・・・・・意地悪」
 答えなど、分かり切っていても。
 敢えて、尋ねてみれば。
 笑みは、そのままに。
 何処か、拗ねたような表情。
「・・・・・欲しければ、好きにしたら良い」
「何、それ」
「君の好きにして、良いと言ったんだよ」
 ただし、僕は。
 このまま本を、読んでいるから。
「・・・・・ふ、ん・・・」
 納得したのか、彼は。
 僅かに、目を細めて。
 ゆっくりと伸びをするようにして。
 膝元に、頭を擦り寄せ。
「じゃあ、好きにする」
 だから。
 真琴さんも、好きにしてて。
「・・・・・、ッ」
 机の下、潜り込んで。
 膝に俯せで乗せられた頭の暖かさを感じた、その次の瞬間。
 下肢から駆け昇る。
 痺れるような、甘い感覚。
「く、・・・・・」
 思わず、喉を鳴らせば。
 微かに、笑ったような気配。
 吐息が、剥き出しの欲をくすぐる。
「龍、先生・・・・・」
 呻くように、名を呼べば。
 返事の代わりに、きつく吸い上げられて。
 強烈な、快感に。
 目眩さえ、感じて。
 やがて、濡れた音が静かな部屋に淫らに響く。
 上がっていく息を、止められない。
 目線は、本の字を辿るけれども。
 その殆どは、頭に入らなくて。
 もたらされる、快楽に。
 意識は、奪われる。
「ッ、・・・・・ふ、ッ」
 巧みな舌遣いに、あっけなく昇り詰め。
 生暖かな口腔に、精を吐き出せば。
 コクリと音を立てて、飲み下す気配。
 本に向けていた視線を、机の下に落とせば。
 目が、合う。
 翳りの中、瞳は微かに潤んで。
 残滓を舐め取る舌の紅さが、恐ろしく目に鮮やかに。
 そうして。
 張り付けていた理性など、いとも容易く。
 剥ぎ取られ。
 あとは、ただ。
「・・・・・おいで、龍斗」
 差し伸べた手に、しなやかな腕が絡み付き。
 搦め取られる、全て。
「遊んで、あげよう」
 ああ、きっと。
 遊ばれているのは、自分の方で。
 彼は、僕を。
 堕ちていく、様を。
 眺めて、愉しんでいるのかもしれない、けれど。
 でも。
 それでも今、腕の中の温もりは、紛れも無く自分だけのもので。
 甘い蜜を求め、内を満たせばまた別の場所へと、飛び去って行く
美しい蝶であるのだとしても。
 今、彼を満たせるのは自分だけで。
 求められる、のならば。
 幾らだって。
 与えて、やれる。
「・・・真琴さん、・・・・・あァ、ッ・・・」
 ほら、沢山。
 君の内が僕のものでいっぱいになって、溢れてしまうくらいに。
 そして、どうか。
 忘れないでいて欲しい。
 僕を。
「美味しい、かい・・・?」
「ん、・・・んッ・・・・・すご、く・・・あ、ァ・・・ッ」
 尽きる事のない、想いのままに。
 何度も、何度も。
「飽きる、まで・・・注いであげるよ」
「・・・・・飽き、るコト・・・なんて・・・な、い・・・」
 もう、味をしめちゃったから。
 だから、ここに。
 真琴さんのところに。
 来るんだよ、いつも。
「・・・・・嬉しい、ね」
 でも、僕が。
 散ってしまえば。
 君は、きっと新たな蜜を求めて。
 それでも、今は。
 今だけは、僕が。
 君を、愉しませて、あげる。
 君を、満たして、あげる。

 ねえ、初めから僕は。
 君の、ために。

 君を抱く、そのために。
 全て。
 そう、全て。

 君に、捧げる。




男喰い(ひーーーーーーッ・卒倒)。
こんなひーたんは、どうかと目眩を
起こしつつ・・・(クラリ)。
や、でも梅はナニやら自虐的妄想を
しているのですが、基本的にひーたんは
惚れた男にしか身体を許さないので
梅は、ひーたんの本命なんですよ(笑)。
魅力的な恋人を持つと、大変だネ(何)v