real face


「マリノ、は・・・ベルクートのこと、好き・・・だよ」
 何故。
 今更そんなことを。
 こんな、時に。
「・・・・・ええ、知って・・・いますよ」
 らしくない、と言われるかもしれない。
 酷く苦い笑みを口元にしいて、応えた声も。
 告げられた言葉も、けだるい熱を伴って掠れた響きで薄暗い部屋の中、
先程から規則的に奏でられる淫猥な音に重なる。
「そんな、ことを・・・こんな、時に・・・・・っ」
 グ、と腰を捩じ込めば白い喉が無防備に仰け反るのに、誘われるまま
柔らかな皮膚に軽く歯を立てれば、深く肉楔を飲み込んだ部分がきつく
締め付けてくるから、思わずくぐもった呻きが洩れる。
「・・・っで、んか・・・」
「あんなに、好きなのに・・・ね・・・」
 快楽に蕩けた貌が、ふわりと微笑みながら呟くのに。
「・・・・・どなたに聞いたんですか」
「ん、・・・何・・・何のこと・・・?」
 淫蕩な天使の笑みに、不意に凶暴な気持ちが沸き上がってきて、深く
突き込んだ腰をそのままにいつになく乱暴に揺すり上げれば、途端高い
嬌声が上がるけれど、うっとりとした微笑は消えることはなく。
 濡れた瞳が、ベルクートの行為をむしろ促すように細められる。
「・・・今日、・・・私たちが出掛けた先でのこと、を・・・・・」
 そう、だから。
「・・・・・知ってるよ」
 あなたは、そんなに。




 マリノが買い出しに行きたいからと、ベルクートの同行を希望してきた
のは、昼過ぎのこと。殿下のお許しを頂かないと、と告げたベルクートに、
ならばすぐに許可を貰いにとやや強引に腕を引かれ、向かった王子の部屋。
ノックをすれば、すぐに顔を覗かせた王子がベルクートの顔を見て微笑み、
そしてその隣にマリノの姿を認めて首を傾げる。
 どうしたの、と王子が言い終わらないうちに、意気込んだマリノが買い
出しにベルクートを伴いたい旨を申し出れば、やや上目遣いにベルクート
に視線を移した王子は、にっこりと微笑って頷いた。
 良いよ・・・ゆっくり楽しんできて、と。
 告げられた言葉に、ベルクートはマリノに気付かれないようにこっそり
落胆の溜息をついた。ダメだよ、と。そう言ってくれるのではないかと
自惚れてしまっていたことも、沈んでいく気持ちに拍車をかける。
 ひらひらと手を振って見送る王子に、マリノは上機嫌で。その後を歩く
ベルクートの足取りは、あくまで気取られないように、だが重く。
 こっそりと振り返ってみれば、王子はもう部屋に入るのか背を向けて
しまっていて。
 その後ろ姿を、しばし見つめ。やがて、また小さく溜息をこぼしつつ、
意気揚々と先を歩く少女を早足に追った。


 賑やかな港町エストライズは、買い出しにはもってこいの場所だ。
 だがしかし、はしゃぎながら並ぶ店先を覗いては手に取っていく品物を
伺えば、ここでしか買えないというものではなく。それでも、敢えて口を
挟むことなく、マリノのやや後方数歩下がった位置でその様子を見守る。
護衛、という意味では最も適した立ち位置ではあるが、以前しばらくの間
ストームフィストを出て2人で各地を転々としていた頃、マリノはそれが
不満であったらしい。どうして並んで歩いてくれないの、と詰め寄られて
真面目な顔で理由を述べれば、渋々ながらも頷いてはいたが。
「うわあ、これ可愛い・・・ねえねえ、どうかなあベルクートさんっ」
 弾んだ声に、ふと逸らしていた意識を戻せば、若草色のリボンを手に
したマリノが瞳を輝かせてこちらを見ている。
「・・・・・どう、とは・・・」
 困ったように首を傾げれば、ふっくらとした頬が拗ねた素振りで一層
膨らむ。
「もう、ベルクートさんたら・・・」
 しょうがないなあ、と。手にしたリボンを髪に添わせる仕草をするのに。
「お兄ちゃん、こういう時は可愛いね良く似合ってるよって言ってあげる
のが甲斐性だよ。お嬢ちゃんも、こんな鈍い恋人持って大変だねえ」
 店番の初老の女性が、含み笑いをしながら声をかけてくる。
「や、やだ・・・恋人だなんて・・・っ、そんな・・・・・」
 ふるふると恥ずかしげに首を振りながらも、薄紅に染まったその顔は
まんざらでもなさそうで、視線はチラチラと反応を伺うようにベルクート
に向けられる。

