『feel how I feel about you・2』


 気分がどんよりとしてしまっているのは、降り出した雨のせいばかり
ではない。
「・・・・・はぁ・・・」
 もう今日何度目になるか分からない溜息をつきながら、鯉のあら煮を
つついていれば。
「あれー、どうしたんですか、ベルクート殿ー」
 顔色良くないですよー、と。
 そっちは血色の良い笑顔を満面にしながら、カイルがトレイを手にし
そのまま向いの席へと腰を下ろした。この青年とマツタケ御飯との組み
合わせが意外だなと思いつつ軽く会釈をし、さっきからたいして減って
いない料理に箸を伸ばせば、くすりと笑う声が聞こえるのに。
「・・・?」
 怪訝に思い顔を上げると、頬杖をついてこっちを見ていた青い瞳と
かち合った。
「王子も元気なかったんですよねー」
「・・・・・殿下、が・・・」
 そうそう、と頷くカイルに、思わず出た声が震えてしまったことを
気取られなかっただろうか。
 キュ、と膝の上で拳を握り締め、不自然な口調にはならぬよう努めて
続きを問う。
「どこか・・・お加減でも悪いのでしょうか」
「んー、そういうワケじゃなさそう、かなー」
 明るい表情で語るところから窺えば、体調を崩したということでは
ないのだろう。だが、元気がなかったのだと。それを知ってしまえば
やはり平静ではいられない。
 今も脳裏に焼きついて離れない。
 咎める瞳。
 零れ落ちた涙。
 どうすることも出来なくて、部屋を後にした。
 逃げる、ように。
 そして、今日。
 パーティーメンバーに、ベルクートが誘われることはなかった。
「・・・・・殿下」
 嫌われてしまったのなら、自業自得というものだろう。
 だが、傷付けてしまったのだとしたら。
「そういえば、珍しいですよねー。王子がベルクート殿を誘わなかった
なんて」
「そう、・・・ですね」
 共に闘う仲間として迎え入れられてから、おそらく初めてのこと。
 それほどまでに。
 顔も見たくないくらいに、もしかしたら。
「・・・・・私は、どうしたら・・・」
「何か・・・深刻そうなんですけど」
 どうしたんですかー、と尋ねてくる声の響きは軽くて、それに逆に
救われるような気がする。それに。
「・・・・・カイル殿」
「はーい、何ですかー?」
 彼になら、聞けるかもしれない。
「カイル殿の・・・意見を伺いたいことがあるんですが・・・その、
・・・・・知り合いの・・・相談事、で」
 当事者であると知れると、余計な詮索をされかねない。目の前の男が
見掛けほど不真面目ではないことは承知しているが、それでも。
「ベルクート殿のお友達の話ですか? オレで良ければどうぞー」
 さらりと促され、ベルクートは意を決して真直ぐに向かい合うカイル
に視線を合わせ、だがしかし辺りを憚って声を潜める。
「・・・・・初めての時、は・・・どうしたら良いんでしょう」
「・・・・・はい?」
 真剣な問い掛けに。
 カイルの笑顔が、僅かに固まる。
「うまく、入らなくて・・・苦しそうで、だから・・・・・」
「えっと・・・初めて、って・・・ぶっちゃけセックスのことですか?」
「・・・・・カイル殿、もう少し声を小さくして頂けませんか」
「あー、・・・そうですね」
 真顔で言われ、カイルはハイハイと頷く。
「で、・・・・・えっちのことなんですよね?」
「・・・・・そう、です」
 ふわりとベルクートの目元が朱に染まる。
 これは、もしかして。
 この人は、まだ。
「・・・・・うわー・・・奇跡かも」
「何ですか、カイル殿」
「あ、いえいえ。独り言なんで気にしないで下さいー。で、初めての
えっちのことなんですよね」
