『純情』



 本当に大切なもの、には
 本当に大切なもの、なら
 容易く。
 触れることは。
 出来ない、から。


「折り入って、相談したいことがある」
 至極真面目な顔で。
 そう、告げられて。
 ああ、そういう顔も綺麗やなァ、と。
 胸の内で感嘆しながら。
 双羅山の、奥深く。
 畳1畳分だけ、ポッカリと木々が開けて、陽の光が溜まる
その場所。
 お気に入りの昼寝場に。
 人、というものを。
 初めて案内して。
「秘密の場所やさかい」
 大事な相談事、他人に聞かれることはあらへんで、と。
 ちょいちょいと手招きして。
 柔らかい草の上。
 ふたり、並んで腰を下ろして。
「で、このもんちゃんに相談したい事って、何や?」
 座ったまま。
 暫しの沈黙に。
 余程重要な話なのだろうと、何やら柄にもなく緊張を覚え
つつも。
 それはきっと、龍斗の方も同じだろうと。
 何処となく張り詰めた空気を和ませるように。
 明るい声で、促せば。
「教えてもらいたいことが・・・ある」
「・・・・・な、んや・・・?」
 やっくりと顔をこちらに向けて。
 やはり、真剣な面差しで。
 深い、深い色の。
 瞳が。
 真直ぐに、見つめて来るから。
 思わず上擦る声に、心の中で失笑しながら。
 それでも。
 目は、逸らさずに。
 先を促して。
「わいに出来ることやったら、何でも」
「本当に?」
「ああ、まかしとき」
 頼られるのは、嬉しい。
 龍斗に、頼ってもらえるのは。
 しかも、内緒で。
 自分、だけに。
 ならば。
 本当に、どんなことだって聞き届け、叶えてやりたいと。
 思うから。
「・・・・・じゃあ・・・・・教えて」