 正直-----鬱陶しい。

 そう思ったのが表情に出そうになったのをどうにか堪えて、ベルクート
は至極真面目な顔で店番の女性に告げる。
「私とその方とは、そういう関係ではないので・・・・・行きましょう、
マリノさん」
 きつい物言いにはならなかっただろうとは思うのだが、マリノの表情は
明らかに失望の色を浮かべていて。
 だからといって、敢えて話を合わせてやる必要はないはずだ。
「マリノさん、我々は遊びに来ているのではないのですよ」
 そうだ。買い出しに行きたいというから、わざわざ王子殿下に許しを
貰ってここに来ているというのに。羽根を伸ばしたい気持ちも分からなく
はないが、そんなマリノひとりの個人的な気晴らしに、殿下の元を離れて
自分が付き合う義務なんて、と。
 まさかそんなことを胸の内で考えているなんて、マリノも多分ここには
いない仲間たちも思いもよらないだろうと、ベルクートは踵を返しながら
口元を歪める。
 「優しいベルクートさん」、なんて。
 そんなものは表面の薄っぺらい皮だけのモノだ。
 人当たりの良さも、闘技奴隷であった過去から逃げて、逃れて。そして
生きていく内にいつしか、身についていたもの。褥の中、そんな己を曝け
出してしまっても、その人は。
 でもそれはあなたの内に確かに在ったものだよ、と微笑んで抱きしめて
くれた。
 そう。
 本当に自分が優しく在りたい人は、たったひとり。
 ただひとりだけ、なのだから。

