『Naked?』


「男のロマン、なんだって」
 ちょっと困ったように眉尻を下げながら反応を伺ってくる様子は、20歳
そこそこの男にしては、何やらとても可愛らしい仕草だなと思う。自分より
少しだけ背が高くて筋肉質で、顔だちも凛々しいというか目つきは結構鋭い。
そんな男に対して可愛いなどというのも妙なのかもしれないが、少なくとも
ロックオンが知る限りでは、彼は気立ても良くて優しい。多分、自分が彼
よりも年上なものだから、余計に年下の恋人を可愛いと評したくなるのかも
しれないな、とも思うのだが。
 しかし。
「いや、そう・・・なんだろうけどな、アレルヤ・・・だからって」
 一体誰にそんなことを吹き込まれたのだろう。刹那やティエリアは、まず
除外してもいいだろう。とすると、クルーの誰かなのだろうが、そういう
類いのことをわざわざアレルヤに教えるような人物となると、ある程度数は
絞られてくる。とはいえ、もう今更苦情を申し立てる気も起きない。
「ロックオン・・・あの、僕・・・何か・・・おかしい、のかな」
 おかしいとか、おかしくないとかの問題では、もはやないような気もする。
アレルヤに妙なことを吹き込んだ奴も、教えるならこんな中途半端な知識は
与えないで欲しい。とはいえ、ロックオンもれっきとした成人男子なのだ
から、男のロマンという点では一応間違ってはいないのか。
「う、嬉しくない・・・?」
 アレルヤの表情が、悲しそうに沈んでいくのが分かる。嬉しいかと聞かれ
ると、正直微妙ではあるのだ、現状は。視覚的には。
 男のロマン、というと各々の趣味や性癖等もあるだろうから、これだと
決めつけられるものではないのだろうが、思い浮かべる幾つかの候補の中に
あるだろう格好で、アレルヤはロックオンの目の前にいる。相当恥ずかしい
思いをしているであろうことは、どこか落ち着かない素振りからも明白なの
だが、恐らくロックオンに喜んで貰いたいという一途さが、彼に思い切らせ
たのだろう。
 その気持ちは嬉しいと思う。だが、気持ちだけ有り難く貰っとくぜ、と
言いたいのが本音かもしれない。
「やっぱり僕、聞き間違えたのかな・・・スメラギさんたちが、話してたの
耳に入ってきて・・・ちゃんと確かめれば良かったのかな」
 なるほど、吹き込まれたというより女性陣の会話の内容がたまたま聞こえ
てきて、それを実行に移した結果がこれらしい。
「こ、・・・恋人の裸エプロン姿は、男のロマン・・・らしい、って」
 恋人、と口にした途端、アレルヤの頬が微かに朱に染まる。自分と恋人
同士であるという認識がちゃんとあるということに、ロックオンはどこか
ホッとしつつ、改めてアレルヤの格好を眺める。
 濃紺のエプロンは、男性でも身につけられるようなシンプルなデザインに
なっていて、これが着衣の上につけられていたら良く似合っていたんじゃ
ないかと思う。そう、あくまでその下に服を着ていることが前提だ。
 だが、裸エプロンと言うからには全裸の状態でエプロンだけを身につけた
格好である。正面からだけ見るならまだしも、後ろから見ればそれこそ全部
丸見えになってしまう。アレルヤの肉体は均整が取れていて美しいとは思う
のだが、だからといってエプロンはないだろうとロックオンは小さく溜息を
つく。
「・・・・・っ」
 それに気付いて、いよいよアレルヤの表情が心細いものになっていくのに
ロックオンは慌てて呆れたのではないからと言い繕う。
「あのな、アレルヤ・・・裸エプロンが男のロマンだとして、何でお前が
その格好なんだよ」
「・・・・・だって、僕は・・・」
「うん、分かってるよ。お前は俺の恋人だもんな」
 そう言って微笑みかければ、アレルヤの顔が一気に明るさを取り戻した。
「っていうか、・・・俺もお前の恋人だろ? 俺にその格好させようとか
考えたりはしなかったのかよ」
 まあ考えられても困るけどな、と付け加えるつもりだった。明白に言外に
匂わせるべきだったと後悔しても、これが後の祭りというやつか。
「ロックオンに・・・」
 呟いたアレルヤの瞳が、心なしかキラキラと輝きを増した気がするのは
見間違いではなかったらしい。
「そうか、そうだよね・・・うわあ、何で気付かなかったんだろう・・・
