『deep in your body』


 女が3人集まると、姦しいというらしいが。
 男が3人集まると、そっちの話に花が咲いてしまうのは。
 古今東西、そういうものなのだろうか。


「ってか、アンタも相当な女ったらしだよな」
 ガツガツと目の前のケーキにフォークを突き刺し、頬杖をつきながら
王子によく似た眼差しが、しかし違う色合いを乗せながら睨めつける。
ちょうど王子の格好をして城内を闊歩していた時に、数人の若い娘たち
から、カイルの所業について苦情を受けたのだという。
 -----アタシを口説いた1時間後には違うコに声かけてるんですよ !
 うんゴメンね僕からも注意しておくから、と。
 影武者となるにあたり、しっかり身に付けたプリンススマイルでその
場を切り抜け、そして王子本人が帰城し、軍儀の間に向かったところで
王子と共に出掛けていたカイルを呼びつけ、おやつがてらこうして食堂
で文句を並べているうちに。
 いつしか。
 話は微妙に逸れていく。
「女王騎士になる前も、かなりのもんだったって聞いたぜ」
「もー、やだなあロイくんてば。それじゃオレが只の節操なしみたい
じゃないかー」
「自覚あんじゃねえか、この下半身男」
 酷いなあ、と言いつつも顔は笑っていて否定はしない。
 何故かその場に付き合わされてしまったヴィルヘルムは、ニヤニヤと
人の悪い笑みを浮かべながら憤慨する少年と笑顔の青年を眺める。
「まあ、ソッチにつける薬はねえからな」
「薬って、病気じゃないんですからー」
「ある意味病気だよ、アンタら」
 ロイからしてみれば、女にだらしないというのは決して好ましいもの
ではない。あっちにもこっちにも声かけて口説いて回るだなんて、ロイ
自身別に潔癖というわけではなかったが、この大人たちの所業は少々
目に余る。
「お子様には分かんねえだろうなあ、まだまだ」
「うるせーよ、おっさん」
 その余裕も気に入らない。
 小馬鹿にした態度も気に食わない。
「アンタら、絶対どっかに隠し子いるぜ。たっくさんな」
「んー、ああそりゃあどうだかなあ」
 チクリと棘のある言い方をしても、どこ吹く風。
 そして。
「あ。オレは絶対ソレだけはナイなー」
「・・・・・は?」
 にこにこと。
 笑みを絶やさず、しかしきっぱりと断言するのに。
「アンタ、あれだけやっといて・・・」
「あれー、どれだけヤったかロイくん全部知ってるんだーえっちー」
「ば、・・・っ知るか ! 」
「取り敢えず、隠し子なんていないし。出来る訳ないし」
 うんうんと頷くカイルに、ヴィルヘルムが眉を顰めながら問う。
「てめえ、不能か」
「違いますよーバリバリ絶好調ですよ、昔っから。寝た女の数なんて
そりゃさすがに覚えてませんけど、絶対子供は作ってないです」
 くすり、と。
 カイルはやや艶めいた笑みを口元に描く。
「中で出したこと、ないですもん」
「な、・・・なっ・・・・・」
 さらりと告げれば、向かいに座るロイの顔が真っ赤に染まる。
「あれ、ロイくん初々しい反応ー。もしかして童貞?」
「ちっ、・・・そういうこた、どうでもイイ ! 」
「ま、そっちは追々聞いてやるとして。中出ししなくても出来る時ゃ
出来るぜ、ガキ」
 真っ昼間の食堂。
 他の客がいないのが幸いと、レツオウは聞こえない振りをする。
 シュンミンも稚魚の世話でここにはいなくて良かった。
「オレ、つけないで挿れたりしてませんし」
「・・・・・1回ぐらいナマでヤってんだろーよ」
「そんなコワイことしませんって」
 くすくす、と。
 笑う様子が、ロイには不気味にすら思える。
「怖いって、病気うつされたら、とか・・・」
「ああ、それもなくはないけど。やっぱ子供出来ちゃうと困るし」
 やはり笑みを浮かべたまま。際どい発言が続く。
「その辺りはお互い割り切ってるっていうか。そういうお付き合いが
