『微熱』


 下肢から聞こえる濡れた音がキライ。
 はしたなく零れる自分の喘ぎがキライ。
 でも。
「・・・・・王子、っ・・・」
 この声は。
 いつもの飄々として明るい声も好ましいけれど。
 この、ちょっと掠れた、余裕のない声は。
 もっと好き。

 もらした笑いに、散々揺さぶっていた動きがふと止まる。
「おーじー?何思い出し笑いしてるんですかー?」
 いやらしいなー、と、からかいながら咎めてくる言葉に、瞑っていた
目をゆっくりと開ける。
 覗き込んでくる瞳は済んだ空の色。
 でもその彩に混じる濃い欲情の気配に、口元が弛む。
「随分、余裕ですねー」
「そんなこと、ないよ」
 そんなわけ、ない。
 一糸纏わず、ベッドに組み敷かれて。
 大きく脚を開かされて、その間に男の腰を挟み込んで。
 信じられないような場所に、信じられないくらい固くて太いものを
挿れられて。
 突き上げられて、何度も。
 内も外もドロドロに汚して汚されて。
 こんな状態の僕のどこに、余裕なんてあるの。
「ま、痛い痛いって泣かれるよりは、よっぽどイイですけどー」
 そんなことを呟きつつ、その後に「でも泣き顔も凶悪に可愛いから
罪ですよねー」なんて。軽口を叩くその声も、やはり少し掠れていて。
 ああイイな、と思う。
 そんな自分は、どこかおかしいんだろうか。
「・・・・・カイル」
 激しかった動きを止めてしまった雄を促すように。
 誘うように、そろりと繋がった部分を擦り付けるようにすれば、
小さく息を飲む気配がして、物言いたげな視線が落とされる。
「・・・・・ほんと、いやらしいなー」
「誰のせいだと思ってるんだか」
 苦笑混じりの声に、お返しとばかりに言い放てば、すぐに思い通り
の言葉が返ってくる。
「はーい、オレのせいですー」
 そう。
 全部、カイルのせいだ。
 だから。
「だからいつも言ってるでしょ? 責任とりますって」
 そう。
 だって、カイルのせいなんだから。
「だから、王子・・・・・オレを捨てないで下さいねー」
「・・・・・何ソレ」
 口調は軽く。あくまでも。
 でも。
 目は全然笑っていない、のが。
「王子をこんないやらしいコにしちゃったのはオレですから。だから
こんないやらしい姿見せるのはオレだけにして下さい」
「・・・・・誰が見せるんだよ」
 冗談じゃない。
 こんな恥ずかしい姿、誰かに見られてたまるか。
「見せないですかー?」
「見せないよ。見せる訳ないだろ」
「ほんとにー?」
「絶対」
「絶対にー?」
「ああ、もう ! 」
 しつこく食い下がるカイルに、苛ついて声を張り上げる。
「カイルにしか見せないって言ってるだろ!?」
「はーい」
「っ、・・・・・」
 僕の言葉に。
 カイルは、それはもう輝くばかりの笑みを浮かべて。
「オレだけ、ですよね」
 覆い被さるようにして、熱い吐息が唇に触れる。
 すると、中に収まったままのものが角度を変えて潜り込むから。
「ん、っあ・・・・・」
 不意に突かれた場所から駆け上った快感に、思わず甘ったるい声が
零れる。
「・・・・・もっと、聞かせて下さいよ」
 唇を啄みながら、ゆうるりと下肢を押し上げられる。さっきまでの
激しさとうってかわって、そのまどろっこしい所作はさざ波のような
快楽を送り込んで。
「や、ぁ、あ・・・っ、ん・・・・・ふ」
 ゆっくりゆっくり追い上げられる感覚に、焦らされる。
「カ、イル・・・カイル、も・・・っと」
 焦れったくて。
 もっと。
 強く、激しいものが欲しいとねだれば。
「もっと、ゆっくり・・・?」
 微かに笑いを含ませながら、だけど大好きな熱を孕んだ声が耳朶に
囁くから。
「もっと・・・いっぱい、して・・・カイル、カイル・・・っ」
 甘えるように肩口に鼻を擦り付け、逞しい腰に脚を絡めて誘う。
 ぐ、とまたカイルのが大きくなったのに、ひくりと飲み込んだ部分
を震わせながら、背に回した腕で強く掻き抱く。
「っ、おう・・・じ」
 もっと。
 もっと呼んで。
 その声で。
 僕を満たして。

 こんなに。
 こんなにも求めてしまうのは、カイルのせいだから。
 僕だけに囁いて。
 その熱を。
 僕だけに、与えて。





ちょこっと(?)エロ。責任取る気満々で手を出してますから(え)。