 込み上げる笑いをどうにか堪えながら、先を促す。
「ええ、私・・・いえ、その・・・双方とも・・・経験がなくて」
「チェリーとバージンかー」
「・・・・・チェリー?」
「あ。童貞と処女って意味ですー。で、初めて同士で上手くいかな
かった・・・とか?」
 凡その予測をつけて問えば、赤く染まっていた顔が俯き加減になる。
 ビンゴかな、と胸の内で呟いて、カイルは身を乗り出すようにして
俯いてしまったベルクートを覗き込む。
「・・・・・どう、すれば良かったんでしょう・・・」
 もらした呟きは微かに震えていて。
 それでも少しずつ、ベルクートは昨日の出来事をあくまで知人からの
相談事として、語り始めた。




「ちゃんと、しよう?」
 微笑む貌に誘われるように、今更ながら緊張に強張っていた足を、
ようやく一歩踏み出す。
「全部、・・・・・触ってね」
「・・・・・はい」
 自分に向かって伸ばされた手を取り、その甲に愛しさを込めて口付け
ると、華奢な身体を抱き締めるようにしてベッドに横たえる。きっと
まだ拙いであろうキスを交わしながら、ほっそりとした首に巻かれた
長いスカーフを解いて、あらわにした薄い皮膚にも唇を這わせれば、
微かに身を震わせながらも背に腕が回される。
 互いの身体の線を辿るように彷徨う手は、きっと愛撫でもあり。
 そして。
「・・・・・じ、自分で・・・脱ぐね」
 気恥ずかしげに告げられて、やや名残惜しげに重ねていた身を離せば
続いて上体を起こしたファルーシュが、そわそわとした様子で身に付け
たものを外していく。
 王子の衣装は複雑な構造をしていたようで-----あのままベルクート
の手に委ねられていたなら、脱がせるのにどれだけもたついてしまった
か知れない。
 そっと苦笑をもらしながら、ベルクートもまた自分の衣服を脱いで
いく。どこまで肌を曝せばいいのか分からず、ちらりと王子を伺うと、
どうやら向こうも同じようなことを考えて手を止めていたようで。
「・・・・・その、洗濯・・・しないといけないかと思いますし」
「そ、うだよね・・・全部・・・脱いだ方が良いよね」
 ぎごちなく笑い合いながら、互いに放ったもので汚れてしまっていた
服を全て脱いでしまえば。
「っ、・・・・・」
 息を飲む気配がしたのに、どうしたのかと王子が半ば呆然と見つめる
方に、そっと視線を落とせばそこには。
「お、・・・大きい・・・ね」
 そう呟いて。
 次の瞬間、顔を真っ赤に染めてそっぽを向いてしまう。
「も、申し訳ありません・・・」
 既に充実した昂りを示しているものを見られてしまったのだと知り、
こちらも耳まで赤く染め上げた顔を片手で覆う。
「あ、謝らなくていい、から・・・その・・・ちょっとびっくりした
だけで・・・」
 もじもじと恥じらいながら、自然と上目遣いに見上げてくる瞳が
堪らなく愛おしい。驚かせてしまったのは申し訳ないとは思うのだが
こればかりはどうしようもなく。
「殿下・・・」
「えっと、あの・・・ね・・・・・これ」
 そっと微笑みかければ、王子も照れたように微笑いながら。
 手を。
 こわごわ、といった様子で伸ばして。
「ちゃんと、・・・・・入る・・・かな」
 そんなことを口にして。
 勃ち上がっていたものに、触れたりするから。
「・・・っ殿下・・・ ! 」
「あ、っ・・・・・」
 堰を切ったように溢れてくる熱情のままに、あらわな素肌をシーツの
上に組み敷く。乱暴な所作に、それでもしがみつくように背に腕を回し
てくるのが嬉しくて。
 王子が呟いた言葉に。
 受け入れられているのだと。
 実感が、じわりと胸を満たす。
「殿下・・・殿下・・・っ」
