『既成事実』
「・・・・・ッ」
早朝。
目が覚めて、弥勒は驚きの余り、冗談ではなく
心臓が止まりそうになった。
動揺を抑え切れずに飛び起きれば、途端目の前が
グラリと回る。
重い頭の、痛みは。
どう考えても、二日酔いの症状で。
そういえば、夕べはかなり深酒をしてしまった。
酒には比較的強い方であるものの、焼酎やら清酒
やらと、それは沢山の種類を飲んで。
それは。
それらの酒類を、ここに持ち込んで。
共に、飲み明かした。
その、相手は。
その、相手が。
今。
目の前に。
「・・・・・どういう、ことだ・・・」
ふたりで、酒を飲んだ。
だが、その後の記憶が全く無い。
共に酔いつぶれてしまったのだろう、とは推測は
出来る。
だが。
この、状況は。
ただ、酔いつぶれて眠ってしまった、と。
それだけだと。
言ってしまうには。
「・・・・・」
弥勒の、布団。
そこに、龍斗も一緒になって寝ている。
それ、は。
そこまでは、どうということはない。
だが。
弥勒の姿はといえば、生まれたままの。
素っ裸、というやつで。
酔って脱いで、そのまま寝てしまったという経験は
なかったし、そうではないだろうと弥勒は思った。
いや、いっそ。
その方が、良かったのかもしれないと。
目の前、すぐ隣に横たわる。
龍斗を。
一糸纏わぬ、姿を見下ろしながら。
深々と、溜め息をついて。
お互い、何らかの弾みで衣服を脱いでしまって。
そして、眠ってしまったのだと。
それだけ、なのだと。
思おうにも。
今、弥勒の目に映る、龍斗の。
肌には。
幾つも幾つも。
それ、と思しき。
鬱血の、跡が。
「・・・・・俺、は・・・」
もしかしたら。
酒の勢いで、そういうことを。
してしまったのでは、と。
そうだとして。
互いに同意の上でのことであれば、まだ。
だが、もしも。
酔いつぶれてしまった、龍斗を。
自分が。
意識がないのを良いことに、彼を。
「・・・・・く、ッ・・・」
だが、しかし。
記憶は、きれいに抜け落ちていて。
それでも、龍斗の首筋にも残る跡は。
意識を失う前には、なかったもので。
そうすれば、これを付けたのは間違いなく、自分。
「・・・・・龍、さん・・・」
そろりと名を呼び。
心持ち震える手で、額にかかる髪をかきあげれば。
露になる、貌に。
鼓動が、高鳴る。
本当に。
美しいと。
心が、震える。
表面だけのものでは、なく。
内から。
龍斗は、光を放っているかのようで。
綺麗だと。
心から、賞賛し。
そして。
心から。
彼。を。
「済まない・・・・・」
愛おしい、と。
思う、それは。
ひた隠しにしていた、胸の内にあるものを。
こんな形で、はっきりと自覚してしまうなんて。
「好き、だ・・・・・とても」
絞り出すように。
言葉にしてしまえば。
不意に。
閉じられていた、瞼が震えて。
ゆっくりと。
花開くように。
その下から現れる、夜色の瞳に。
息を飲んで。
「・・・・・弥勒」
驚愕に固まった自分の顔が、そこに映っているのを。
動揺しながらも、奇妙な程冷静なもうひとりの自分が
眺めていて。
暫し。
互いに、見つめあってしまうのに。
「・・・・・今、の・・・ほんと?」
「・・・・・な、にが・・・」
寝起きの、やや掠れた声が。
問うてきて。
それにさえ、熱くなってしまいそうな身体を、密かに
叱咤しながら。
それでも、微かに上擦ってしまう声で聞き返せば。
「・・・・・好き、だって」
「・・・・・ッ」
聞かれて。
いた。
本来なら。
こうなる、前に。
告げなければならなかったはずの。
