『YOURS』
「この闘いが終わったら・・・何がしたい?」
その眼差しはとても真摯なものだったけれども。
小首を傾げるような仕種が、それを裏切るくらいに
可愛らしく映って。
だから。
「ナニがしたいかなー・・・なんて」
半分冗談。でも、半分は本気で答えつつ。
すぐその後に、間違いなく喰らうであろう彼の最終奥義を
予測して。ニヤニヤと笑いつつも、咄嗟に回避の動作をとった
京一であった。
のだが。
「そうだね」
「ああああゴメン・・・・・ッ・・・って・・は、あ!?」
「良いんじゃない?しよっか、終わったら」
予想を大きく裏切る、それは良い意味ではあったのだが、
その龍麻の言葉と、艶やかな笑顔に暫し呆然として。
「んじゃ、行くか。みんな待ってるし」
「ひ、ひーちゃん・・・」
いざ、決戦の地へ。
その足取りは、何故か対称的で。
意気揚々と歩くその後ろを、「おいおい、マジかよ」と
独りブツブツと呟きながらついていく京一の姿があった。
そして、寛永寺。
闘いを終え、疲労と安堵と。言葉にはし尽くせない様々な
思いを、皆抱きながら。
それでも、こうして全員が無事で還って来られた喜びに、
笑顔と歓声と。暖かな空気に包まれて。
「ね、これからみんなでラーメン食べに行こうよ! ボク、お腹
空いちゃったー!」
「うふふ、小蒔ったら」
相変わらずだな、と微笑む仲間達をグルリと見渡して。
「龍麻クンも行くよねッ!」
「あ、俺はパス。京一も」
「・・・・・ええッ!?どうしてッ」
小蒔ほどあからさまではないにせよ、他の仲間達も一様に
龍麻の不参加に驚きと、そして。
そこに、京一の名前が列ねられたことに対しての。
決して穏やかではない空気が、一部。
そんなことも、意に介せず。
「約束してたんだ、京一と」
「ええッ!?何ソレ・・・ずるいよ、二人ともッ!!」
全くだ、と頷く面々に。
「ゴメン・・・でも」
京一をちらりと顧みて、そしてはにかむように。
「京一が・・・したいって言うから」
告げた、その一言。
途端に。
「・・・・ッ」
身を斬るような鋭い幾つもの視線と、すさまじい殺気。
先程までの和やかな空気はどこへやら。
再びこの地が血なまぐさい戦場と化すことは、もはや
時間の問題のようでもあり。
それでも。
「そういうコトだから。邪魔したら・・・」
殺すよ
視線だけで京一を殺しかねない勢いの一角に。
それこそ必殺の笑顔を振りまきつつ、傍らで引きつり笑いを
浮かべたまま立ち尽くす京一の腕をとり、そして。
「ま、待つんだ!!龍麻・・・・・・ッ!!!!」
走り出した彼を、慌てて引き止めようとする何人かの手を
軽い身のこなしで躱しながら。
呆然と見送る面々の視界から、やがてその姿は消え。
「・・・・・そういうことだと思いますか?」
「そういうことだろうな・・・」
忌ま忌まし気に眉を顰めるアサシンと忍者に。
「ま、アレだな。先生も日本の伝統行事に乗っと・・・ぐわッ!!」
血祭りにあげられた輩も、いるとかいないとか。
それは、さておき。
「さ、しよ」
呆気に取られるまま、龍麻のマンションの部屋に連れ込まれて。
玄関、リビングを通り過ぎ、真直ぐ寝室へと腕を引かれ、そのまま
ベッドの上へと突き倒されて、ようやく。
「ち、ちょっと待てよ、ひーちゃん!!」
「・・・何?」
慌てて身を起こすと、すぐ目の前に龍麻の顔があって。
一瞬ドキリとして。頬が赤らんだような気がして、何やら妙に
気恥ずかしくなり、目を逸らそうとしたのだが。
「京一」
頬を。両手でそっと包み込まれて。
名を、呼ばれると。
「・・・たつ、ま」
その瞳に囚われて。もう、抗うことなど出来ないから。
「・・・・・しよ」
押し倒されるのは、不本意ではあったけれども。
口付けられて、そのまま二人。ベッドに沈んで。
絡めてくる舌に応えながら、覆い被さる形となった龍麻の、背を。
「・・・んッ」
京一の手が、スルリと撫で、そしてそのラインを確かめるように
ゆっくりと辿って。
「・・・・・や・・・」
小ぶりな。引き締まっているけれども、柔らかなその双丘を軽く
掴むようにすると、それだけで龍麻の躯がピクリと震える。
やがて、銀糸を引きつつ離れた唇は、その御返しだとでも言うように
はだけさせた京一の胸元に潜り込み。
空いている手でシャツをたくし上げながら、鍛え上げられた躯を唇で
辿り、そしていつもは京一がそうするように、そこに紅い印を付けていく。
「・・・ッ龍麻、おい・・・」
「ん・・・やッ」
確実に快楽を刻んでいくその行為に微かに息を乱しながら、腹の上を
彷徨う龍麻の髪に、指を滑り込ませ軽く引くと、小さく頭を振りながら
なおも降りていく、舌に。
「・・・・ッく・・」
何時の間にか、すっかり寛げられていたところから、スルリと入り
込んできた指が、京一を捕らえる。
「・・・・・も、こんなに・・・なってる」
微かに笑ったような吐息をそこに感じて、それだけでまた熱が下腹部に
集中していくのが分かる。
その熱の中心を、やがてゆっくりと濡れた暖かいものが這い、先走りを
丹念に舐め取ると、その刺激に更に張り詰める熱塊を、やおら口腔に
