『甘露』




「お団子、買って来たんだ」
 一緒に食べよ、と。
 偵察に出掛けていたらしい龍斗が、団子を手に弥勒の
工房を訪れて。
 作業の途中で、やや手の離し辛い弥勒に代わり、龍斗は
てきぱきと、すっかり慣れた様子で茶を煎れ、弥勒の脇に
置くと、その傍らに座して団子の包みを開いた。
「みたらし、か」
 甘辛いトロリとしたタレが、良い加減に軽く焦げ目の
付けられた白い団子にかかっていて。見た目にも、食欲を
そそった。
「美味しそうだったから。天戒たちも、今頃お茶受けに
してるんじゃないかな」
 ならば。
 彼らと共に食ってくれば良いものを、と。
 口にこそ出さなかったが、ふと顔を上げた弥勒の微妙な
表情から、それを読み取ったのだろう。
 龍斗は、フワリと笑んで。
「弥勒が、良い」
 サラリと。
 告げられた言葉に、その意味を計りかねて怪訝な目を
向けてしまえば。
「・・・・・嫌?」
 やや首を傾げるようにして。尋ねてくる、その仕種が。
 妙に可愛らしくて、だからといってそんな事は口には
致しかねて。
 弥勒が、そんな不可思議な思いを振り払うように、首を
そろりと左右に振れば。そう、と1人納得したように。
「美味しいね」
 微笑んで。
 串を手に取り、団子をパクリと口に入れると、暫し咀嚼
した後に、また小首を傾げて言うのに。
 弥勒は、奇妙に高鳴る鼓動を押し隠すように、同じように
串を手に取り、団子を齧り取ると徐に頷いてみせた。
「・・・・・ああ、旨いな」
「ふふ、良かったー」
 弥勒の答えに、また。
 見せる、嬉しそうな笑顔に。
 薄暗い工房に、陽が差したようにようにさえ感じる。
 眩しさに。
 目を、細めて。

 2人で食べるにしては、些か串の数が多いように見受け
られたのだが、弥勒が1本食べ終わるまでに、龍斗は2本
3本と軽く平らげて。そういえば、この少年は殊の外甘い
ものが好きだったな、と瞬く間にその腹に収まっていく団子
を見遣り、そして。
 もぐもぐと絶えまなく口を動かす龍斗を。
 その。
 口元を。
 濃い飴色の、タレが。
「龍さん」
 伝いそうになるのに。
 ああ、汚れてしまうと。
 思って、拭おうとした己の指先が、木屑に塗れているのを
ぼんやりと意識しつつ。
 これでは駄目だな、と。
 ならば、どうするかと考えるより。
 先に。
 身体が。
「弥勒、・・・・・ッ」
 動いて、しまった。
 怪訝そうな龍斗の瞳が、間近で大きく見開かれているのが
見えて。
 そして、舌に残る。
「・・・・・甘い」
 そう、感じたままに呟いて。
 呆然とした龍斗の唇か、何か言いたげに開いては閉じる、
その様にさえ。
 強く。
 逆らい難い、甘美な。
「ん、・・・・・ッ」
 衝動。
 その、ままに。
 今度は確かに、触れて。
 合わさった、唇。
 もっと味わいたい、などと。
 そんな、飢えた獣のような欲求を自覚しながらも、一度
触れてしまえば、離すことが出来ずに。
 唇で、舌で。
 濡れた音を立てながら、何度も。
 深く、まで。
 やがて、驚きに見開かれていた龍斗の瞳が、蕩けるように
ゆるりと伏せられて。
 白い手が、肩に。
 そして、背に縋り付いてくるのを合図とするかのように、
弥勒は覆い被さるように身を倒し、その身体を自分の下に
組み伏せた。
「・・・弥勒」
 見上げてくる瞳は、やや熱を帯びたように潤んで。
 その、微かに朱に染まった目元に、名を紡ぐ濡れた唇に。
 口付けて、そっと。
 もう一度、龍斗の貌を確かめるように、顔を上げれば。
「・・・・・お腹、空いてるの?」
 そんな。
 この場の空気には、似つかわしくないかもしれない言葉を。
 それでも。
 弥勒は、ゆるりとその薄い唇に笑みらしきものを敷いて。
「ああ、・・・・・酷く、な」
 告げれば。
 龍斗は、しょうがないなぁ、と。
 苦笑混じりに呟いて。
「食べて」
 背に回した腕が。
 誘い掛けるように、引き寄せて。
「いっぱい、・・・・・食べて」
 何処か、無邪気な口調とは裏腹に。
 浮かべた微笑みには、確かに。
 同じ、欲。
 飢えた。
 色。
「・・・・・食らうぞ、全部」
「・・・ふふ」
 笑った吐息が、やがて甘やかなものへと変わる。
 それさえも、貪って。
 剥き出しの白い喉に、食らい付くように歯を立てて。

 そのまま、互いに時を忘れて。
 求めるまま、求められるままに。
 互いを、満たした。





誘い受け(きっぱり)v
「俺を食べて…強く齧って」なカンジで(某式神風に)v
みたらし団子の比ではなく、美味だと思われますv
・・・・・食いてぇ!!!!!!!!!!←魂の叫び
それはともかく、弥勒さん御誕生日おめでとう(笑)♪