「ん、っ・・・あ・・・あ・・・ベ、ルク・・・ト・・・っ」
 唇に、首筋に、そして胸元に淡く色付いた突起に口付け、そろりと
舌で舐め上げれば、半ば悲鳴のような声がこぼれたけれど、その中に
隠し切れない甘やかなものを感じて、ベルクートはそこへの愛撫を
続ける。
「あ、あ・・・っ、ん・・・ん・・・・・」
 こんなところが感じるんだ、と。
 熱にうかされたような意識の中でぼんやりと思ったのは、2人とも
同じで。聞くとはなしに聞いた程度の知識しか持ち合わせず、ただ
こうしたいのだという想いだけ。
 それだけで、いいのだと思っていた。
「・・・殿下も・・・」
 気持ち良いのだ、と。
 ふと視線をずらした先、脚の間で震えながら勃ち上がっていたものを
大きな手で慈しむように包み込む。
「や、ぁ・・・っ」
 ふるふると首を左右に振るけれど、やはり声は甘ったるく掠れて。
 それにも煽られるように、ゆるく握り込んだまだ幼い風情の精を、
ゆっくりと撫で上げる。
「っ、あ・・・や、っ・・・ん・・・・・ぁ・・・・・」
 他人のものに触れたことなどなかったけれど、手の中でヒクヒクと
濡れて震えているそれは、ひどく愛らしく思えて。
 もっと、もっと可愛がりたくて、擦り上げる動きが早くなる。
「そ、んなに・・・あ・・・っ、ダ・・・メ・・・っ、あ・・・・・」
 恐らく無意識に腰を揺らめかせながら、ファルーシュの手が縋る
ようにベルクートの腕にかかる。
「・・・・・殿下」
 潤んだ瞳に誘われるように、唇を強く押し当てれば、途端。
「ん、っ・・・・・・・」
 ひくり、と組み敷いた身体が大きく震えて。
 白濁が、ベルクートの手と王子の腹を濡らした。
「あ、あ・・・・・」
 放埒の余韻に薄紅に染まった肌に散る跡に目を奪われる。
 散らすことの出来ない熱を帯びたままの碧玉がぼんやりと見上げて
きて。
「・・・・・っ」
 沸き上がる情慾のまま、しどけなく投げ出されていた両脚を抱え上げ
折り曲げて、深く。
「・・・・・触れたい」
 その内側の熱い部分に。
 欲に掠れた声で囁けば、広い背に必死にしがみつきながら、コクコク
と何度も頷く頭、目の前で揺れる銀糸に口付けながら。
 脚の付け根の狭い部分に宛てがい、押し入ろうとすれば。
「く、ぁ・・・・・、っ・・・」
 もれたのは、明らかに苦痛の声。
 閉じられた蕾を抉じ開けようとする切っ先が、入り口の襞を僅かに
広げただけで、その先を阻まれる。
「で、んか・・・」
「っ・・・い、・・・いいか、ら・・・」
「し、かし・・・」
 慎重に腰を進めようとするけれど、固く閉じた部分が拒むのが。
 切なくて。
 でも。
「大丈夫、だから・・・早く、っ・・・挿れ・・・て」
 苦しげな息の中、けなげに告げて。自ら腰を押し付けてこようとさえ
するのに。
「っ・・・殿、下」
 このまま。
 強引に侵してしまえば。
 壊れて、しまう。
 壊してしまう。
「・・・・・お赦し下さい・・・っ」
 そんなことが。
 出来るはずがないのだ。
「ベルクート・・・っ」
 ゆっくりと抱えていた脚を下ろして。
 身を退いたベルクートに、悲鳴のような声が追い縋る。
「や・・・やだ・・・いやだ、ベルクート・・・っ、ちゃんと・・・」
「貴方を傷付けたくない・・・どうか・・・・・」
「傷付けて良いから ! して・・・っしてよ・・・ぉ・・・っ・・・」
 こんなに。
 痛みに強張ってしまっていたらしい身体をどうにか起こして、懸命に
伸ばした手は空を切って。
「赦して・・・下さい」
 大きく見開かれた瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちる。
