性欲事情








 原因なら何となく推察がつく。
 けど肝心なのは原因なんかじゃなくて、今のこの現状。

「………駄目みたいだねえ…」
「…そのようだね」

 二人して、じっと見つめるその先には。

「………いくら見つめても無理のようだよ、龍麻。というか、…あまり見つめて貰いたくないな…」
「…念で何とかならないかな?」
「───無理だろうね。念じゃ」

 いつも過酷なくらいに泣かせてくれる、彼の。
 でもまるっきり反応を示さない、それ。



「……んー…」
 さてどうしたものか、と。
 指やら掌やら、舌やら唇で存分に煽って見たけれど結局反応を示さないそれに。もう一度手を伸ばす。
 ぴく、と確かに彼の膝などは反応を示すのに。
「…何も感じないわけじゃ、…ないんだよね?」
「………存分に感じてはいるよ」
 する、と根元から先端へ指先を滑らせる。けれど、その感触は知らないもののようにやんわりとしていて、まさに『身体』らしい感触。
「いつもなら勝手におっきくしちゃうくせに…」
「勝手にって、……まあ、そうだけど。しょうがないよ、君が相手なら」
 恥ずかしげも無く落とされる台詞だって、甘く掠れた音なのに。
 『ここ』だけが、いつもと違う。
「じゃあどうしてだろ。…もう俺の身体に飽きた?」
「そんな筈無いよ」
「即答するわけ?」
 思わず笑って。
 わかっているけど、悔しいような気持ちになる。
「こうなると、…意地でも何とかしたくなるよね」
「………まあ…僕もせっかくの時間を諦めたくは無いけど。…でも今回ばかりは無理だと思うよ。…何せきっと、原因は───」
「よーし」
「!」
 頭上で彼が何やら言っていたけど、とりあえずそれは後で聞いてあげるから、と。
 こうなったら、どうしたってどうにかしてやりたいと思う気持ちそのままにとりあえずもう一度チャレンジしてみる事にした。

 かなり上手になった、と。
 いつぞや誉められた舌と唇。
 そんなの誉められたって嬉しくないなんて、言った言葉はちょっと本当だけど役に立つなら使わない手は無い。

 そろ、と舌を這わせて。先程指先でそうしたように、根元からゆったりと舐め上げる。
 舌に感じる体温。
 彼のものだと思うと、儀式じみた心持ちになって。
「…、……」
 彼が呼吸を乱すのも、手に取るように肌で感じる。
 きっと、そろりと眉を顰めた表情で。
「ん……、っ…」
 先端を口に含めば、意識しなくても小さく声が漏れる。反応を示していなくても、彼のこれは十分に立派な大きさで。
 くびれた部分を舐め上げるようにすると、彼が少し身を固くした。
「───…」
「…、ぅん……、…」
 確かに先程の彼の言葉には嘘は無いようで、感じてはいるらしい反応。
 いつも反応を返す個所を積極的に愛撫すると、その都度身体の他の部位はしっかりと反応を示す。
 ただ、やはり直接そこに熱は集まらず。
「…ん…、…」
 ちゅ、と音を立てて唇を離して。
 上目遣いに見上げれば、困ったような、それでいてすまなそうな顔。
「…全然だねえ…」
「…そうだね」
「………んー。どうにかなんないかなあ」
「………………」
 別に、どうしてもしたいわけじゃなくて。
 そうじゃなくて、ただ。
 彼の身体全部を、自分の身体全部で感じるには一番わかりやすい方法がセックスというものならば。
 それをしたい。
 ちゃんとしたい。
 それだけ、なのだ。