 接吻、を。

 囁くような、声で。
「・・・・・・・ッ!?」
 そう、告げられれば。
 どうしても、動揺は隠せずに。
 思わず、自分の口元を手で押さえて。
「そ、それ・・・って、わいに、・・・その・・・」
「どういう風にしたら良いのか、俺に教えて?」
 その台詞は。
 逆らい難い、誘惑で。
 でも。
 こんな、真面目な顔で。
 相談事、として。
 だとすれば。
 これ、は。
「・・・・・実践、で・・・ええの?」
 上擦ってしまう声は、どうしようもなくて。
 コクリと、喉を鳴らしてしまえば。
 微かに、目の前の貌が笑むのに。
「でなきゃ、分からないだろう・・・?」
「そりゃ、ま・・・そやけど」
 突然降ってきた、あまりにも美味しすぎる状況に。
 当然、嬉しくはあるのだけれど。
 それでも、少しだけ。
 ひっかかる、ことも。
「・・・何で、わいに・・・」
「お前なら、上手そうだし」
 まあ。
 そう考えるのも妥当なのかもしれない。
「・・・・・何で、やり方・・・知りたいと思うたん?」
 更に尋ねれば。
 ちょっと。
 困ったような、顔で。
「・・・・・して、くれない・・・から」
「・・・・・?」
「だから、・・・・・俺から、しようかなって」
 微かに。
 恥じらうような、素振りで。
 その様も、本当に可愛らしく映って。
 なのに。
 龍斗が。
 龍斗の、心には。
 誰か。
 想う、人がいて。
 その顔も。
 そして。
 口付けを、与えたいと思う相手の。
 もの、なのだと。
「・・・・・さよか」
 少しばかり。
 切ないような、息苦しさを覚えながらも。
 それでも。
 龍斗が、望むこと。
 それならば。
「・・・・・ええで」
 叶えて、やろう。
 代わりに。
 初めての、口付けは。
 自分の、ものになる。
 ささやかな。
 歓喜と。
「・・・も、・・・」
「目は、閉じるもんや」
 肩を、抱き寄せて。
 驚いたように、見開いた目の上に、軽く。
 落とした唇を。
 今度は。
 微かに開いた。
 薄紅色の。
 唇へ。
「・・・・・ん」
 触れれば。
 肩が、ピクリと震えて。
 それを宥めるように撫で、そのまま背を抱き。
 軽く、啄むような口付けを、何度も。
 繰り返し、与えて。
「・・・・・ふ、ッ・・・」
 溢れる、溜息に。
 冷静な、つもりが。
 どうしても。
 熱くなる、身体を。
「・・・・・ッ」
 こんなにも。
 彼を。
 それを。
 今、このひとときでも。
 伝えたくて。
 自然、深くなる。
 舌を差し入れ、そして。
「・・・・・んんッ」
「・・・、ッ」
 肩口にしがみ付くように、着物を掴んでいた手が。
 強く。
 握りしめられるのに。
 半ば夢見心地の意識が、一気に引き戻されて。
「・・・・・は、ァ・・・」
 細い銀糸を引きながら、唇を解放して。
 くたりと俯いたまま、まだ息を乱して喘ぐのを。
 苦い思いで。
 見下ろして。
「・・・・・堪忍」
 溜息混じりに、呟けば。
 ゆっくりと、顔を上げて。
 潤む瞳とぶつかれば、また鼓動が。
 心が、乱されるけれども。
「続き、は・・・・・その相手、に・・・教えて貰い」
 辛うじて。
 そう、告げて。
 ちゃんと、微笑えているかどうか、確かめる術はない
けれども。
 見上げてくる、瞳に。
 これ以上。
 捕われない、うちに。
「ほな、・・・・・ッ」
 逃げて、しまいたくて。
 立ち上がろうと。
 するのを、不意に。
 伸ばされた手に、阻まれて。
「ッ龍斗は、ん・・・・・」
 彼、から。
 他の男の気配を。
 感じたく、なくて。
 この場を、何とか凌ごうと。
 適当な言い訳を、紡ごうとして。
 それ、は。
 一瞬の、ことで。
「・・・・・、なッ・・・」
 触れて。
 すぐに、離れてしまったけれど。
 それ、は。
「・・・・・まだ、上手くは出来ない、から・・・」
 極、至近距離で。
 しっとりと、彩を濃くした。
 桜の花弁よりも、柔らかく。
 桜桃よりも、甘い。
 龍斗、の。
「・・・・・続き、教えて・・・?」
 唇が、囁く言葉に。
 呆然と、見つめれば。
 ゆるりと弧を描いて、近付き。
 吐息で。
「・・・早、く・・・・・」
 誘う、ように。
 くすぐられて。
 もう。
 考えるより、先に。
 いっそ乱暴なくらいに、強く。
 引き寄せ、腕に閉じ込めて。
 性急に、合わせた唇は。
 まだ初心な龍斗の、それを。
 巧みに。
 捕らえ、息をつぐ間も与えぬ程に。
 深く、激しく。
「ッ、ん・・・・・」
 鼻に抜ける、甘えたような声も。
 震える睫毛も。
 熱い、粘膜も。
 何もかも、存分に。
 煽る、ものだから。
「ええん、か・・・?」
 尋ねる声は、既に欲に掠れていて。
 そんなことを聞くのは、野暮なことだと。
 分かっていても。
 今までに、なく。
 余裕のない、自分を。
 嫌と言う程、自覚してしまって。
「お前が、良い・・・・・」
 だから。
 全部。
 教えて、と。
 囁く。
 甘い、誘惑に。
 なけなしの理性も。
 飛ばされて。
「・・・・・専属、やで」
 耳朶を、甘噛みしながら。
 抱いた身体を、そっと横たえて。
 やや傾いた、陽に。
 はだけさせた胸元に揺れる、陰が。
 震えが走る程に。
「・・・・・それで、いいよ」
 昂る想いを。
 ひとつ、ひとつ。
 肌に。
 刻んで。
 身体に。
 埋め込んで。
 心に。
 ずっと。
 その、跡が。
 残る、ように。
 ずっと、ずっと。
 消える暇も。
 与えない、から。

「・・・・・俺は、ね」


 お前のこと、が。
 好き、なんだよ。


 煽られた欲で。
 掠れた、声で。
 囁く。
 告白。

 本当の。
 心の、在り処。





完全無欠の、們天丸×龍斗を、ようやく(笑)!!
ええ、ちゃんと龍斗には、もんちゃんだけなのです!!
しかも、処●(悦)!!手付かずですよ、ひーたん!!
どうしますか(どうもこうも)!?
全部、教えて貰うのです・・・ふふ(含笑)。