 泣かせてしまったというのに。
 それすらも綺麗だと思ってしまった自分を責めながら、ベルクートは
手早く服を着てしまうと、そのまま踵を返す。
 ここにいる資格は自分にはない。
 そう、思ったのに。
「どうして・・・っ、全部触ってくれる、って・・・言ったのに」
 嘘つき、と。
 泣きながら詰る声を背に、ドアの外に逃げた。
 そう、逃げたのだ。
 あの真直ぐな瞳から。




「傷付けたくないと言い訳しながら・・・あの方の心を、私は・・・」
 いつの間にか、当事者として語ってしまっていることに、カイルは
気付いていたが何も突っ込まず、うんうんと頷きながら言葉を引き出す。
 事情は飲み込めた。
 互いに求め合いながら、互いに初心であったが故の。
「・・・・・それで王子、元気がなかったのか」
「・・・え?」
「ん、あ・・・いいえー、独り言ですからー」
 そんな言い訳に素直に納得しつつ、長い話を語り終えたベルクートは
大きく息を吐いて、らしくなく自嘲気味に口元を歪めた。
「・・・・・こんな私がお側にいては・・・」
「あー、そっちの方向に解決策を見い出されちゃ困りますよー」
 このままでは何もかも自分のせいにして、ここを去りかねない。
「では、どうしろというんですか」
「なら、どうしてオレに相談したんですかー?」
 よく考えて下さいよー、と。
 カイルの言葉に、ハッとしたように顔を強張らせるのに。
「ちゃんと、したいからじゃないんですか?」
「・・・・・私、は・・・」
「逃げちゃダメですよー」
 口調は変わらないままに。
 だけど、覗き込んでくる瞳は驚くほど真摯で。
「・・・カイル殿」
「大丈夫。誠心誠意、心を込めれば何とかなります。カラダを傷付け
ない方法なら、オレがアドバイス出来ますから・・・ね?」
 だから。
 あの人の望みも叶えてあげて。
「・・・・・まだ、間に合う・・・でしょうか・・・」
「だから大丈夫ですって。きっと待ってますよー、王子」
「そうだと嬉しいのですが・・・・・・・、っ・・・・・!?」
「ナイショにしておきますからねー」
 ウインクをお供ににっこり笑うカイルに、その時になってようやく
それを自分と王子の間の出来事として語ってしまっていたのに気付いて、
ベルクートは青くなったり赤くなったりで、またカイルの笑いを誘った。




「・・・・・どうぞ」
 促されて、部屋へと足を踏み入れる。状況は昨日と同じなのに、2人
を取り巻く空気が違っていて。
 ドアをノックすれば、しばらくして少しだけ開けられた隙間から、
どこか沈んだ様子の王子が顔を覗かせた。外に佇むベルクートを見て、
目に見えてはっきりと表情を強張らせて。
 それでも、入っても宜しいですかと伺う言葉を拒みはしなかった。
「・・・殿下」
 後ろ手でドアを閉め、向けられた背に呼び掛ける。
 僅かに肩を揺らし、それでもゆっくりと振り返ろうとするのを。
 待たずに。
 背中から、抱き締めれば。
「ぁ、・・・・・」
 震える声に、胸が微かに痛んだけれど。
「赦されなくていい」
 それでも。
「貴方を・・・貴方の身を傷付けてしまうのが・・・怖かった」
 泣いている貴方を置き去りにして逃げ出してしまった憶病者を。
 どうか。
「・・・・・それなのに・・・まだ私は貴方を諦め切れない」
 どうか。
「欲しくて、触れたくて・・・貴方の全てに、私という存在を」
「・・・・・ベルクート、が」
 熱を帯びた告白を黙って聞いていた王子が、静かに。
 溜息混じりに呟く。
「優しくて、・・・優し過ぎる人だってこと、分かってたのに」
 ぽつり。と。
 抱きしめていた腕に、暖かな雫が落ちる。
