『快楽遊戯』



 想い人の、気配なら。
 いつだって、どこだって。
 すぐに判る、けれど。
 そろりと近付く、それを。
 今は。
 気付かない、振り。

「・・・・・ッ」
 不意に暗くなる視界。
 というか。
 目が。
 其処だけが、何かに覆われて。
 暖かい。
 手のひらの。
「・・・・・驚かせないでくれ、龍先生」
 目を塞がれたまま。
 溜息と共に、漏らせば。
「嘘、ちっとも驚いてなんかないくせにー」
 どことなく。
 拗ねたような、そんな口調で。
 やがて、ゆっくりと開かれる視界。
 差し込む光に、細めた目を。
 何度か瞬きすれば、明るさにようやく馴染んで。
 振り返れば、そこにはやはり。
 少しだけ。
 子供のように、拗ねた顔で。
 ちょこりと正座して、見上げてくる彼が、いて。
 時折。
 こんな風に見せる、無邪気な一面。
 だけど。
 彼は。
 子供じゃない、ことを。
 僕は知っている。
「驚いたよ・・・・・今日は、此処に来るとは聞いては
いなかったからね」
「でも、知ってたでしょ」
「・・・・・どう、だろうね」
 白い滑らかな頬に触れようとして。
 ふと。
「あ、新しい筆?」
 手には。
 筆を持ったままで。
 手に取った時に、彼が。
 ちょうど、悪戯を仕掛けてきたから。
「あァ・・・良い品が手に入ってね」
「・・・・・ふぅん」
 まじまじと、手の中の筆を眺めるのに。
 おそらく、どのように良いものなのかは。
 使う僕でなければ。
「・・・・・そうだ」
 あまりに真剣な彼の表情を見ているうちに。
 ふと、湧いた。
 ちょっとした。
 企みを。
「君も、知りたくはないかい?」
「え、何・・・?」
 誘い掛ければ。
 小首を傾げて見上げてくる、何処か。
 幼い貌を。
 これから。
 僕が。
「この筆の・・・・・素晴らしさを、教えてあげよう」
 微笑んで。
 手に持った筆を掲げて。
 彼の。
 無防備に曝した、胸元に。
「ひ、ャ・・・ッ」
 するりと。
 撫でるように、這わせれば。
 さらりとした毛の感触に、身を強張らせて。
「うん、良い反応だ」
「・・・ッ梅月センセ」
「・・・・・ここは、どうかな」
 感度の良さに。
 尚も、筆を滑らせて。
 今度は。
 もっと敏感な。
 胸の、飾りを。
 掠めるようにすれば。
「・・・・・ッあ・・・あァ」
 思った通りに。
 身を震わせて。
 悦い声で。
「・・・・・どう、かな?」
「・・・ッん・・・・」
 悪戯な行為に。
 それでも、従順に。
 快楽を、追う躯。
「・・・・ふ、ッ・・・あッ・・・い、や・・・・」
 グラリと傾いて、僕の腕に縋り付いてくる躯を。
 そっと。
 押し戻すようにして。
 倒れ込むように、畳の上に横たえれば。
 見上げてくる瞳は、不安と。
 そして。
 微かな。
 期待に、濡れて。
 それに応えるように。
 執拗に、突起を弄びながら。
 下肢を覆う布を、スルリと取り去って。
「・・・・・や、・・・・ッ」
「いや、じゃないだろう・・・?」
 露になった、そこに。
 存在を主張し始めた、彼の昂りを。
 そっと。
 穂先で、撫でてやれば。
「ひゃ・・・・ッん・・・・ッ」
 あからさまに、跳ね上がる躯。
 反射的に閉じようとする膝を割って。
 先走りを滲ませた、彼の欲望を。
 ゆるりと撫で上げれば。
 糸を引く体液が、穂先を湿らせるから。
「あァ・・・・んッ、・・・真琴、さ・・・ん」
「ふふ・・・・・やっと、僕を呼んだね」
 真名を紡ぐ唇に、口付けを落として。
 筆は、まだ。
 無防備な下肢を、伝って。
 含ませた蜜を、双丘の陰りに息づく蕾の周りに。
 入り口に沿って、円を描くようにして。
 くすぐれば。
「ん・・・んんッ」
 塞がれたままの唇から、くぐもった声が漏れて。
 それでも。
 舌を探れば、浮かされたように。
 無心に、絡み付く熱。
「・・・・良い、筆だろう・・・?」
 濡れそぼった先端で。
 そっと突くようにすれば。
 ゆるゆると、首を振って。