うん、絶対ロックオンなら似合うと思う」
「・・・・・はい?」
 似合うって、何がとは今更聞けない。
「着て、・・・見せて欲しいな、ロックオン」
 どうしてここで断固拒否しなかったのだろう。
 可愛い年下の恋人の熱っぽい眼差しに思わず頷いてしまって、いそいそと
彼がその場で脱いだエプロンを受け取って、ようやく我に返る。
「って、お前・・・っ何か着ろ!」
「あ、・・・うん、そうだね」
 アレルヤがどこか名残惜しげに備え付けの狭いシャワールームに消える。
もしかしなくても、着替えるところを見たかったのだろうか。アレルヤの
前で着替えるという行為自体には慣れもあって、特に羞恥を感じはしないの
だが、今からどういうわけだか自分は今着ているものを全部脱いで、この
エプロンを着なければならないのだ。その過程は、出来るなら見られたくは
ない。見られながらなんて、考えただけでも挙動不振になりそうだ。
 とにかく、アレルヤがさっき脱いだ服を着て出て来ないうちに、さっさと
エプロンを身につけてしまわなくてはならないと、そのことばかりが思考を
支配してしまっていたので、この時点でも充分に拒否出来たであろうことに
ロックオンはとうとう気付かなかった。

 こういうのは、思い切りが肝心だとロックオンはしみじみ思う。いつも
パイロットスーツに着替えるように、黙々と衣服を脱ぎ捨てると、手早く
エプロンを身につけていく。
「う、・・・んと。お・・・んん?」
「お待たせ、ロックオン・・・・・う、わ・・・」
 別に待っちゃいないけどなー、などと軽く返せずにロックオンは固まった。
腰の辺りで後ろ手で結ぶ紐がどうにもうまく結えずにいるところに、着替え
終えたアレルヤが顔を見せ、そしてロックオンの姿を見て惚けたような表情
になる。うっとり、という文字がその後ろに見えるようで、一体何でこんな
ことに、とロックオンは頭を抱えたくなった。
「・・・・・凄い・・・ステキだよ、ロックオン・・・」
 裸エプロン姿を誉められても嬉しくない。引き攣った笑いで応えながら、
相変わらず結べない紐と格闘していると、アレルヤがスイッと歩み寄って
ロックオンの肩に軽く手を掛けながら背後に回った。
「僕が結んであげるね」
 その時のアレルヤに、おそらく他意などなかったはずだ。ただ、結び難い
紐を自分が結んであげようという、純粋な気持ちの行動だったはずなのだ。
 だが。
「・・・・・」
「・・・・・?」
 結んであげるねと言って背後に回ったアレルヤが、いつまでたっても紐を
手に取る気配がないのを怪訝に思い、ロックオンが振り返ろうとした時。
「ひ、ゃ・・・っ」
 首筋に吐息を感じた。溜息のようなそれは、酷く熱い。それとほぼ同時に
アレルヤの両手が尻を手の平で包むように触れてくる。
 その手も、やはりじわりと熱を帯びていた。
「前から見るのと、全然違うね・・・後ろに回って、びっくりした」
 凄くいやらしい、と。耳元で囁かれて、思わず震えた肩にアレルヤの顎が
甘えるようにトンと乗せられる。
「自分じゃピンとこなかったけど、・・・ロックオンを見てやっと分かった
・・・男のロマンって、こういうことだったんだね」
 ふふっと笑った吐息にさえ、いちいちビクビクと身体が反応してしまうの
は、この倒錯的な格好のせいなのだろうか。ゆっくりと撫でるように尻を
滑る手からも逃れられず、ロックオンは縋るものもなくどうにか立っていら
れる状態だった。
「お尻の形が良いから・・・似合うよ。最初っからロックオンに着て貰えば
良かった」
 だからって、着てくれと言われてホイホイと着られるようなものではない
のだが、今は上手く言葉が返せない。うっかり口を開くと、あられもない声
を上げてしまいそうだ。
「こんな扇情的な格好、僕以外に見せたら嫌だよ?」
「だ、・・・っれが、見せ・・・あ、っ・・・・・」
 耳朶を軽く食みながら告げられて思わず反論しかけた声に、甘ったるい
響きが混じる。甘噛みするように歯を立てられた耳から、そして身を捩り
かけた拍子にエプロンの布が擦れて、敏感な先端がひくりと震えた。
「・・・・・ここ」
「っ、ゃ・・・さ、わる、な・・・」
 尻を弄っていた手の片方が、するりと前に回される。布の上から、勃ち