「っ、殿下」
 慌てて腕の力を緩めれば、囲った内を回るようにして振り返りざま。
「・・・・・嘘つきなんて言って・・・ゴメン」
 逆に。
 きつく、抱き返される。
 逞しい胸に濡れた頬を擦り付けてくる姿が、愛しくて。
 愛おしくて。
 そっと髪に口付けながら、少し迷った末、躊躇いながらも頬に触れた
手で、撫でるようにして顔を上向かせる。
「・・・・・諦めたりしないで」
「・・・はい」
「キス、したいよ」
 はい、と応える代わりに唇を重ねる。
 拒まれてなどいなかった。
「・・・ん、っ・・・・・」
 鼻に掛かる甘えたような声に、身体の奥に熱が生まれる。次第にうねる
ように、それは全身を満たして。
「今日は・・・止めません」
「・・・・・ほんとに?」
「殿下が嫌だとおっしゃっても、止めませんから」
「・・・・・うん」
 こつりと額を突き合わせて、そう告げれば。
 目の前、花のかんばせがふわりと綻んだ。

 2人とも裸になって、ベッドの上、素肌を重ねて。
 髪に、額に、頬に、唇に。
 首筋を辿り、まだ柔らかな薄桃色の突起が固く色付くまで丁寧に愛撫
して、ベルクートはそのまましどけなく開かれた下肢に顔を埋める。
「え、っ・・・な、に・・・・・」
 まさか、と。
 咄嗟に身体を起こそうとして、だけど熱を帯びて勃ち上がった部分が
暖かく濡れたものに包まれて、走った衝撃にファルーシュはシーツを背
に、身をくねらせた。
「ひ、ゃ・・・あ、っ・・・う、そ・・・ぉ、・・・・・っ」
 そんな。
 そんなところ、を。
 断続的に聞こえる、濡れた音。
 痺れるような甘い感覚が、困惑しかけた思考をとろりと塗り替えて
いく。
「や・・・ぁ、・・・やめ、・・・っ・・・・・」
「止めません」
「そ、んなとこ・・・で、しゃべら、な・・・で、っ」
 濡れそぼった屹立にかかる吐息にさえ感じてしまう。
 恐る恐る翳した両腕の隙間から様子を伺えば、何の躊躇いもなくまだ
淡い色をしたものを口淫するベルクートの俯き加減の貌が目に飛び込んで
くる。
「っ、・・・・・」
 酷く、淫らな光景に。
 だけど、目が離せない。
 とろとろに溶けてしまいそうな快楽。
「も、もぅ・・・っ、ダ・・・メ・・・・・」
 限界が近い。
 内腿が引き攣ったようにピクピクと波打つ。
「は、離して・・・ダメ、も・・・・・ダメ、ぇ・・・・・っ」
 ダメだと訴えたのに、逆にもっと深く、強く吸われて。
 掠れた悲鳴を上げながら、口腔内に放ってしまう。
「ぁ、・・・あ、ぁ・・・・・」
 信じられない思いで見つめていれば、ふと顔を上げたベルクートと
目が合う。
 ふ、と。
 微笑んだ顔は、大人の男の貌で。
 ずくりと、また下肢が疼くのに唇を震わせれば。
「触ります、・・・ここも」
「え、っ・・・・・ぁあ・・・、っ」
 またゆっくりと下肢に顔を埋められて。
 再び固さを取り戻しかけていたものに軽く口付けて、するりと。
 舌が小さな双玉を辿り、その更に奥まった部分に。
 唾液を含ませ、ねっとりと触れた。
「ぃ、・・・や・・・あ、ぁ・・・っ」
「・・・・・こんなところまで美しいんですね、殿下」
「や、・・・何・・・そんな、・・ぁ・・・ああっ」
「・・・・・可愛い」
 低く、熱っぽく囁きながら、舌は震える襞をゆっくりと解すように
蠢く。時折、心細げに揺れる屹立まで優しく撫でられて、その度に
舌で暴かれようとしている部分が浅ましげにひくつくのを自覚して。
「う、そ・・・ゃ、ぁ・・・ん、っ・・・・・」
 浅い部分に入り込んでは出ていく感覚に、頭の中までとろけそうに
なる。
 熱くて、熱くて。
 だから、いつしか内襞に潜り込んでいた指にも、それが少しずつ奥を
