『相棒宣言』



   お前と相棒になる前に言っておきたいことがある


 そう前置きして、ビシッと人差し指を突き付けられれば、それは
どこの関白宣言なんだと突っ込みたくもなるのだけれど、それでまた
この少年の御機嫌を損ねて余計な言い争いなどしてしまいたくなくて、
ライカは小さく頷くとその先を促した。
「相棒とは、すなわち行動を共にするペアだ」
 至極まともな意見だな、とまた頷けば、満足げに胸を張るのがいっそ
微笑ましい。
「ということは、だ。仕事の時だけでなく、日常生活においても同様
なんだ」
 日常生活においても常に行動を共にする。それは、これからカイトと
同棲に持ち込もうとしているライカにとっても当然そうであるべきこと
で。
 真面目な顔で頷いてみせれば、ますます得意げに腕組みまでするのが
可愛らしいと、思わずチョコレートの1つも与えたくなるが、それは
万が一カイトが御機嫌斜めになってしまった時のためにとっておいた方
が良さそうだと判断して、静聴に努める。
「まず、寝食は必ず共にする」
「・・・・・食事はともかく、寝るのも一緒なのか?」
 思わず問うてしまうのに、カイトは不満なのかとばかりに眉を顰める。
「当たり前だろ!スイヒと俺はいつも一緒に寝ていたんだからな!」
 スイヒと同等に扱われているらしいのは、喜ぶべきなのか否か。微妙
な立場に、だがやはりここはカイトを立てて、そうだなと頷く。
「念のため確認しておくが、俺とお前が1つベッドで一緒に寝るという
ことで良いんだな?」
「相棒なんだから当然だろ?」
 言質は取れた。これはつまり、新婚さんよろしくそういうコトになる
のだと、ライカは大きく頷く。
「勿論、風呂だって一緒なんだからな!」
 明らかに、相棒イコールスイヒな基準で考えていると思われるのだが、
この状況がライカにとってみればむしろ大歓迎であるから、余計な口を
挟んで前言撤回などさせてはならない。
 ベッドも風呂も一緒。となれば、それだけ太股を愛でる機会も増える
というもので、当然太股を撫で回すだけで済ませる気も更々ないのだが。
 こういう関白宣言も良いものだと、全く無関係な某歌手に感謝したく
なる。
 そういえば、うろ覚えではあるが、こんな感じの歌詞もなかったか。

   俺より先にイッてはいけない。
   俺より後に以下略

「ああ、そうだな・・・一緒にイこう」
「どこへだよ?」
 知らず呟いてしまって、訝しげな顔をするカイトに、取り敢えず今は
悟られないよう冷静に返す。
「どこへでも、だ・・・カイト」
 俺たちは相棒なんだから、と。
 相棒とは本当に素晴らしいものだなと改めて感じ入りつつ、口元を
弛ませながら応えれば、それが殊の外優しげな笑顔になっていたようで、
目の当たりにしたカイトの頬がほんのり朱に染まる。
「わ、分かってるなら良い!」
 ああ、分かっているとも。
 俺たちは相棒で一心同体で。食事も寝るのも風呂も一緒。
 一緒、に。
「フッ・・・・・」
 つい弛んでしまう口元は、それでも傍目から見れば穏やかな笑みを
浮かべているに過ぎず。
 その、思わずカイトを赤面させた柔らかな綺麗な笑顔の裏で、それは
もうモザイク乱舞な光景が繰り広げられていることなんて。
 カイトは知らない。
 それが、すぐに日常茶飯事になることも。

 幸か不幸か、まだ気付いてはいない。

「末永くよろしく、・・・カイト」
「え、っ・・・あ、こ、こちらこそ・・・えっと、ふつつかものですが
宜しく・・・?」
 三つ指つきつつ御挨拶な状況が目に浮かぶ。
 ここがサンマルコのカフェでなく新婚初夜の寝所なら、すぐにでも
可愛がってやれるのに、とライカが心の中で無念に思っていたことも。

 今は、まだ。
 知らなくてもイイこと。






むっつりばんざい。
というか、某歌手ラバーな皆様ごめんなさいごめんなさい。