出来ないコとは寝ないし。愉しむだけの関係なら、確実に避妊する
ってのは相手のオンナノコに対する礼儀だと思うんだけどなー」
 大事にしてあげなくちゃね、と付け加えるのに。
「・・・マジかよ・・・ったく」
「・・・・・ま、ある意味正論だな」
 にやり、と笑みを濃くしたヴィルヘルムが、ふと今ちょうど気付いた
ばかりであるかのように。
 唐突に、告げる。
「その辺り、王子さんが理解出来たかどうかは分かんねえがな」
「・・・・・え」
 刹那。
 カイルの笑みが強張る。
「いたぜ、さっきまであの辺りに。そこの坊やみたいに真っ赤っかに
なるかと思いきや、真っ青になってたところを見ると、相当ショック
だったのかもなあ」
 さあどうするんだ、と。
 ヴィルヘルムの言葉を聞き終えないうちに、カイルは椅子を倒す勢い
で立ち上がり、そのまま王子が立ち去ったと思しき方に走り出す。
「・・・・・もっと早く教えてやれよ、おっさん」
「まあ、聞いちまったもんは、しょうがねえな」
「ったく・・・何も知らないくせに・・・」
 ブツブツと苦い顔で呟くロイに、ヴィルヘルムはククッと喉の奥で
笑う。
「知らないわきゃねえだろ。あの色男の本命が何方様かぐらいはな」



「・・・っ王子 ! 」
 ちょうどファルーシュの部屋の手前、階段を昇り切ったところで
その背に追い付く。呼び止めれば、逃げることもなくその場で足を
止めてくれたことに、ほんの少しだけ安堵しながら。
 ゆっくりと歩み寄り、やや躊躇いがちに手を伸ばせば、近付く気配
を察したのか、くるりと銀の尻尾を揺らして王子が振り返る。
 確かに。
 その貌は白く、やや青ざめて見える。
 何か言いたげな瞳に浮かんでいるのは、困惑かそれとも。
「何か、・・・変な話聞かせちゃったみたいで・・・済みません」
 場所柄も弁えずにああいった話題で声も潜めずに盛り上がっていた
ことは、多少なりとも反省している。
 だけど、王子が。
 王子にこんな顔をさせてしまったのは、そういうことではなく。
「・・・・・軽蔑、してます?」
 そっと問えば、細い肩がピクリと震える。
 だが、ハッとしたようにふるふると首を振る様が可愛らしくて。
 こんな時なのに、抱きしめたくなって、カイルはこっそり苦笑する。
「そう、じゃ・・・なくて」
 微かに震える唇も堪らなく愛らしい。
 キスしたいなー、なんて。
 本当に、そんなこと考えてる場合じゃないのに。
「礼儀、だ・・・って・・・言ってた」
「え? ・・・ああ、そうですね」
 それについて、弁解だとか否定だとかはしない。
 だって、紛れもない本音であって。
「大事、に・・・してる・・・から、って・・・・・」
「女の子はデリケートですからねー」
 本当のこと、だったから。
 けれど。
「じゃあ、・・・どうして・・・だよ」
「・・・はい?」
 言い淀んでしまったらしい、それを。
 こんなところで聞き返さずに、場所を変えるべきだったと後でそう
思っても。
「どうしていつも僕とする時は中に出すんだよ・・・っ ! ! ! ! ! 」
 遅いというもの。
 少なくともこのフロア一帯、もしかしたらルセリナのいる辺りにも
響いていたかもしれない、そんな大声で。
 カイルでさえ、半ば呆然として言葉を失ってしまうようなことを、
ファルーシュは頬を朱に染め上げながら叫んでしまっていた。
 しばし、の沈黙。
 それを破ったのは、勢い余ってかゼイゼイと肩で息をしていた王子
の方で。
「・・・・・帰る」
 そう言って踵を返すのに。
「帰る、って・・・ちょっと待って下さいよー、王子」
 我に返って慌てて引き留めるのを無視して、大股で自室へと向かう
のを追い掛ける。ちらりと窺った耳は、真っ赤で。ああ齧りつきたい
なあ、なんて。どうしようもない自分にまた苦笑しながら。
