『祈』
『混沌』が、彼の人の星であるとして。
それでも。
その未来に。
祈らずにはいられない。
例えば、町中で。
互いを見つけるのは、どうしても自分が先で。
「やァ、龍先生」
声をかければ、一瞬驚いたように目を見開いて。
それでも、すぐに。
とても綺麗に、笑ってみせる。
「ま・・・じゃなかった、梅月センセ」
「ふふ・・・その『名』で呼ぶのは、こんな場所ではなく」
僕の褥の中で。
そう囁けば、途端に頬を朱に染めて。
「・・・・ッこんな往来で・・・」
「あはは」
そんな反応も、可愛らしくて。
つい、こんな風に。
「・・・・知らないッ」
戸惑わせて。困らせて、しまいたくなる。
「それにしても。独りとは、珍しいこともあるものだ」
たいてい、彼の回りには誰かしら『仲間』がいて。
だが、今日はその影も見当たらず。
「・・・・・知ってて、声かけたのかと思った」
意外そうに、顧みる彼を。
「分かっていたのは、今日外に出れば君に会える・・・・
それだけなんだがね」
「・・・・・ふぅん・・・」
その深い色の瞳を。
少し高い位置から覗き込めば。
そこには、何やら思わせぶりな光があって。
「そっか、知らないんだ」
ふふ、と笑って。
「龍先生?」
訝し気に見つめる、自分に。
向ける笑みは、どこか艶やかで。
「自分に逢いに来たとは、思わないのかなー」
「な・・・」
文字どおり。
その言葉に。
絶句、してしまって。
「・・・・・龍、先生」
思わず惚けてしまった、僕に。
「・・・・・なんて、ね」
次の瞬間。
その光は、悪戯っぽい輝きに摺り替えられる。
「・・・君、は本当に・・・ッ」
「あははははは」
楽し気に笑って。
身を翻す彼を、追って。
追い掛けて。
肉体労働なんて、ついぞしたことのない僕には、追いかけっこ
なんて、得意な訳はなく。
そんなこと、自慢にもなりはしないのだが。
だから、彼が本気で逃げれば、まず追い付くことはない。
捕まえることなど、出来るはずがない。
それでも。
追い掛けて。
そして。
「た、つせ・・・・んせい・・・ッ」
息を乱しながら。
町外れの路地裏で、ようやく彼を。
掴まえて。
「・・・・・お疲れさま」
腕を掴んで、軽く引けば。
振り返った、彼は。息ひとつ、乱してはいない。
そう。
彼は。
「・・・・・な、にを考えて・・・・いるのやら」
「分からない?」
その笑顔からは。
何も。
否。
それは。
「・・・ま、さかとは思うが・・・」
「何、言ってみて」
分かった、というより。
思い当たった、という方が近いような、それを。
「・・・・・本当に、僕に・・・逢いに・・・・?」
まだ整わない息のまま、やや低い視点の彼の目を。
覗き込むようにして、問えば。
「そうだよ・・・・・真琴、さん」
その『名』で。
呼ばれれば、僕は。
「・・・・・こんなところで・・・・ん?」
何処か見覚えのある塀に、頭を巡らせてみれば。
そこは。
「はい、梅月先生宅の裏でーす」
クスクスと笑う彼に。
成る程、これは。
つまり、確信犯。
「・・・・・降参だ」
本当に。
彼には、かなわない。
「ねぇ、本当に分からなかったんだ?」
まだ笑いながら、問うてくるのに。
「星見は、そこまで万能じゃないさ」
それに。
彼は。
彼の、『混沌』は。
「特に君は・・・・思いも掛けないことを、しでかして
くれるから・・・・本当に」
それが、楽しくもあり。
そして。
それと同じだけ、つきまとう。
恐れにも似た、影。
彼は。
彼の、未来は。
「でも、もう分かったんでしょ」
人気のない、路地。
そして、覗くものなどいないという、確信。
「此処、に。俺が、いたいと思っている場所は・・・・・」
首に回された腕に、促されるままに。
薄く開いた唇に。
自分のそれを、そっと落として。
「僕の、ところだと・・・?」
口付けの合間に、問えば。
「そう、星に祈っているよ」
微かに。
瞳に滲んだ、それを。
確かめる間もなく、伏せられた瞼に隠されて。
きっと。
彼は、気付いている。
未来は。
彼に。
「・・・・・とりあえずは、龍先生」
ひとしきり、その甘い唇を味わって。
濃い色に染まるそれを、指先で拭いながら。
「続きは・・・・・僕の部屋で」
垣間見た、闇を。
見なかった振りを、して。
「・・・・うん」
一体何時から。
この人は、こんなに儚く微笑うようになったのだろう。
まだ、見えない未来。
その先にある、僕の未来は。
そう遠くなく、終焉の時を告げるけれども。
せめて。
それまでは、君と。
君に、未来を。
君の望む、時間を。
捧げたいと、強く願いながら。
そして君が。
僕の傍で、笑っていられるように。
今夜も、星を眺めよう。
ふたりで、祈りながら。
梅さん、ラヴ(悦)。っつー訳で(??)、梅月×龍斗。
外法帖部屋では初めての、陽キャラの御相手ですね(笑)。
彼のEDも、本当に身悶えさせて頂いたのです。くぅ!!
戦闘でも、とっても使える梅さん(愛)。
最初の、つれなさも多分帳消しで(笑)