否、もしかしたら。
告げていれば。
こんな、ことには。
「・・・・・済まん」
「何で、謝る・・・の?」
「・・・・・好き、だというのを・・・言い訳にしては
いけない、から・・・だ」
そう。
身体を繋げた後で。
初めて。
告げる、なんて。
「君に、気持ちを伝える前に・・・俺は、君を・・・・・」
「弥勒・・・・・」
「君を、俺は・・・・・ッ」
何も伝えない、ままに。
酒に任せて、彼を。
「・・・・・ごめん、なさい・・・」
ポツリと。
龍斗が漏らした、それは。
その謝罪は。
弥勒の気持ちに対する、答えなのだろうか。
それとも。
別の。
「ちゃんと、・・・・・言ってくれたよ・・・?」
「え、・・・・・?」
ゆっくりと上体を起こし、引き寄せた掛け布団で露な肌を
恥ずかしげに覆い隠しながら。
真直ぐな瞳が。
弥勒を、捕らえて。
「好きだ、って・・・何度も何度も言いながら、口付けて
くれたよ・・・?」
そろりと。
胸元を手で辿りながら。
刻印を、弥勒の目に。
晒しながら。
「でも、・・・・・途中で・・・俺を押し倒したままで、
弥勒は・・・寝てしまった、から・・・」
「・・・・・ッ」
途中で。
だから。
それは、つまり。
「・・・・・して、ないんだよ・・・最後まで」
まだ。
彼、には。
「だ、だが・・・・・」
「だから、ごめん」
酒精の抜け切らぬ、思考のまま。
それでも、懸命に事の次第を明確にしようとすれば。
「弥勒が寝ている間に・・・既成事実作ろうと、思った」
合わせていた目を、やや伏せ。
告げた、それは。
「好きだって言ってくれた言葉を・・・酒のせいなんか
じゃなく、・・・確かなものに、したかった・・・」
「龍、さん・・・・・」
「でも、・・・そうだね、好きだからというのを言い訳に
して、そんなことしても・・・・・駄目だよね、だから
・・・・・未遂、なんだ」
伏せた目は。
長い睫毛が、微かに震えて。
涙は、零れてはいなかったけれど。
何処か。
泣いて、いるようにも見えて。
「龍さん、・・・・・それは」
「弥勒が、・・・・・好き、だから」
はっきりと。
好き、だと。
告げて。
ゆるりと上げられた瞳は、やはり泣いてはいなかったけれど。
その内に、揺らめくものは。
不安と。
そして、仄かな。
期待。
それは。
見逃したくは、なくて。
「龍さん・・・・・ッ」
逃がしてしまいたくは、なくて。
片腕を差し伸べて。
引き寄せ。
胸に、押し付けるようにして。
深く、強く。
抱き込めば。
触れる、素肌に。
ゆるやかに。
上がる、熱。
「・・・・・好きだ、龍さん・・・・・だから」
ちゃんと。
今度、こそ。
「今、・・・・・君を抱きたい」
全部、言葉にして。
告げれば。
腕に抱かれ。
頷きながら、甘い吐息と共に。
「して、・・・・・今すぐ」
囁く、から。
誘う、から。
その、ままに。
褥の上に、倒れ込むように。
肌を。
重ねて。
触れて。
「・・・・・弥勒」
口付けて。
そして。
ゆっくりと。
確実に、その熱を。
煽りながら。
確かめながら。
繋がる。
繋げる。
手を。
身体を。
心、を。
「ずっと、・・・こうしたかった」
どちらともなく、囁いた言葉は。
熱く、溶けて。
ひとつに。
なる。
二日酔いでヤるのは、どうかと思いつつ。
ま、ひとつのコトに没頭したらアレな弥勒
ですから、きっと平気なのでしょう、ええ(悦)v
襲い受けになりそこねた、ひーたんですが
まあ、乗っかるのは追々♪ナニもかも、これから
ですから・・・ふふ(微笑)v