『ふたつの、ひとつ』




「混沌としているね・・・相変わらず、君の行く末は」
 苦笑混じりに呟いて。
 髪を梳く指は、歌人のそれの白く繊細な動き。
 猫のように気持ち良さげに目を細め、やや乱れた布団の上
素肌を擦り寄せるように横たわっていた龍斗は、けだるげな
仕草で腕を伸ばし、何か考え込んでいる様子の梅月の横顔を
捕らえた。
「そんなに見たいの?俺の未来とやらを」
「・・・・・そう、いうわけではないんだがね」
 見たくない、と断言してしまうには、あまりにも2人は
近過ぎて。それに、否応無しに星見の力は彼の遠き未来さえ
映し出そうとする。
 それでも。
「見えないよ・・・見たいと強く願ったところで、ね。混沌
というと、何やら言葉としては良い印象ではないかもしれ
ないけれども。どう言えば良いのだろうね・・・」
 黒々とした何かが渦巻いて、その先が見えない…というの
では、なく。
 白。
 真っ白、なのだ。
 それはいっそ、眩し過ぎる程に。
 果てしないようで、それでいてもしかしたらとても狭いかも
しれない空間に、宛てもなく放り出されてしまったような感覚。
 この真っ白なものが、彼の行く末だと思うと。
 不安にも似た感情が、押し寄せてくるのだ。
「見えないのは、決まってない・・・決められていないから
なのかな、誰かに」
「・・・・・龍先生」
「決められていたとしても、関係ないけど・・・俺、やりたい
ように、やってくつもりだし」
 今までも、これからも。
 先の戦いだって、それはもしかしたら星の定めによって決め
られたもの。自分自身が選んだようで、初めから用意されて
いたかもしれない、道。
 それでも。
 その道を自分が選んだのだと、そう納得していれば良い。
 龍斗は、曇りのない瞳を真直ぐに梅月に向けて微笑ったのだ。
「そうだね、龍先生は・・・龍先生の思うままに生きれば良い」
 梳いていた髪に、そっと唇を寄せる。
 龍斗は、龍斗の道を選んでいくのだろう、どこまでも。
 そして、自分は。
 星見としての残り少ない生を、どうにかして。
「教えてやろうか、俺の行く末ってやつ」
「・・・・・何」
 頬に当てられていた手が、梅月のサラリと長い髪をやや乱暴
に掴んで、引く。
「ああ、痛いよ・・・龍先生」
「目が覚めただろう、真琴さん」
 髪を引かれるのにつられて、そのまま顔を寄せるような形に
なれば。
 覗き込んだ瞳は、やはり。
 何処までも遠く澄んだ、遠い星空の色。
「俺はね、ずっとここにいるから」
 トン、と。
 空いた方の手で、梅月の胸を叩いてみせる。
「決めたから」
 変わらない、揺るぎない。
 愛して止まない、永遠い瞳。
「真琴さんの傍らに。離れないって、決めたんだから」
 だから。
「・・・龍、斗」
「一緒だよ、俺たち・・・だから、怖くないよ」
 恐れていた。
 怖がっていた、かもしれない。
 この暖かな身体を、いつの日か抱き締められなくなる。
 それが、いつなのか。
 見たくない。
 いっそ、見えなければ良い。
「君と肌を合わせてから、僕は自分の未来が見えなくなった」
 見たくないと願ったからか、それとも。
「それは、・・・君が、僕の道標だったから・・・なのかな」
 行く先を示す。
 自分だけの、星。
「そんに大層なものじゃないと思うけど」
 でも、と。
 龍斗は、また綺麗に微笑う。
「ずっと、離れないのは・・・もう、決定」
 ああ、そうやって。
 彼は優しく愛おしく、運命の糸を引き寄せていくのだ。
「・・・・・離したくないと、思っていたんだよ」
「うん、それで良いよ・・・真琴さんの思うまま、生きれば良い」

 共に。
 ずっと。
 そう祈る、2つの心に宿る。
 ただ1つの、願い。





身も心も、なカンジ。
肉体だけでなく、魂まで寄り添ってて下さい
・・・・・ずっと、ねv
梅月センセの御誕生日御祝でございましたv