『thoroughly』


 遠いところから、除夜の鐘が聞こえてくる。ゆっくりと厳かに響く、
規則正しい音。それと重なるように、追い越すように、身体の奥にもう
ずっと感じている、律動。ずんずんと押し上げるようなそれは、時に
激しくて、意識ごとどこかに飛ばされてしまいそうになるけれど、手を
伸ばしてその先にある確かな感触に、自分と同じように汗ばんだ熱い肌
に縋り付くようにすれば、やはりぎゅっと抱き返してくれるのに安堵
して、掠れた声と一緒に溜息を漏らす。
 そういえば、除夜の鐘は煩悩を払うためのものだって、子供の頃から
そう聞いているけれど、それを遠くに聞きながらオレたちがしてること
って、もしかして煩悩まみれの行為なんじゃないだろうか。今更のよう
に、そんなことに気付いて、フニャリと口元を歪めれば。
「何、笑って・・・んの」
 それに気付いた阿部君が、吐息を乱しながら顔を覗き込んでくる。
「ふ、へ・・・?」
「・・・・・ヘンな顔」
 プ、と小さく吹き出したそれにつられるように笑えば、だから何で
そういつも締まりないんだよと、また苦笑されたけれど。
「ああ、でも・・・こっちの締まりは、いつも・・・・・」
 サイコー、だなんて。
 耳にキスするようにして、そんな低く掠れたえっちな声で、囁いたり
しないで欲しい。
 だって、ほら。
「ん、っ・・・コラ、んな・・・キツ・・・・・」
 意識しなくても、阿部君の大きなのを飲み込んだ入り口が、引き絞る
みたいにしてしまう、から。それがいつもとても恥ずかしい。
「い、いた・・・かった・・・デスカ・・・?」
 そしていつもそう尋ねてから、ちょっとだけ後悔する。
「すっげ、・・・キモチイイよ」
 ニィ、って意地悪そうに笑って返される。いつも、そう。
 きっと痛いのにキモチイイだなんて、おかしい。だけど、それを言う
ならオレだって、あんな場所にあんな大きくて太いものを突っ込まれて
痛くて痛いはずなのに、段々すごく気持ち良くなって、気がついたら
もっともっとってせがむように、阿部君の背に腕を回して、阿部君の腰
に脚を絡めて引き寄せて、いやらしく腰を揺らしてしまう。
 どうして、何で、こんなことになっちゃったんだろう。
 オレ、すごくえっちになっちゃってる。
 前に独り言のようにそう呟いたら、阿部君は苦笑しながら「オレの
せいだな」って言ったけど、でもそれはゲンミツに違う。そうしたのは
阿部君のせいだとしても、そうなったのはオレのせいだ。
 多分。
 きっと。
「三橋」
「う、え・・・」
「集中」
「っ、・・・・・」
 回想に気をとられていたのがバレたのか、グリグリと捩じ込むように
して、怖いくらいにキモチイイ箇所を擦り上げながら、阿部君のが奥に
入ってくる。ゆっくりと出ていって、そしてまた今度はちょっと角度を
変えて、少し乱暴なくらいに突き込まれる。
「ん、っあ、あ、あ、っ、あ」
 その動きに追い縋るように、だらしなく開いた唇から絶えまなく声が
零れる。我慢しないでいっぱい声出してって阿部君に言われるけれど、
自分で聞いたこともないような声が自分自身の口から出た時は、本当に
びっくりして、慌てて口を抑えたら引き剥がされての繰り返しがずっと
続いて。でも、そうしているうちに気付いた。声を我慢したら息苦しい
けれど、阿部君の言う通りに声を出してしまえば、楽だし気持ち良さも
うんと上がるような気がする。やっぱり阿部君はすごい。
 そう思っていたら、またヘンな顔で笑ってしまっていたのか、阿部君
がちょっと呆れたような表情になって。
「だから、何なの・・・」
 聞いてくるから。
「あ、あべく、・・・す、すご、い・・・・・い、・・・っ」
 だけど、その間もいっぱい揺すられて、まともな言葉にならなかった
それを、阿部君は一体どんな風にとらえたのか。
「そ、か・・・」
 少しだけ意地悪に。
 それ以上に嬉しそうな笑みを浮かべながら。
「じゃ、・・・もっと・・・してやる、よ」
「え、あ、う、ひ、ぁ、ああ、あ」
 阿部君の腰を挟んでいたオレの太股を掴んで持ち上げて、開かせて。
もう息を継ぐのがやっとの勢いで、貫かれて押し上げられて引いてまた
突き上げられて。
「あ、あ、あ、あ、あべ、く、ん・・・っ、あ、べく、んっ」
「み、はし・・・三橋、みは、し・・・」
 開きっぱなしの口から漏れる声は、まともな音にならなくて、だけど
名前を呼んだら同じようにオレの名前を呼んで貰えるのが嬉しくて、
またいっぱい呼んでしがみつけば、同じように抱き返してくれるから、
何だかジーンとして胸がいっぱいになる。
 ああ、まだ遠いところで聞こえてくる鐘の音。108回鳴らすそれより
もっとずっと沢山のものを、この1年には少し足りない期間だけれど、
オレは阿部君に貰った。嬉しいことも悲しいことも、辛いことも幸せな
ことも、全部オレの大事なものだ。
 オレは。
 オレは、阿部君に何かあげられているのかな。阿部君の心の中、全部
だなんてそんなおこがましいことは言わないけれど、その一部、ほんの
少しだけでも、オレのあげたものが満たしていたらいい。それを阿部君
が、大事にしてくれたら、オレは。
「・・・・・三橋」
 目元にそっとキスされる。まだグイグイと容赦なく突き込まれる腰の
動きに比べて、それは泣きたくなるくらいに優しい仕草で。きっと本当
に泣いてしまっていたんだろう、涙を拭うように唇が動いて、濡れた舌
が目尻を何度も舐め上げてくる。
「・・・、し、い・・・よ」
「・・・苦しい?」
 違うよ。
「う、れ、・・・しい・・・」
「み、は・・・」
「・・・も・・・っと、ほ、し・・・・・」
 色んなこと。
 色んなもの。
 阿部君がくれるものは、全部。

 全部。
 オレは欲しいんだ。





三橋の執着心。