「ま、・・待って、ベルクートさん・・・っ」
 気がつけば、随分と早足で歩いてしまっていたのだろう。しばし呆然と
立ち尽くしていたらしいマリノが慌てて後を小走りに追ってくるのに、
ようやく気付いて足を止め、振り返る。
「・・・・・済みません」
 置いてきぼりにしてきてしまったことに対して謝罪すれば、マリノは
またふるふると首を振って応える。
「ううん、ベルクートさんは悪くない・・・・・あたしの我が侭で、
ここまで付き合わせてしまって・・・ごめんなさい」
 自覚はあったのかと、溜息が洩れそうになったのをこちらも首を軽く
振って誤魔化して。
「用が済んだのなら、そろそろ戻りましょうか」
 「優しいベルクートさん」の顔で促せば、また薄らと頬を染めながらも
名残惜しげな様子を見せる。
「あの、・・・・・お茶だけ・・・して、帰らないかな・・・って」
「・・・・・マリノさん」
 つい零れた、たしなめる声色に、それでも半ばむきになったように。
「お、王子様も・・・ゆっくりしてきてって・・・言って・・・下さって
た、・・・から」
 語尾が段々と小さくなり、やがて俯いてしまう。
 こんなところで、その名を出すのは狡いと思ったが、苛立ってしまった
せいか、やや喉が乾きを訴えていたのは事実で。
「では、少しだけですよ」
 あくまで穏やかな口調で告げれば、勢い良く顔を上げたマリノの表情が
パアッと明るくなる。
「はいっ、・・・えっと、じゃあ・・・あそこ、あのお店がいいな」
 さっきまでの萎れた様子はどこえやら、スキップまでしてしまいそうな
足取りの軽さに苦笑を洩らしつつ、その後をついて歩く。
 つい最近リニューアルオープンしたのだというカフェに、2人は入って
それぞれ飲み物を頼む。お勧めのケーキがあるんですよ、という初々しい
店員の笑顔に、マリノはちらりとこちらを伺いつつ、じゃあそれもと頷く。
 やがて運ばれてきた飲み物、そしてケーキはフルーツがこれでもかと
乗せられた、見た目から美味しそうなもので。歓声を上げるマリノを眺め
ながら、あの方もこういうものがお好きだったなと、ふと思って。
「あの、・・・済みませんが、このケーキは持ち帰りに用意して頂けるん
でしょうか」
 やや躊躇いがち問うてみれば、勿論ですよと明るく頷かれるのに、では
2つ箱詰めにして下さいと頼んで、ようやく飲み物に口をつける。
 コーヒーなど、取り敢えず飲めれば味など気にしないベルクートでは
あったが、そんな貧しい舌でもこれはなかなか旨いものだと思えたからか
自然と口元が綻ぶ。
 そんなベルクートの淡い微笑みに、マリノはうっとりとした視線を送る。
「だったら・・・いいのにな」
「・・・何か?」
「あ、っ・・・ううん、あの・・・ね」
 この人が。
 ほんとに恋人だったらいいのに。
 ううん、恋人になってくれたら。
 そうしたら、どんなにか。
「こ、こうしてるとデートみたいだなあって思って」
 少なくとも、傍目から見ればこれは紛れもなくデートだ。
 さっきの店のおばさんにだって、恋人同士に見られていたくらいなんだ
から、だったら本当にそうなってもちっともおかしくなんかない。
 今日だって、嫌がらずについてきてくれた。
 ストームフィストからヤシュナ村までの旅の間だって、色々と気遣って
くれて、とてもとっても優しくしてくれた。
 ならば。
 きっと。
「あのね、あたし・・・・・」
「・・・・・ちゃんと、お伝えしておくべきだとは思っていたのですが」
 不意に。
 真摯な瞳に見つめられて、鼓動が高鳴る。
「な、何・・・ベルクートさん・・・」
 こうして見つめ合う2人は、まさしく恋人同士なのではないだろうか。
 甘い幻想が、マリノの表情を弛ませる。
「私の気持ちを、・・・・・知っておいて頂きたいんです」
 こくこくと頷く恋する乙女の夢は。
 だが、しかし。
「大切な人がいます・・・とても、愛おしい人が。だから、マリノさん
・・・あなたの気持ちには応えられません」
「っ、・・・・・・・」
 それは無惨にも、今この場で打ち砕かれた。
「ベ、ルクート・・・さん・・・?」
「もっと早く・・・お伝えすべきでした・・・済みません」
 何故。
 今、こんなところで。
 そんなことを、言うのだろう。
「・・・・・う、そ・・・」
「嘘じゃありません」
 縋る言葉は、だがきっぱりと否定される。
「だ、誰なんですか・・・それ・・・・・」
 そんな。
 どうしようもなく幸せな人は。
「それは、言えません」
 一体。
 誰。
「どうして、教えてくれないの・・・っほんとに、そういう人がいるっ
て言うんなら、隠さずにちゃんと」
「言えません」
 頑なに。
 そう言い続ける訳は。
「言えないような、相手なんだ・・・」
 隠さなければならないのは。
「大っぴらに出来ない、そんな関係・・・だから?」
「・・・マリノさん」
「こんな風に。デートして、みんなの前で恋人同士なんだって言えない
ような、そんな・・・そんなの、ダメよっ・・・そんなの全然楽しく
ないし、ベルクートさんちっとも幸せじゃな・・・・・」
「っ、いい加減にしてくれ ! 」
 ダン、と。
 テーブルを叩く音に、辺りが一瞬にして静まり返る。
 息を飲み、信じられないといった顔でしばらくベルクートを凝視して
いた瞳が、次第に潤んで。
「・・・っ、うわああああん」
 ポロリと涙を零したと思った刹那、テーブルに突っ伏すようにして、
大声で泣き出してしまったのに。
 ベルクートは、この場で女の子を泣かせた悪い男というレッテルを
貼られてしまったのを突き刺さる周囲の視線で悟る。
 確かに、怒鳴ってしまったのは良くなかったと思う。しかし、こんな
風に大声で、さも自分が被害者であると主張するかのように泣き出す
なんて、たとえ意識はしていなかったとしても狡いのではないか。
 それに。
「あなたが決めることではない・・・マリノさん」
 幸せだとか、そうでないとか。
「無理に理解して貰おうとは思いません・・・だけどあなたの価値観で
私が幸せではないなどと、決めつけないで下さい」
 何も知らない人に、言われたくはない。
「私は、・・・・・とても幸せなんです」
 初めて好きだ、と。
 そういう感情を知らしめてくれた相手と。
 身も心も。
 触れ合える、ことが。
「・・・幸せ、なんです」
 独り言のように呟いていたベルクートの表情を、まだテーブルに顔を
伏せたまましゃくり上げているマリノは知らない。
 その蕩けるような微笑みを目にしたなら、或いは。
 諦めもついたのだろうか。