 それだけ、なのに。

「…どうしてもしてくれない気だな、こいつは」
 極軽く指先で弾いてみたりする。
「っ、…龍麻」
「だってさー。………………………あ」
「?」
「じゃあさ、今日は俺がする?紅葉に」
「───丁重にお断りするよ。」
「何だよーっ。俺じゃ不満だって!?」
「そうじゃなくてね」
 困ったように彼が笑う。
 だって、駄々だってこねたくなる。
 自分ばかりが、彼を欲しがっているようで。
「似合わないだろう?」
「…何が…?」
「僕が、…だからつまり。…君に組み伏されてる姿なんて」
「え?………そう、…かなあ?」
 言われて、徐に想像なんてしてみる。
「…綺麗だと思うけど?紅葉、身体凄く整ってるし」
「………………」
「…何でそんなヤな顔するかなあ」
「……じゃあ、……僕にそんな事してる龍麻の画像はどう?」
「え?………、………」
「…どう?」
 言われて、また想像なんてしてみる。
「………うー…ん…」
 言われてみれば。
「…やっぱ似合わないかも…」
「わかってくれて良かったよ」
 伸びてきた彼の指先。
 頬を掠めて、そのままそろりと耳元へ。そこを通りすぎると、大きな掌がそっと頭を引き寄せるから。
「僕は、…こんなに欲が強いから」
「……?」
 条件反射で顔を上向ける。
 案の定降ってくる彼のキス。
「欲を注ぐ側がお似合いなんだよ」
「………………」
「…なのに、まあ。…今は全然それも叶わないけど、…ね」
「……ばーか」
「…そうだね。馬鹿だね」
 涙が。
 出そうになる。
 身体は混ざり合えなくても、こんなに心が触れ合って。
 ふわりと触れるだけのキスだって、彼に押し入られている時のように酷く切実に与え合っているようで。

 自分が彼を求めているという事実と。
 彼が自分を求めているという事実。
 それらはとても甘やかで、欲と言うには、随分穏やかな。

 彼の唇があちこちに触れて、それはやはり儀式のようで。
「………変なの」
「…うん?」
「おかしいね」
 自然に顔が緩んでしまう。
 それを不思議そうに見つめる彼に。
「二人とも裸で、抱き合ってキスだってしてるのに。全然いやらしくないね」
 腕を伸ばせば、その手の甲にもキスされる。
 彼の唇が触れる個所全部、確かに熱は宿るけれど。
「でも、………でもこれはきっとセックスだね」
「………………」
「だよね、きっと。………だってこんなに」
「……龍麻」
「こんなに」
 こんなに満ち足りているんだから。
 と。
 最後の囁きは彼の唇に全部持って行かれてしまったけれど。



 服なんて着ていなくて、キスはいつもよりずっと沢山して。
 けれどただ手を繋いで隣に眠る。
 可笑しくてくすくす笑えば、そのたび彼はキスをくれる。

「残念ではあったけど、でも……ちょっと楽しかったかも」
「…残念だと思う気持ちの方が強いかもしれないけどね、僕は」

 繋いだ手と手はそのままに、互いにぎゅうっと抱き締め合って。
 乾いた素肌が、まるで初めてのように。
「うーん……まあ。……ミサちゃんの手作りお菓子は、これからはもっと用心して食べるようにしようね」
「………良い教訓を得たよ。…僕は甘いものがますます苦手になった」
「あははっ」

 悪戯な友人へは、後日こっそり恨み言と少しのお礼を言うとして。
 とりあえず、今夜一晩は。

「………………今夜のこの鬱憤を…ぶつけられる龍麻が心配だよ。すまないね。僕は加減が下手だから」
「!!さらっとそんな怖い事言わないのっ」

 手を繋いで。
 おやすみなさい。




−END−




32908HITで頂いたリクより発生したSS♪
不能から復帰していつもより激しくするか、復帰しないまま終わらせるかで
随分と迷いました。
そんな事で悩んでいる自分に切なくもなりました(笑)
結局こんなんなりましたですよvv
浅生さま、如何でしたでしょうかvv



あああああン有難うございますーーーーッ(愛)!!
南サマのサイトで、32908のキリ番を踏ませて
頂いた時のリクエスト「不能になる壬生・頑張る龍麻」
なのですケド・・・お見事です!!!!ステキなのです・・ッ!!
壬生が・・壬生がーーーーーーッ(悦)!!!!
ただのエロだけにはならないところが、また一層悦
なのです・・・。ラヴなのです・・・・・(微笑)。
・・・・・癒されます(マジで)。
ステキSSを本当に有難うございました(愛連打)。