『m・e・l・t』


「コンビニでアイス食ってこーぜ」
 誰かがそう提案すれば、誰ひとり異議を唱えることなく頷いて、
少し先に見えるコンビニの灯りへと自転車が10台真直ぐに向かう。
 部活帰り、部員たちはそれぞれの分かれ道に差し掛かる前に
あるコンビニに寄るのは、今日に限ったことではなく日課となり
つつある。遅い時間まで厳しい練習をこなして、途中で補給した
おにぎりもこなれてしまって、家に辿り着くまでのあとちょっと
のエネルギーを補充するためにも、それは必要なことというのが
全員の認識で。今夜はやや蒸し暑いこともあって、いつもは菓子
パンを手に取る者も、アイスクリームへと手を伸ばしていた。
「オレ、ガリガリー」
「こっちのチョコのやつ、新商品じゃね?」
 それぞれに会計を済ませ、コンビニを出たところでパッケージ
を開けて、冷たい氷菓に齧りつく。三橋も田島たちと並んで手に
した棒アイスに嬉しそうに舌を伸ばした。
 こういうの、楽しい、な。
 三星にいた頃には考えられなかった時間がここにある。仲間と
一緒の帰り道、こんな風に寄り道して楽しく笑って過ごす。
 幸せだ、と一目見てこれだと選んだ値段の割に大きなアイスを
ペロペロと舐めていると。
「・・・・・」
 ちょうど正面にいた泉が、何やら物言いたげにこちらを見て
いることに首を傾げると、隣でアイスモナカを齧っていた田島が
三橋を指差して大声で言った。
「うお、何だよ三橋食い方エロ過ぎ!チンコ舐めてるみてえ!」
 いつものこととはいえ、周りを憚らぬ発言にその場にいたほぼ
全員が思いっきり咽せた。
「っ、ゲホ、な、何言っ・・・」
「田島、お前そういうことはいちいち口にすんな!」
「えー、だってさー」
 そして、田島にそれを指摘された三橋はといえば、言われた
意味を最初は把握し切れなかったのか、怪訝そうに何度か瞬きを
して、その次の瞬間ボボッと音がしそうなほど真っ赤になった。
「う、た、たじ、ま、く・・・」
「三橋、こいつの言うことは気にすんな。早く食っちまえ」
 これ以上余計なことは言わんでいいとばかりに田島を一睨み
して泉が促すものの、三橋はあうあうと真っ赤な顔でまともに
返すことも出来ないまま、やがて生温い夜の外気温に、アイスの
表面が溶け落ちていく。
「おい、溶けてんぞ」
 それまで黙々とアイスを齧っていた阿部に言われて、三橋が
ハッとしたように手元に視線を落とせば、トロリと溶けたアイス
が、表面を伝って流れて、棒を持つ三橋の手にポツリと落ちた。
「あ、わ」
 勿体ない、とか。早く舐めないとベタベタになっちゃう、とか。
そう思いを巡らせるより先に身体が動いて、手に落ちたアイスを
ペロリと舐め取る。そしてまだトロトロと溶け落ちそうな表面を
舌先で辿っては舐め取りつつ、溶け崩れそうな先端を口に含んで
チュウと吸えば、誰かの足元に溶けたソーダアイスが落ちたのが
見えた。
「お、落ちた、よー」
 花井君、と声を掛ければ、耳まで朱に染まった坊主頭が呆然と
立っていて。よくよく見れば、周りのメンバーもどこか気まず
そうに視線を泳がせている。
 みんな、どうしたんだろ。
 そういえば、以前に叶と2人でソフトクリームを食べた時に、
オレ以外の前では絶対にアイスは食うなよ、とキツく言われた
ことがあったけれど、それはこのこととやっぱり関係あるんだ
ろうなと、ぼんやり思い出して。
 頭の中に?マークを点灯させつつ、ひたすらアイスを舐め続け
る三橋を、阿部だけは難しい顔をして睨むように見つめていた。




