『雨に濡れても』



「何、・・・してるんだい」

 雨に。
 濡れて、その人は。
 遠い街灯、そんな闇の中でも強く儚い光を帯びて。
「・・・・・紅葉」
 振り返り、微笑んだりするから。
 彼がもしかしたら泣いていたのではないかという考えは、だけど拭い去れはしなくて。
「・・・雨、だよ・・・龍麻」
「うん」
「そんなに、・・・濡れて」
「紅葉こそ」
 風邪をひいてしまうよ、と続けようとした言葉は、くすりという笑いに行き場をなくして。
「・・・・・僕は、いいんだよ」
 春先のまだ冷たい雨に濡れて、風邪をひいたとしても。
 それが自分のことならば、痛くも冷たくも苦しくもないのに。
「良くないよ」
 大切な誰か、なら。
 それが目の前にいる、彼であるなら。
 酷く、苦しい。
 胸が、痛い。
 心が、凍えてしまいそうだ。
「紅葉が風邪ひいちゃうのは、イヤだよ」
「・・・その言葉、そのまま君に返すよ龍麻」
 だから、どうか。
 そんな風にひとり暗い雨に打たれていないで。
「君に風邪をひかれると悲しいし、もし風邪をひくのが僕の方でも・・・そうしたら多分
きっと君も同じように悲しむのだとしたら、・・・それもとても辛いよ」
 同じ気持ち。
 そっくりそのまま。
「・・・・・そう、だね」
 身体ごと、ようやく振り向いて。一歩近付いて、そっと差し出された手を取れば、それは
とても冷たくて。
 思わず強く握り締めれば、濡れた貌が切なげに揺れる。
「このまま2人で風邪ひいちゃうのもアリかな、なんて思ったりしたんだけど」
 冗談めいた口調で龍麻が呟くのに。2人で枕を並べて寝込んでいる図に、ほんの少しだけ
心惹かれてしまったのは内緒だけど。
「そうだね・・・風邪をひいて君が高熱を出したら、僕が座薬を挿れてあげるよ」
「・・・・・お、れだって・・・紅葉の熱が・・・」
 拗ねた瞳が見上げてくるのに、真面目な顔で向き合って。
「なら、挿れ合いっこになるね」
 さらりと告げれば。
「ッ、・・・・・」
 途端、引きつった表情に、苦笑がもれる。
「なんて、ね」
「・・・紅葉の変態」
「挿れる方ならね。僕はそれなりに巧くなったつもりだけど。とりあえず、2人とも風邪
なんてひかなければいいんだよね、龍麻」
 導かれた結論のままに。冷え切った身体を暖める場所へと足を向ける。
「・・・・・聞かないのか?」
「何を?」
 どうして。
 こんな時間、あんな場所に、ひとり。
 雨に濡れて佇んで。
「君が話したくなったら聞くよ・・・・・ベッドの中で」
 抱きしめていてあげる、から。
「あのね、紅葉」
「だから、・・・お願いだよ、龍麻」
 どうか。
 ひとりでは。
「・・・・・暖め合いっこ」
「うん、そうだね」
 僕も。
 君も。
 互いの半身に。
 抱きしめられているのだから。




ベッドの前にバスルームでも頑張るとイイよ(何)!