「中で、じっくりお話ししましょう、ね」
 ファルーシュが開け放したドアの隙間に滑り込む。
 閉め出されなかったのは、完全に拒まれているのではないという
こと。
「王子」
 向けられた背に呼び掛ければ、渋々といった様子で振り返る。
 頬はまだほんのりと赤くて。美味しそうだなあ、と不埒なことを
思えば。
「・・・・・カイルは女の子が大事、なんだ」
「・・・・・ぶっちゃけ、王子の方がずっとずーっと大事ですけど」
 そんな本音も、ファルーシュはどこか疲れたような笑みで流す。
「中でしか出さないくせに」
「中で出したいからです」
 傍から見ればとんでもない会話だが、他に聞く者などおらず。
「・・・・・男の子は子供出来ないしね」
「王子が産みたいならオレも協力は惜しみませんよー」
「・・・っ、ふざけないでよ・・・ ! 」
 詰め寄る王子に、カイルは涼しい顔で。
「ふざけてなんて。本気ですよー、オレ」
 だけど、至極。
 真面目な顔で。
「王子の中で出したい、から。ゴムなんか着けず、直に王子の中を
味わいたい、から。王子の熱くてきつくて柔らかい粘膜に包まれて
オレの固くて太いので王子のイイトコロ突いて擦り上げて。ギュウ
ギュウ締め付けられて、オレしか知らないずっと奥の深いところまで
捩じ込んで。オレの欠片、全部王子の中にブチ撒けたい」
 言い放つ。
 なんて。
「・・・・・な、に・・・」
「一番近くで王子を感じたいんです」
 だから。
「オレ、を。中でイくオレを・・・オレに中を濡らされる感触を
知ってるのは、王子だけなんですよ・・・・・王子だけ、でイイ」
「・・・・・カ、イル・・・」
 カクリ、と王子の膝が崩れる。その場にしゃがみ込みそうになる
のを、カイルの腕が受けとめて、そのまま。
 ふわりと抱き締める。
「カラダ、熱いですね」
「っ、・・・」
「オレの告白聞いて、感じちゃいました?」
「ち、が・・・っ」
「・・・・・ウソツキ」
 耳元で笑う吐息にさえ、ビクビクと身体が反応してしまう。
 熱い。
 熱くて。
「・・・・・欲しい、でしょ?」
 溶かされてしまいそうに。
「ココに、オレの」
 背に回されていた手が滑り降りて、するりと小さな尻を撫でる。
「挿れて欲しくないですか?・・・生身のオレをココに咥え込んで、
いっぱい突かれて掻き回されて。トロトロになるまで可愛がって
中にたっぷり注ぎ込んであげますよ」
「っ、・・・・・」
 ヒクリ、と。
 まだ直接触れられてもいない下肢が疼く。
「あ、・・・っ・・・カイル・・・カイル、・・・っ」
 しがみつく指が震えている。
 見上げてくる瞳は既に熱っぽく潤んで揺らめいて。
「ちゃんと、・・・言って下さい。王子」
 耳朶を濡れた舌が舐め上げる、から。
 もう。
「カ、イル・・・の・・・っ、挿れて・・・僕の中・・・・・っ」
「・・・挿れるだけでイイんですかー?」
 いじわる。
 しないで。
「僕、の・・・っ中・・・いっぱい動いて、気持ち良く・・・」
 首筋に落とされたキスに、また熱が上がる。
「して、・・・気持ち良く、なって・・・僕の中で・・・イって」
「・・・・・喜んで」
 欲に掠れた声で。
 そう囁かれた刹那、力強い腕に抱き上げられる。
 不安定な姿勢に慌ててしがみつく暇すら与えられず、ベッドに
投げ出すように横たえられて。スプリングが軋んで、跳ね上がる
より先に、のしかかってきたカイルの重みに沈んで。
「・・・・・カイル」
 キスして、と。
 甘い吐息混じりの誘惑に溺れる。
「沢山、・・・・・あげますね」
「・・・うん」
 恥ずかしげに震えた睫毛を掠めるように、目元にも口付けて。
 このしなやかな身体の。
 余すところなく。




黒くなり損ねた・・・カイル。
取り敢えず、王子の中で出すために生まれて来た人(えー)。