「ん、ふ・・・ん、ん・・・」
 鼻に掛かったような、やや苦しげな声にもならないそれに
重なるように混ざるように、粘着質な濡れた音が断続的に響く
部屋は、風邪をひいてはいけないからと空調を切ってしまって
いたから、中で少し前から繰り広げられている行為も相俟って
じっとりと湿ったような空気は、重苦しさこそなかったものの、
およそ15才の健全な高校球児には似つかわしくない。
 ベッドの上。汚さないようにと早々に脱ぎ散らかした衣服を
床に落として、四つん這いのような姿勢をとりながら、三橋は
脚を投げ出して座る阿部の下腹部に顔を埋めていた。
 この行為は、何度やっても慣れない。上手く出来ているのか
さえ、分からない。けれど、促される前に半ば自主的に三橋は
阿部の前に傅いていた。
 唾液で濡れた性器を両手で支えながら、チラリと上目遣いに
阿部の様子を伺えば、いつもの快感を堪える様子とは違う、
どこか複雑そうな色をした瞳とぶつかった。
 キモチよく、ないのかな。
 浮かんだ考えに、酷く不安になる。
「ゴ、メン・・・なさい、オレ・・・いつまで経っても、全然
上手、に、出来なく・・・て」
 辿々しく口にすれば、阿部はやや眉を顰めながら、ぽつりと
呟く。
「アイス」
「え」
「あんなに旨そうに舐めてたじゃねえか」
 告げられて、阿部が先日の帰り道でのことを言っているのだと
気付く。
 確かに、アイスは美味しかったけれど、それがこれとどういう
関係があるのだろうという疑問が顔に出ていたのか、三橋の紅潮
した頬を指先で撫でながら、言い聞かせるように阿部が続ける。
「ああいう風にすりゃ、いいんだよ」
 その言葉に、三橋は素直にコクコクと頷く。納得した、という
より阿部の指示に従えばきっと間違いないだろうと思ったから。
そのとおりにして、阿部が満足してくれるのなら、いい。
「や、やりマス」
 と言いつつ、意識してアイスを食べていたわけではないのだ
から、どこをああしてこうしてという手順だとかやり方が具体的
に頭の中にはなくて、取り敢えず三橋はコレはアイスだと目の前
にある、先日食べたアイスとはまるで違う逸物に唇を押し宛てる。
 多分、こんなカンジ。
 アイス、アイス。今、自分が舐めているのはアイスだと呪文の
ように頭の中で唱えながら、ペロペロと舌を這わせる。それでも
質感や温度はまるで違うものだから、どうしても違和感は拭え
なくて、どうしたらいいのかと困惑しているのが見てとれたのか、
阿部はまた溜息混じりに呟いた。
「何、オレの旨くねえの?」
「ち、ちが、う」
 そういうことではない。感覚の違和感は、確かにあるけれど。
「そ、そうじゃなく、て・・・あ、阿部君、の・・・おっき、い
・・・カラ・・・・・」
 最後の方は、何だか気恥ずかしくて尻すぼみになる。初めて
目にした時にも凄く大きいなと驚いたけれど、目だけでなく手に
したり口にしたりしてしまえば、その質量は手にも口にも余る。
「舐めにくいって?昨日はデカいアイス頬張ってたくせに」
 それはそう、なのだけれど。
「あ、アイスは、舐めてると小さくなる、けど・・・あ、阿部君
のは、舐めてると・・・お、おっきく、なる」
 だから、とても咥えにくい。すっぽりと口になんて含めない。
「まあ・・・確かにそりゃそう、なんだろうけど」
 大きくてフェラしにくいのだと言われてしまえば、そう悪い気
はしないもので、やや照れてしまったのを誤魔化すように頭を
掻く。
 それに、だ。三橋の口淫が良くないわけではない。その技工を
比べるような相手もいなかったし、ぎごちないけれど三橋が自分
のペニスを舐めてくれているというその事実だけで、充分気持ち
良くなれた。その証拠に、三橋の手に包まれた性器はもう充分
じゃないかと思われるほどに固く張り詰めていたし、実際最初の
頃はフェラだけで達してしまったこともあった。
 テクとかじゃないんだと。それは分かってはいるけれど。
 けど、なあ。
 昨日、アイスを舐める三橋のエロい舌使いを見てしまって、
もしあんな風に舐めて貰えたら、きっともっとずっと気持ち良い
んじゃないだろうかと思ったら、試してみたくなったから。
「あ、あ、あべ、く・・・ん」
 黙りこくってしまった阿部に、三橋がおずおずと、だが必死
な面持ちで告げたのは。
「お、おおお、オレ、あ、阿部君、の、でっかい、ち、んちん
好きだ!」
「・・・・・おう」
 その勢いに半ば圧倒されながら、阿部はゆっくりと頷く。
「オレも、・・・・・好きだから」
 色んなもの、引っ括めてな。
 そう告げれば、口元をいやらしくテカらせながら、それでも
無邪気ともいえる顔で、三橋がフヒッと笑う。
 その笑顔に阿部も笑い返しながら、髪をくしゃりと撫でて。
「んじゃ、続き頼むな」
「ま、まかせ、て!」
 御機嫌笑顔のまま、三橋がまた下肢に顔を埋めていく。再び
与えられる心地良い刺激に目を細めながら、顎が疲れたと三橋が
涙目になるまで、髪を撫で続けていた。





どんだけデカいんだ阿部・・・。