 眦から涙が溢れ落ちて、畳に染みていくのを。
 目の端で、捕らえながら。
「こ、んなの・・・・いや・・・・」
「・・・・・どうして?・・・気持ち良さそうだよ・・・ここも
・・・ほら・・・・・ここも」
 絶えまない刺激に。
 張り詰めた幹を伝う体液は、後孔までもしとどに濡らして。
 滑りも手伝って、宛てがった毛先ごと飲み込もうと、ヒクヒク
と喘ぐように蠢いているのに。
「や、・・・・ッ真琴さん・・・・ッ」
 掠れた悲鳴のような声に。
 顔を覗き込めば。
 情欲に濡れた。
 瞳が。
 求めている、のは。
「それ、は・・・・・もう・・・ッ要らな・・・い、から・・・」
 もっと。
 大きな。
「真琴さん、を・・・ちょうだい」
 熱い。
 もの、を。
「・・・・・参ったな」
 そして。
 そんな風に、強請られれば。
 こちらだって。
「・・・ほら、よく・・・・・味わって」
「あ、あァァ・・・・ッ」
 お役御免、とばかりに。
 投げ出した、筆のあと。
 既に、存分に濡らしたそこに。
 性急に。
 宛てがったものを。
 一気に。
 奥まで突き入れれば。
 待ち望んでいた、深い刺激に。
 背を、しならせて。
「ま、こと・・・さんッ・・・あ、ッ・・・んん」
 貪欲に。
 更に、奥へと飲み込もうと。
 腰を揺らめかす。
 本当に。
 快楽に忠実な、躯。
「どう、かな・・・・・御所望の、僕の・・・味は」
「悦い・・・ッも、・・・・真琴さん、のが・・・あ、ァん」
 背に爪を立て。
 腰に、脚を絡めて。
 もっと、と強請る。
 それに、促されるように。
 僕自身も、快楽を追って。
 浅く、深く。
 何度も、突き込んでは、引いて。
 敏感な粘膜が擦れあい、また生まれてくる止め処ない、熱情を。
 貪って。
 互いに、深く。
 高く。
「あ、・・・ッあぁぁ・・・ッ・・・」
 グ、と。
 しなやかな躯を折り曲げて。
 その、最奥。
 打ち付け、迸れば。
 一層高い嬌声を上げて。
 共に。
 上り詰めて。
「く、ッ・・・・」
 痙攣する内壁に。
 それこそ、1滴も余す事なく。
 搾り取られる。
 遠い、感覚。
「・・・・・ふ、ッ・・・・・」
 そろそろと息を吐き。
 上下する、胸元。その滑らかな肌に。
 散らした、自身の白濁が。
 また。
 どうしようもなく、淫らに。
 誘って、見えるから。
「・・・・・な、に・・・ッ?」
 傍らに転がる、筆を。
 そっと、拾い上げて。
 吐き出したばかりのそれを、掬い取り。
 また、彼の弱い場所。
 色を濃くした、胸の突起に。
 穂先を使って、塗り込めるようにすれば。
 くすぐったさ故か、逃れるように身を捩ろうとするけれども。
 まだ。
 互いの下肢は、繋がったままで。
「ッ真琴さん・・・」
 非難めいた声を上げながらも。
 僕自身を飲み込んだ、そこは。
 嬉しげに。
 反応を返すから。
「こっちの筆も、嫌いじゃないみたいだったからねぇ・・・」
 すぐに勢いを取り戻した、欲とで。
 煽って。
「・・・両方で、可愛がってあげよう」
 ニヤリと。
 口の端で笑えば。
 一瞬、絶句したのが、下肢からも伝わって。
「・・・・・俺、どうなっちゃうんだろう・・・」
 そろそろと溜息をつく唇を。
 ペロリと舐めて。
「僕が、ちゃんと面倒見てあげるから」
 だから。
 如何様にでも。
 乱れて。
 くれれば良い。
「・・・・・真琴さんの、へんたい・・・・・」
 ボソリと。
 憎まれ口を叩く唇を。
 言葉ごと、奪って。
 また、ゆるりと。
 揺さぶれば。
 躯は、こんなにも正直で。
「君は、・・・・・本当に」
 可愛いよ、と。
 耳元で、囁いて。
 言葉で。
 躯で。
 幾らでも。
 与えてあげる。

 君に。
 ありったけの。




・・・・・小道具ですか(目線逸らし)。
梅月センセといえば、筆です。サラサラっとです(何)。
筆使うえっちは、ありきたりよねー・・・と思いつつ。
でも梅月主の少なさに、身悶えながら書く(笑)。
とうとう裏デビューの梅さん。・・・変態ちっくに(悦)。