上がりかけたものをその形に沿うように包まれ、ゆっくりと撫で上げられて
それまでどうにか立っていられた脚が、力を失って崩れそうになる。
「う、あ・・・・・、っ・・・」
 床に倒れ込みそうになりながら、よろける足取りで何とか手をついたのは
傍らのベッドで、バランスを保てたことにロックオンは安堵しながら、だが
次の瞬間にはギクリとして顔を強張らせた。
 今の自分の姿勢は、ベッドに手をついて腰を後ろに突き出したような格好
だ。その後ろからアレルヤが背に覆い被さるようにして、抱き締めてきた。
「あ、あ・・・・・」
 剥き出しの下肢、その尻の間にひたりと押し当てられたもの。それが何か
今更分からないなんてことはない。隙間に沿って挟み込むように、固く屹立
した熱がその間を前後に行き来する。
「や、め・・・そんな、の・・・ア、っ・・・レル、ヤ・・・・・」
 素肌にデニムの感触が、どこかもどかしい。確かにそこに熱くて固いもの
があるはずなのに、衣服を全く乱していないアレルヤから与えられるその
刺激は酷く中途半端だ。
 何でだよ。
 早く取り出して、そして俺に。
「っ、・・・・・」
 じわじわと腰の辺りから這い上がってくる感覚に、渇いた唇を噛み締め
ながら頭の中で訴えた己の声に、ロックオンは呆然とした。
 どんだけ飢えてんだよ、俺は。
 羞恥に耐え切れず、うっすらと汗ばんだ額をシーツに押し付ければ、視界
の端にアレルヤの手がエプロンの布越しに握ったものをゆるゆると扱くのが
見える。透けて見えることこそないものの、己のそれはアレルヤが手を添え
なくても布を押し上げる程に形を変え、濃紺の布地にじわりと一段濃い染み
を浮かび上がらせていた。
「あ、・・・あ、・・・っアレル、ヤ・・・っも・・・」
 崩れるように上体を固いスプリングに沈ませながら呼べば、どうしたの?
と欲に掠れた声で囁かれる。アレルヤも酷く興奮しているのは、密着した
身体の様子からも、とっくに知れていたけれど。
「も、・・・やめ・・・ろっ・・・」
「イヤ、なの? こんなに気持ち良さそうなのに?」
 本当に止めてしまって良いの? と聞かれて、ロックオンはシーツに押し
つけた頭をのろのろと左右に振った。
「そ、じゃ・・・ねえ、よ・・・」
 途切れ途切れにそれを否定しながら、震える手を後ろに伸ばす。求めて
いたものは、だがやはり直には触れられなくて。
「え、・・・ロ、ロックオン?」
 指先が、どうにかしてそれを捕らえようとジッパーの金具を掻く。
「・・・ど、・・・どうしたいの・・・?」
 そんなことを今更聞くのか。それともこの口で言わせたいのか。なかなか
欲しいものが与えられないことに焦れて、ロックオンは肩ごしにアレルヤを
睨み付けた。
「早く、くれよ・・・っお前の・・・ちゃんと、なあっ・・・」
「あ、・・・・・」
 これで分からないなら別れてやる、などと考えるまで思い詰めてしまう
くらいに、どうしようもなく焦れて、焦らされていたけれど、ゴクリと喉を
鳴らしたアレルヤが手早くベルトを外してジッパーを下ろし、寛げたそこ
から取り出したものを宛てがえば、先走りのぬるりとした感触が物欲しげに
ヒクつく襞を濡らした。
「は、やく・・・アレルヤ、早く・・・」
 まるで熱に浮かされてしまっているようだ。こんなに欲しくてこんなに
ねだっているのに、それでも先端はすぐには潜り込まずにぬるぬると滑り、
行き来するばかりで。
「何で・・・っ」
「だって、・・・まだ全然慣らしてあげてない・・・」
 ロックオンの身を気遣ってくれているのだというのは分かる。アレルヤ
にしたって、恋人にこんな格好でねだられているのだ、どれだけ激情のまま
突き入れてしまいたいのを堪えているだろう。
「っ、じゃあそこに転がれよ! 俺が勝手に乗っかって挿れるから!」
「む、無茶言わないでよ・・・」
 無茶苦茶なことを言ってるのは、ロックオンにだって分かっている。何で
こんなことになってるんだろうと呆れて見ている冷静な自分がまだ頭の片隅
にいる。けれど、それよりも今はアレルヤが欲しかった。
「・・・意地悪、すんなよ・・・」
 意地悪でも何でもない。ろくに慣らさないままに、ロックオンを傷付ける
ようなことをしたくないというアレルヤの優しさだ。でもそれが、今の状態
