『初戀』



 初めての恋、は。
 実らないものだと、誰もが言うけれども。


「よう、たんたん」
 人のこと、妙なあだ名で呼んで。
「わざわざ起こしてやったんだ、有り難く思えよ」
 そんな恩着せがましいこと、しなくても。
「何だよ、その目は。何なんだよッ」
 それは。
 こっちが、聞きたいことで。
 チョロチョロと、目の前をうろつくから。
 どうしても、目に止まって。
 何気なしに、眺めていたら。
 そんなことを、言う。
「・・ッ俺は、お前なんて嫌いなんだからな!!」
 もう。
 そんな言葉は、聞き飽きたのに。
 そっちだって、きっと。
 言い飽きるに違いないのに。
 何度も何度も。
 言われる内に。
 分かってきた、ことが。

「ああもう、朝っぱらから騒々しいったらないよ」
 廊下に出れば、桔梗が欠伸をしながら。
 まだ着乱れた夜着のままで。
「・・・・ッお、お前もさっさと着替えろよ、桔梗!!」
「・・・・・何だい、いっちょ前に照れてんのかい、坊や」
 ああ、また。
「俺を、坊やと呼ぶなッ!!」
 毎日。
 こんな調子で。
 子供扱いされることに、酷く過敏な。
 だけど、本当に子供なのだから。
 そして、多分。
 それも自覚は、しているのだろうから。
 余計に。
 焦って、しまうのは。
「おや、たーさんも早々に起こされたのかい」
「俺が、起こしてやったんだ!!」
「・・・ふふ。随分と、たーさんにベッタリじゃないか」
「ーーーーーーーッ俺は、ッ・・・」

 こんな奴、嫌いだ、と。
 また、吐き捨てるように。

 だけど、ね。
 そんな風に、目元を赤くして。
 それじゃ、まるで。

「・・・・・ほんと、子供だねぇ・・・」
 結局。
 ひとり先に、広間の方へと。
 大きな足音を立てながら、歩いて行った背を、見送りながら。
 含み笑いを浮かべ、横目でこちらを見遣る桔梗に。
 こちらも、笑顔で返しながら。
「・・・・・子供、だから・・・・」
 だから。
 真直ぐに、屈折してしまう。
 そんな、感情と態度。
「本当は、たーさんのこと・・・・」
 多分。
 桔梗が言おうとしていることは、正解で。
 でも。
 だからといって、こちらが何かできる訳でもなく。
 ただ。
 見守る、だけ。
「・・・待ってるから・・・早く着替えて来たら?」
「ああ、そうさね。有難う、たーさん」
 そうして、部屋に戻るのを見送って。
 ふと、漏れる。
 笑い。

 おそらく、これからも。
 『嫌い』だと、言い続ける彼を。
 それを、そのまま。
 受け止める、から。

 だから。
 急がなくて良い。
 大人になることを、そんなに焦る必要なんて、ない。

 待っていては、あげられないけれど。
 でも。
 少しの、間だけ。
 ちゃんと。
 見ていてあげるから。

 いつか。
 大人になって。
 共に過ごした、この時間を。
 どうか。

 思い出の中に。
 留めておいて。

「・・・・・澳継」

 未だ、知らない。
 その感情の、名前と一緒に。
 


初恋なのです。純情です。
そして、童●で(待て)。
風祭ってば、見ていて恥ずかしいくらいに、
恋する男の子なんですもの(微笑)。
ホントに、嫌いだったら無視すりゃイイんだもんね。
好きだから、ちょっかい出すのです。ふふ。