導いていく。
柔らかい粘膜にすっぽりと包まれて、益々勢いを増していく昂りを、
その形を確かめるように舌を絡めつつ、唇で、先端を飲み込んだ喉の
奥で。愛おしげに愛撫するのを、目眩がするほどの強い快楽に流され
そうになりながら、揺れる艶やかな髪を、そっと梳いてやる。
こうされるのが気持ち良いと。猫のように目を細めながら龍麻が
言っていたから。大きな手でゆっくりと、黒髪に指を滑り込ませる。
「ッ龍麻・・・」
不意に強く、吸われて。そのまま埒を開けそうになるのを、寸前で
堪えながら。
チュ、と。余韻を残しながら離れた唇。
枕を背に、僅かに上半身を起こした京一に向けた笑みは、震えが
走る程に、蠱惑的で。
「挿れて・・・良い?」
濡れた、紅い唇が。吐息と共に零した言葉に、ゴクリと喉を鳴らして。
それを返事と取ったのか、龍麻は何かに急かされるように下着ごと
ズボンを脱ぎ捨てると。
京一の上に、ゆっくりと跨がって。
「・・・・・んッ」
天を仰ぐそれに手を添え、双丘の奥に息づく蕾に宛てがうと、そのまま。
「あ、ッああああ・・ッ」
満足に濡らしてもいないそこに、そそり立つ肉塊を飲み込ませる。
「たつ、ま・・ッ無理・・・」
まだ狭いそこを、傷つけてしまうかもしれないと、京一が身を離そうと
するのに、
「い、や・・・・ッこ、のまま・・・」
ゆるりと首を振り。
そして。
「・・・・・ッア、あ・・・」
無理に潜り込ませた先端は、ゆっくりとその内に姿を隠し、やがて最初の
きつい抵抗が嘘のように、内壁は柔らかくうねり、貪欲にその根元まで
飲み込んでしまう。
「ぜ、んぶ・・・入った、よ」
呟く、その表情は恍惚としていて。
京一を見下ろしながら、緊張故か乾いた唇をペロリと舐めると。
「・・・く、あ・・・・ッ」
ゆるりと。一度沈めた下肢を浮かせ、そしてまた落とし。
その衝撃に、身を逸らしヒクリと躯を震わせながらも、何度も。
身の内に抱き締めた京一の半身を、そして自らも段々と追い詰めて。
「・・・龍麻・・・ッ」
いっそ鮮やかなほどに乱れるその様を、半ば茫然としながら京一は眺め。
そして。
「・・・ッあ、ん・・ッや、あァ・・・ん」
そろりと、手を。揺れる細腰に這わせ、強い力で捕らえて。
「きょ、うい・・ち・・・ッ」
浮かしかけた躯を、引き戻し。そのまま自らも腰を打ち付けるように
激しく、その肉剣で突き上げる。
「あッ・・・ふ、ああア・・・ん、や・・・あァ・・・ア」
揺れて、揺られて。何度も背筋を駆け上る強烈な快感に、意識を飛ばされ
そうになりながら。己を支えている手の力さえ、それも覚束無くて。
グラリと。下肢を縫い止められたまま、崩れ落ちそうになるその躯を、
抱き締めるように京一の腕が回されて。
その逞しい腕に、背に。しがみついて。
「・・・俺の、番」
くすぐるように、耳元で囁かれ。その声色に、身を震わせながら強く
その背をかき抱けば。
「・・・・あ・・・」
視界が。揺れて、背に当たったシーツの冷たさに身を強張らせる、
間もなく。
「あ、あァ・・ッん・・ふ、ァ・・・あ、あァ・・」
のしかかってくる、躯に。打ち込まれた楔に。
その熱さに、躯も意識もトロリと溶かされてしまいそうで。
「京一・・・・京一・・・・京一・・・ッ」
こんなに奥深くまで、繋がっているのに。ふと不安になって。
何度も何度も、名を呼んでは、その存在を確かめるように。
背に爪を、立てて。
「・・・・・ッたつ、ま・・・・?」
涙が、零れて。
快楽故の、それと。それだけではない、何かに。
震えて、泣いている龍麻に。
躯を繋げたまま、そっと。頬を伝う透明の滴を唇で追い、耳をそっと
甘嚼みして。ふ、と漏れた吐息に触れるように、唇を合わせて。
啄むように、何度も。口付けて。
「・・・・・どした・・・?」
宥めるように、髪を梳いてやりながら。問う声は、優しくて。
また涙が溢れてくるのを堪え切れずに。
「・・・・ね・・・やっと・・・」
「・・・ん?」
「全部、終わらせて・・・・やっと、俺の全部・・・・・京一のものに
・・・・・なれ、た・・・よ」
泣きながら。それでも微笑んだ貌は、とても綺麗で。
「・・・・・龍麻」
「初詣で・・・祈ったこと。叶って・・・嬉しい・・・・・」
全部、終わらせたら。
京一の。京一だけのものに、なりたいと。
そう、手を合わせて。密やかな、願い。
「今年最初のえっちはね・・・・・京一だって決めてたし」
そう言って。まだ濡れた目をして、それでも悪戯っぽく笑うから。
「・・・へぇ・・じゃ、2番目は?」
少しだけ、意地悪をしてみたくて、問えば。
「京一が良い・・・その次も・・・ううん、これからもずっと・・・
京一が、良い・・・」
甘えるように、鼻を擦り寄せて来て。その仕種に、もう。
「・・・・・叶えてやるよ」
カミサマなんかに祈らなくても。
自身の、全てで。
「・・・・・くれる、の?」
告げれば。強請るような、目をするから。
「そうだな、まずは・・・・・」
それ、を。耳元で囁けば。
途端に、頬を赤く染めながらも。
恥ずかしそうに、頷いて。
腕を回して。
もっと、もっと。
これからも、ずっと。