のロックオンには、残酷なお預けにすら思えた。
「なあ、・・・アレルヤ・・・」
 自分でも信じられないくらい媚びた声に、ほんの少しだけ自己嫌悪にも
似た苦いものを感じる。けれど、それでも。
「・・・・・ゆっくり・・・します、ね」
 アレルヤを陥落させるには、充分だったらしい。腰を掴んだ手に、グッと
力が加えられたと同時。
「っ、あ・・・あ、あ・・・・・っ」
 グ、と先端が狭いそこに潜り込む。言葉通り、ゆっくり慎重に入ってくる
よく知った感覚を味わうように、ロックオンは目を細めて喘いだ。
「く、っ・・・」
 ゆっくりだろうが性急にだろうが、まだ慣らされていない場所を抉じ開け
るように進むのは、アレルヤにとっても痛みを感じる。ロックオンだって
きっと相当辛いに違いないと思うと、いくらねだられたからとはいえ申し訳
ない気持ちになる。だが、それと同じくらいにロックオンにそれだけ求め
られているのだと、身も心も昂る。
「どうしよう、・・・すごく嬉しい」
「な、に・・・何だよ、アレルヤ・・・っ」
「ロックオン・・・僕、あなたのこと、すごく・・・・・」
 ググッ、とアレルヤの形に押し広げられていく。
「い、・・・っあ、あ・・・ああっ・・・・・」
 どうにか潜り込ませた先端が、熱い粘膜に包まれる。
「・・・好き、だよ」
「っ、・・・・・」
「え、あ・・・・・っ」
 半ば吐息でその耳元で想いを囁けば、アレルヤを飲み込みかけていた肉壁
が食いちぎらんばかりにきつく締め付けてきた。
「・・・・・う・・・」
「・・・な、・・・・・」
 だから。
 ロックオンを気遣って、ギリギリいっぱいまで欲望を抑えていたアレルヤ
には、ひとたまりもなかった。
「・・・・・ゴメン・・・」
 ヤバい、と思った時にはもう手遅れだった。強過ぎる刺激に、限界まで
昂っていた若い雄は、あっけなく弾けた。
 ポタリ、と浅い部分で放たれた白濁がシーツに落ちる。生暖かい体液が
太股を伝う感覚に身を震わせつつアレルヤを振り返ったロックオンの顔にも
アレルヤ同様に、どこかバツの悪そうな気配が滲んでいた。
「・・・・・あー・・・ちょっと頭冷えた・・・」
 身体を反転させ、ゴロリとベッドに仰向けに横たわったロックオンは、
半ば放心しているアレルヤに苦笑しながら手を差し伸べた。
「いつもと違うシチュエーションで、どっかテンパったみてえ・・・」
「・・・・・ロックオン・・・」
 その手を取ろうか少しだけ迷ったように瞳が揺れたように見えたが、伸ば
された手をすり抜けるようにして、アレルヤはロックオンの上に身を重ねた。
「でも、・・・・それでも、僕・・・」
「・・・・・ああ」
 よしよし、と頭を撫でれば甘えるように鼻先が耳の後ろに潜り込んでくる。
くすぐったさに小さく笑えば、抱き締めた腕にそっと力が込められた。
「おいおい、そんなにしたら・・・脱げねえだろ、これ」
 何処から調達したのか知らないが、取り敢えずエプロンは汚れてしまった
し、さっさと脱いで洗濯しちまわないとなと考えていると。
「・・・・・もう、着て貰えない?」
 ぽつりと呟かれた。
「・・・・・あー・・・」
 そんなに気に入ったのかと少しばかり呆れながら、まあどうしてもと言う
のなら、着てやらないこともないかな、などと口には出さないけれど、そう
思いつつ。でも、当分は御免被りたいところではある。
「男のロマンてやつは、こればっかりじゃないんだぜ?」
「・・・・・そう、なんだ?」
 それは何なのかと具体的に問われると困るけれど。
「取り敢えず、・・・脱がせてくれよ、アレルヤ」
「・・・・・う、うん・・・」
 名残惜しそうに離れていくデカい図体の可愛い恋人に、そんな顔すんなと
笑いかける。
「お前は俺が脱がせてやるよ」
「え、・・・」
 それはどういう意味なのか、と。
 そうなんだろうか、いやでも、もしかして、と。ロックオンの言葉の意味
を測ろうと困惑しているアレルヤの額を、指先でツンと狙い打つ。
「しような、アレルヤ」
「あ、・・・う、うん!」
 喜色満面に頷いたアレルヤが、いそいそとロックオンが身につけていた
エプロンを脱がせていく。全くとんだ騒動だったなと小さく肩を竦めながら
ロックオンもアレルヤの身体に手を伸ばした。