侵食して、数を増やしていっても。
「ん、っ・・・ん・・・ぁ、・・・っ・・・・・」
 こぼれるのは、切なげな吐息と、時折混じる甘い喘ぎ。
 苦痛など、どこにもなかった。
 むしろ。
 気持ち良くて、どうにかなりそうで。
 それなのに。
「ひ、ぁ・・・っ、そこ・・・、や・・・・・」
「・・・・・ここ、ですか」
 熱い粘膜を掻き分けていた長い指が、するりと掠めた場所。
 そうか、とベルクートは小さく笑んで。
「ひゃ、ぁ・・・、ん・・・っやだ、そこは・・・っあ」
「気持ち良い、ですか」
「ん、っ・・・いい・・・いい、よ・・・ぉ・・・っ」
 もうこれ以上なんて。
 だから、もう許してと。
 濡れた瞳で訴えれば。
「・・・・・殿下」
 優しく呼ぶ声は、欲に少し掠れていて。
 そっと触れた唇に縋るように首に腕を回して引き寄せれば。
 ゆっくりと引き抜かれた指に怪訝に思う間もなく、名残惜しげに
小さく口を開いたそこに、熱いものが押し当てられる。
「貴方を、・・・・・下さい」
 耳朶にこぼれた熱い吐息に応えるように、しがみついた腕に力を
込めれば、柔らかく解された襞を広げるようにして入り込んでくる。
 ベルクート、の。
「あ、あ、ぁ・・・・・」
「殿下・・・」
「熱い、・・・熱い、よ・・・」
 痛みは感じなかった。
 ただ、息苦しくて。
 だけど。
「ベルクート、が・・・・・」
 入ってくる。
 中に。
 トクトクと脈打つベルクート自身が。
 奥へ、と。
「は、・・・・・っぁ・・・」
 内腿を固い腰骨に押し上げられる感覚に、2人してホッとしたような
溜息をもらす。
「・・・・・辛く、ないですか・・・?」
「ん、・・・・・大丈夫、だよ」
 辛くなんて。
 こんなに。
「・・・・・嬉しい」
 こんなに。
 満たされているのに。
「・・・・・私も、です」
 全部で抱きしめられて。
 受け入れられて。
「ここ、・・・お腹・・・ベルクートで、いっぱい・・・」
「・・・・・殿、下」
 ふんわり微笑いながら。
 この人は、なんてことを言うんだろう。
「・・・・・ね、僕・・・どうすればいい?どうしたら、ベルクート
に気持ち良くなって貰える?」
 もう。
 何を堪えられるだろう。
「抱きしめていて、下さい・・・」
「・・・・・ん」
「動きます、から」
「・・・・・うん」
 頷くのを待って、ゆるりと繋げた下肢を揺すり上げる。
 丹念に濡らし、解したとはいえ、拓かれたばかりのそこはまだ狭く
きつい圧迫に、そのまま埒をあけそうになるけれど。
「ぁ、・・・っん、ん・・・っ・・・・・」
 ゆっくり。
 少しでも長く。
 こうしていたいとも思う。
 一気に昇り詰める快楽より、たゆたう波のように。
 そう思っていたのは、だけど最初の内だけだった、と。
 直に、互いに思い知ることになるのだけれど。
 ただ、今はやっと身体を繋げられたことが嬉しくて。
 だから。





「外、拭いただけじゃダメですってばー」
「・・・・・」
「中もキレイに掻き出してあげないと」
「・・・・・か、・・・・・」
「って、そこまでアドバイス出来なかったオレにも責任あるかなー」
 翌日。
 ファルーシュは、ベッドから起き上がることは出来なかった。
 事情を知るのは、当事者と相談相手のみ。

「あらあら、昨夜はお疲れ様でしたね、ベルクート殿。殿下はやはり
起きて来られませんでしたか?」
「ル、ル、ル、ルクレティア殿・・・っ!?」
「・・・あちゃー・・・」

 のはず、である。





おおおお疲れ様でした(色んな意味で)!!
レツオウさんにお赤飯炊いて貰わないと(軍師殿談)