 買い出しと言う程の荷物らしい荷物もなく、城に戻る道中2人は無言
のままで。帰還してすぐ、王子殿下に報告をしてきますのでと告げれば、
マリノは赤く泣き腫らした目を隠すように俯き加減のまま小さく頷いて
ベルクートに背を向ける。
 それを見送ることなく、ベルクートは真直ぐに王子の部屋へと向かう。
もしかしたら不在であるかもしれない、と心の片隅に不安が芽生えた
けれど、コツコツとドアをノックすれば、ややあって開いたその先。
「お帰り、ベルクート」
 待ってたんだよ、と。
 微笑みとその言葉に、身体中を歓喜が満たす。
「只今戻りました、殿下・・・・・その、これは僭越ながらお土産にと」
 手にしていた箱に視線を向けた王子に、ベルクートがやや照れたように
それを差し出せば、嬉しそうに受け取って胸に抱いてくれるのを愛おしげ
な瞳で見つめながら。
「ケーキがお好きでいらしたかと思いましたので」
「うん、大好き。有難う、ベルクート」
 ケーキと聞いて更に瞳を輝かせるのに、見つめる目を細めつつ。
 やがて、促されるままに部屋へと足を踏み入れる。
 最初の頃は、恐れ多いと固辞しては強引に引き入れられるということの
繰り返しであったが、今はもうすっかりこの部屋の空気に馴染んで。
 ベッドに腰掛けた王子が、その隣をポンポンと叩いて促すのに、躊躇う
こともなく腰を降ろす。
「2個あるね」
 箱を開けた王子が、そう言って傍らのベルクートを見遣るのにニッコリ
と頷く。
「殿下はいつも、1個では物足りないとおっしゃっていましたから」
「・・・・・そうだけど」
 よく覚えてるね、と。はにかんだ貌も眩しくて、愛おしさに目眩さえ
感じる。
「じゃあ、まず1個・・・頂きます」
 零れ落ちそうにフルーツが盛られたケーキを、小さな口が思いのほか
大きく開いてカプリと齧る。
「・・・・・美味しい」
 ゆっくりと咀嚼し、コクリと飲み込んで。思わず、といった風に呟く。
「お口にあって良かったです」
「ほんと美味しいよ。ベルクートは食べた?」
「いいえ、・・・私はコーヒーだけ頂きましたので」
 そうなんだ、と首を傾げながら。
 ややいたずらっぽい光を浮かべた瞳が、ベルクートを捕えて。
「じゃあ、一緒に食べよう?」
「え、・・・いえ、私は」
 その申し出はとても嬉しかったけれど、これは王子のために買って
来たものだから、と。
 遠慮気味にやや引いた身体に、その分。否、それ以上王子が近付いて。
「・・・・・食べて?」
 小さくケーキを齧った口が、笑みの形に弧を描きながら寄せられる。
 微かに触れた甘い香りは、どちらのものだったのだろうと。
 考える間もなく、柔らかな感触が押し当てられるのに。
 いつもそうしてきたように、そっと唇を開けば、それを待っていたかの
ように、甘い舌が忍び込んでくる。
「・・・・・ん」
 ケーキの甘さと、それは重なって。いつしか夢中で貪ってしまっていた
のはベルクートの方で、微かに笑った吐息にハッとしたように唇を離せば、
こっちは後で食べようねとケーキの箱を目で示すのに、頷いてそれを傍ら
に押しやって。
「・・・・・そんなに美味しかった?」
 くすくすと笑いながら囁く唇に、そっと吐息で触れながら。
「もっと・・・頂いても宜しいでしょうか」
 殿下を、と。
 告げたそれに満足げに目を細めるのに、ああ自分はこの方の思惑に見事
に嵌ってしまったのだなと苦笑しつつも、それは決して不快なことなど
ではなく。
 むしろ、光栄でもあり。
 いっそ、もっと。
 どんなに振り回されたって構わない。
 剣も忠誠も。
 この身も心も。
 全て捧げると誓ったのだから。
「いいよ、・・・・・いっぱい食べて」
 誘われるままに口付け、抱き寄せて。
 しなやかな身体を腕の中にすっぽりと収めながら、そのままシーツの
上に倒れ込む。
 白く滑らかな肌、ベルクートは王子のそれしか知らなかったけれど、
それで構わない。
 それだけでいい。
 他には、何も。
「・・・・・殿下・・・」
 この方だけ。
 それだけで、至上の幸福。




