『不変』
変わらないものなんて。
あるのかな。
「君は、どう思うんだい」
指を。
絡めて。
「・・・奈涸に、聞いてるんだよ」
鑑定して貰う品物が、幾つかあったから。
それを持って訪れてみれば。
御茶を煎れるから、と。
その言葉に頷けば。
途端、満足げな。
何処か、ホッとしたような笑みを見せて。
背後で、きっちりと閉められた、扉。
まだ、昼過ぎなのに。
もう、店じまいなんて、と。
でも。
それは。
その、理由は。
「変わらないものなんて、あるのかな」
何時だって。
それ、は。
口実で。
ほら、こうして。
まだ明るい、部屋で。
組み敷かれて。
「・・・・・変わらない、ものなんて」
ない、と。
でももし、それが。
存在、するのなら。
「・・・・・君、は・・・・・変わったよ」
覆い被さったまま。
穏やかな笑みに、微かな情欲の色を敷いて。
そう、告げるから。
「・・・・・俺が、・・・変わった・・・?」
ついぞ。
そんなことは、言われた事はなかった。
仲間内では、むしろ。
変わらない、と。
「・・・・・そんな、不安げな顔をしないで」
知らず、表情を曇らせていたのか。
額に、そっと口付けを落とされて。
「俺の目には・・・変化して見える、ということだ」
何、が。
彼の目に映る自分は、どう変わっていってるのか。
分からないから。
やはり、不安で。
そんな俺を、また宥めるように。
頬に。
口付けて。
そのまま、耳元で。
「逢う度に・・・・・君は綺麗になるから・・・」
色んな意味で、心臓に悪いと。
そんな、ことを。
言うから。
「・・・・・ッからかわないで・・・」
「そんなつもりはないさ・・・・本当に、君は」
とても、綺麗だと。
今度は、唇に。
触れて。
「この答えは・・・君の望むものではないのかな」
苦笑混じりの、呟き。
俺の。
望む、応えなんて。
「・・・・・そう、例えば『心』や『気持ち』と呼ばれるものは、
変わらぬものであれと、・・・・そう、願うけれども」
願っても。
それでも。
「・・・・・変わる、んだよね」
呟けば。
微かに、首を傾げて。
「そう、変わるものだ・・・・・君を、『好きだ』という俺の
・・・・・この、感情だって」
それ、は。
それは、もう。
「・・・・・変わって、しまうの・・・・?」
真っ昼間から人を押し倒しておいて。
そんな、台詞。
悔しいのか。
哀しいのか。
もう。
「・・・・・龍斗」
ふたりだけの。
そういう、時だけ。
彼は。
そう、呼ぶから。
でも。
こんな時だから。
そんな、呼び方は。
「・・・・ッ」
呼びながら、唇は。
そろりと、目元に押し当てられて。
暖かく、濡れた感触。
舌、で。
彼が、拭ったのは。
零れ落ちる寸前の。
涙。
「・・・・・回り諄い言い方をした、俺が悪いな・・・」
舐めとった、それは。
多分。
苦い、味。
そんな、顔で。
極、至近距離から。
見下ろして。
「本質は・・・・・きっと、変わらないのだろう」
長い、髪が。
視界を、遮断して。
本当に。
世界に、ふたりだけ。
そんな、錯覚。
「君に対する、『好き』は・・・・・逢う度に、どんどん大きく
膨らんで・・・出逢った頃からは、もう想像もつかないくらいに
・・・・・きっと、これからも・・・」
もっと。
沢山。
好き、になる。
予感より。
確信で。
「・・・・・弾け、ないかな・・・」
大きく、膨らみ過ぎたら。
弾けて。
一瞬で。
「・・・・・そんなことには、ならないさ」
だって。
何時だって。
注ぎ込んでいるから。
君に。
『想い』を。
「・・・・・俺の方が、破裂しちゃうかも・・・」
「あァ、加減はしているんだが」
クスクスと。
何時の間にか。
こんなにも。
穏やかな、気持ちで。
「嘘、嘘。奈涸は、いつだって手加減しないよ」
「そう、だろうか・・・・」
ふむ、と。
真面目そうな顔で。
思案する、そんな様も。
「・・・・・でも、そういうところが・・・好き」
手加減、じゃなくて。
全身でぶつかってきたって。
ちゃんと。
その腕で、抱き締めてくれるから。
「む、・・・・それなら、俺の方がもっと君を」
好き、だと。
むきになって。
そんなこと、張り合っても。
ねぇ、どうするんだろう。
「引き分けに、しとこ?」
それで、良いじゃない。
でも、どうしても。
納得、出来ないのなら。
ならば。
「・・・・・証明、してみせるか」
どんなに。
ねぇ、どんなに俺が。
「・・・・・望むところだよ」
好き、なのか。
ねぇ、本当に。
知って、いるの?
伝える術は、それぞれに。
沢山、あるけれど。
形は、違っても。
変わらない、もの。
あるよね。
それが。
目には見えないものでも。
例えば、こうして。
触れて。
感じる。
心で。
身体で。
確かめる。
その存在を。
抱き締めよう。
「好き」だという気持ちは、それぞれで。
伝える術も、確かめる方法だって、沢山あるから。
固執することは、ないのです。
変わらずに、好きでいる事。
どんどん、好きになる事。
どちらでも。その人に、一番自然な形で。