『契』




「待ってたよ」
 いつもと変わらぬ、言葉。
 いつもと同じ、笑顔。

 だけど、今日は。
 いつしか馴染んだそれも、違うものに感じた。


「店・・・閉めて良いのか・・・?」
 少し日も落ちてきたとはいえ、まだまだ片付けてしまうには
かなり早い時間で。
 それでも、最初からそういう予定だったとでもいうように、
何の躊躇いもなく扉を閉ざし、そして。
 ゆっくりと龍斗を顧みて。笑む貌は、常のように優し気で
あったけれども。
 だけど。
 その裏に揺らめく、氣は。
 それは、紛れもなく。
「君が、誰かに見られていた方が良いというのなら」
「・・・・・ッ」
 閉ざされた、薄暗い空間。
 極至近距離。流れ込んでくる、それは。
「だが、今日は・・・・・そんな余裕はないだろう?」
 もはや、隠そうともしない。
 あからさまな、欲。
「・・・・・俺の答えは・・・」
 目を合わせているだけで、既に肌を曝け出してしまって
いるような感覚に襲われて。
 思わず、逸らした視線。
 それを追うように、伸ばされた手が綺麗な輪郭を描く顎を
捕らえて。そのまま、今度は逃れられないように戻されて。
「答えは、君がここに来た時に出ているだろう・・・?」
 ここに、足を踏み入れた時点で。

 もう、後戻りは出来ないと。
 分かって、いた。



「・・・・・これまで、色々なものを、鑑てきたけれど」
 独り暮らしにしては、かなり広い家屋の。
 一番奥の、間。
 その中央に立ち尽くしたまま。
 だけど、着ていたものは既に取り払われて。
「やはり君が・・・・・一番、綺麗だね」
 無防備な己の姿に。かけられた、その言葉に。
 羞恥を感じ、身を隠してしまいたかったけれど、叶わず。
 それでも、その視線に曝されていることに耐え切れず、
縋るように目の前に立つ男の着物、胸元を手繰り寄せる。
「・・・・・も、いいだろ・・・ッ」
 悲鳴のような、声で。
 このままでは、もう。
「・・・・・フフッ、そうだな・・・・・では」
 スルリと、背に手をまわし、抱き寄せて。
 素肌に触れる着物、その感触にさえ身を震わせる様を
見遣りつつ、口元に敷いた笑みは余裕すら感じさせ。
「君の望むものを、あげよう」
 囁きは、重ねられた唇の中に。
 甘い、毒のように。
 龍斗の中の、何かを麻痺させていった。



 翳る、部屋。
 障子越し、僅かに透る陽の光に、あまりにも似つかわしく
ない、その情景。
 白い肌を、季節外れの桜を思わせる薄紅に染めあげられて。
 色を濃くした花弁が、そこかしこに散る。
 その度に、掠れた高い声を上げて。
「・・・ふむ。あまり敏感過ぎるのも、困りものだな」
「あ、あア・・・ッ」
 手で、指で、唇で。触れる度、身を震わせ。
 絶えまなく零れる吐息と、押さえ切れない嬌声。
 そして。
「もう・・・・・こんなに」
「ひャ、あ・・ァ・・・ッ」
 未だ触れていなかった、そこに。
 そっと手を這わせれば、その衝撃にビクリと身体が跳ね
上がる。
「こんなに濡らして・・・・・フフ、ほら畳まで・・・」
「い、やぁ・・・・ァッ」
「確かに、困るけれども・・・・・悪くはない」
 まだ始められたばかりの愛撫に、それでももう既に張り詰め
白濁した涙を零している、それに。
 その滑りのままに、指を絡め音を立てて撫でてやれば。
「・・ッい、あ・・・・ッあァ」
 フルフルと、首を打ち振り。眦から溢れ落ちた涙が、幾つも
畳に染みを作っていく。
「・・・・・本当に」
「ーーーーーーッ」
 その形を確かめるように、スルリと撫で下ろした長い指は、
やがて徐々に陰を落とす、そこへと。
 微かに息づく、蕾へと。
「・・・・・ッや・・・・」
「・・・・・君は」
 先走りの体液に、導かれるままに。
 その内に。
「君は、俺を・・・・・」
「ひ、あァ・・・・ッ」
 狭いそこではあったけれど、一気に2本。
 付け根まで、飲み込ませて。
「・・・・ッは・・・・ァ・・・」
 唇を震わせながら、その衝撃をやり過ごそうと息を吐く
けれども。悪戯に指が蠢く度に、乱されて。
 乱れるから、もう。
「な、がれ・・・・奈涸・・・・ッ」
「あァ・・・・そうだな」
 名を、呼んで。
 それだけで。
 自分が何を、欲しているのか。
「君の、欲しいものを」
 ここに。
 内に、深く。
 埋めて。
「・・・・・あげるよ、だから・・・・」
 だから、君も。
 囁きは、届いたか否か。それでも。
「・・・ッん・・・・・あ、あァァ・・・・ッ」
 性急に引き抜かれた指の代わりに。
 宛てがわれ、突き込まれる熱い塊を。
 僅かな抵抗の後、ゆっくりと奥まで飲み込んで。
「・・・・・なんて、締まりだ・・・」
「・・・・・ふ・・・・う・・ッん・・」
 敏感な粘膜は、その熱に応えるように痙攣を繰り返して。
 更に奥まで、あたかも誘い込むように。
「・・・・・だが、まだ・・・・」
 その波に乗るように、また逆らうように。
 打ち付け、そしてまたひいては、より深く深く。
 揺れる脚を肩に抱え上げ、もっと繋がりを求めて。
「なが、れ・・・・あ・・・ッ奈涸・・・・ッ」
「あァ・・・・君も、悦いのか・・・・・?」
「・・・・イ、イ・・・・んッ・・・ふ・・・ッア」
 上手く紡げない言葉の代わりにか、肩口を掴んでいた手を
腕を首にまわして。
 引き寄せられるままに、唇を重ねれば。
 自然、深くなる繋がった場所。
 互いの体液に湿り、濡れた音が日も殆ど落ちた部屋の中、
恐ろしく耳に響くから。
「な、が・・・れ・・・・なが、れ・・・・」
 それを打ち消すかのように、互いを喰らい尽くすような
濃厚な口付けの合間にも。
 名を。何度も何度も、零れさせて。
「・・・・・ッ欲し、かっ・・・・た・・・・・」
「・・・・・・・・」
「こ、れで・・・・・ねェ・・・・」

  お前は俺のものだよ

 掠れた声が。
 まわされた腕が。
 繋がれた躯が。

「・・・・・そのとおりだ」

 捕らえて、離さないから。

「文字どおり・・・・これは、契だ」

 欲しいと言うのなら。

 お前の全てを、俺に。
 俺の全てを、お前に。


 それだけは。
 望んでも、構わないだろう?






奈涸×龍斗(悦)。ラヴラヴなのです(待て)。
やはり、互いに求めあってくれるのが好きらしく(笑)。
しかし、奈涸さんのセリフ・・・わざと、ああいうのに
したとはいえ、かなり恥ずかしかったのです・・・ぐは。