「ルウがいたの、気付かなかったんだ?」
「・・・・・ええ、全く」
 不覚、としか言い様がないのだが。
 不穏な気配は一切感じなかったし、特に言葉を交わしたことはないにせよ
普段この城で仲間として共に過ごしている少女である。
 警戒線に引っ掛からなかったとしても、無理はないのかも知れないが。
「ベルクートが帰ってくる少し前にね。ほぼ一部始終を話してくれたよ」
「・・・・・そうでしたか」
 成る程、とベルクートは小さく溜息をつく。
 知られて困ることではなかったが、それを聞いて王子はどう思ったのだ
ろうか、と。
 それを考えると、どうにも落ち着かない。
「僕はね、結構自分勝手だよ」
「・・・殿下?」
「我が侭だしね」
「・・・・・そんなことは・・・」
 王子を知る誰もが、きっと否定する。
 自分勝手で我が侭な王子殿下に従っているのだと思っている者がここに
いるはずがない。
 見目麗しいだけでなく、優しくて思慮深くて気さくで物腰が柔らかくて。
 皆に聞けば、口を揃えてどころか競うようにして賞賛の言葉を述べる
だろうに。
「ベルクートにだけ、だよ」
「・・・・・は?」
 くすり、と。
 微笑って胸元に擦り寄ってくる様は、毛並みの良い猫のよう。
「ベルクートに関してだけは、ね。他人を思い遣る余裕がない」
 伸び上がって、覗き込んでくる顔は。
 清廉なのに、淫靡な彩を映して。
「・・・僕のものだ、って・・・言ってやりたくなるんだよ、いつも」
 そっと顔を伏せた場所、太い首筋を吐息がくすぐって。
「っ、・・・・・」
 唇が触れたと感じた瞬間、痛いくらいにきつく吸われた。
「・・・・・跡、付いた」
 嬉しそうに。
 浅黒い肌にほんのり色付いた朱を、ペロリと舐める。
「そんなことを言ったら、殿下の肌にも・・・」
 そう。
 一応気を遣って、見えない場所に。
 幾つも幾つも散らされた、鬱血の跡。
「結構、ねちこいよね・・・ベルクート。また当分、みんなと風呂には
行けないな」
「も、申し訳ありません・・・」
 風呂とはいえ自分以外にあまり肌を曝け出して欲しくはないな、などと
思いつつ。改めて見ると、さすがにギョッとするくらいに沢山の朱。
 あからさまな執着の。
「僕だけに、だから・・・許してあげるよ」
 その響きに、傲慢さはなく。
「そんなベルクートを知ってるのは、僕だけだから」
 ただ、どうしようもなく。
 可愛らしい、と。
 思ってしまえば、もう。
「だから、・・・・・もっと欲しがっていいよ」
 悟られてしまう。
 どんなに、自分が。
「僕も欲しいから、・・・隠さずに言うよ」

 もっと。
 もっと、と。

「・・・・・私を受け入れて下さいますか・・・殿下」

 だって。
 全てはもう、あなただけに。





マリノさんゴメン。
ベッドの中でガッついてるベルクートさんも好きです。
何もかも全部、曝け出してしまうとイイ。



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