アウト・ザ・ブルー(後編)



まぶたが重い。

やっと目を開くと壁に描かれた沼沢地の鴨たちがいっせいに飛び立つのが見えた。
鮮やかな羽毛の色、水面のさざめき、パピルスの茂み。

ああ・・・首から上に泥を詰めこまれたみたいに重くて、とてもじゃないが支えていられない。
シャダはしばらく頭をぐらぐらさせていたが、やがてまたゆっくりとまぶたを閉じると男の肩にもたれかかった。


あれから数時間後。
店からは一人また一人と客が消えてゆき、今や数名を残すのみとなった。
薄暗い店の隅に陣取った男たちは、眉間に皺を寄せて何やらぼそぼそと密談中。
手前には店外から呼び寄せた娼妓を膝に乗せ、耳元に何かしきりとささやきかけている男。艶っぽい話でもしているのだろうか、時折聞こえてくるクスクスという女の含み笑い。

夜も更けたので給仕娘はもうとうの昔に家に帰ってしまった。
かわりに給仕しているのは、昔ワニに噛まれてからというもの顔が引きつってしまって表情がよく読みとれない店主その人。
店主はさっきまでシャダの隣で飲んでいた無精髭の客・・・髪を後ろで結わえたがっしりとした体格の男に五杯目の「鰐の尾」を手渡すと、その左腕に抱えられたままうつらうつらしている少年を見おろした。

さて、この坊やをどうしたものか。
揺り起こし名前を聞いて、家に使いをやって迎えをよこさせることにしようか。
だが、ふとそんな思いがよぎった店主は首を振った。

この店の敷居をまたいだ時点でこの客もすでに一人前の男。
いくら子供じみているとはいえ、成人男子の行いに口を差し挟むのは彼の流儀ではない。
こっちの男は常連客だし、今まで騒ぎを起こしたわけでもないしな。 本意だろうと不本意だろうと命まで取られるわけじゃなかろう。
シャダを抱え込んでちびりちびりと「鰐の尾」を楽しむ男をちらりと見やった店主は、ひきつったまま完全には締まらない口元をもっと歪めながら音もなく店の奥に姿を消したのだった。


「さて、と・・・」
五杯目の強い酒を平らげたというのに顔色一つ変わらぬ男は、自分にもたれかかったまま静かな寝息を立てる少年をゆさゆさ揺さぶった。
「おいっ起きろよ、少年!」
・・・だが何の返事もない。
「おい!これからどうすんだ?俺はもう帰るぜ」
・・・ただ沈黙。
「もう遅いがうちに帰らなくったっていいのか?」
「・・・・・・かえらない」
ずず・・・と男の肩からずり落ちたシャダは、あぐらをかいた膝の上に突っ伏すとむにゃむにゃ言った。
「・・・・ううん・・・どうしたらいいかわからないの・・・」

「うーむ・・・『わからない』って言われたってなぁ!」
少年を見おろした男は髭だらけの顎をぼりぼり掻きながら困ってしまった。
「あんたがどうしたらいいかなんて、俺のほうがもっと分からんのだけどねえ!」
だがまぶたをゆっくりと開いたシャダは、ちいさな猫科の動物のような目でぼんやり男を見つめるばかり。

貴石の深い紫をしてうるんだ瞳におもわず胸を高鳴らせた男は、ぶるっと頭を振ると同じ質問を繰り返した。
「なあ・・・じゃ一体どうしたいってんだ?」
シャダはまたゆっくりまぶたを閉じて息苦しそうに身じろぎすると、耳を澄まさねば取れぬほど小さな声で答えた。
「・・・・・・・・・ここで寝ていく」
そのとたん、男の心臓は銀鱗をきらめかせる魚のように跳ね上がった。


「な、なんならお・・・奥の部屋でお、お、俺と寝てみるか?」
おそるおそる提案した男はシャダを背後から抱き締めた。無精ひげにおおわれた頬をなめらかな後頭部にすり寄せると、痙攣したようにこわばる体。

強い酒で前後不覚の少年は手近なぬくもりに向かって甘えるように両腕を伸ばして、男は逃げられてはなるものかとばかりに大あわてで軽い体を抱え上げた。

男が飛び込んだのは先ほど先客が娼妓を連れ込んだその隣の部屋。
そして小さな扉で隔てられた細長い部屋の中からはほどなくあの・・・神殿の最奥で神の耳を楽しませた声が漏れ聞こえてきたのだった。




カリムは寝台の上、固い黒髪を扇のように広げて何度も寝返りを打っていた。
少年にしてはたしかに大柄で筋肉質だけれども、大人に比べるとまだ瑞々しくしなやかな体はヌビアの血を色濃く引いたせいで深い褐色をしている。
収穫季の夜の空気が首筋にひんやりと冷たい。カリムは掛け布を首まで引き上げると大きなため息をついた。

シャダは一番大切な友だち。
それは初めて会った日、テーベにやってきたばかりのシャダがシモンに連れられて玄関前に立っていた時から少しも変わっていないはず。
もじもじしながらつま先で土を掘っている内気そうなシャダを見たとたんに、心の奥底からなにか強い気持ちがこみあげてきて反射的に手を伸ばした。
それから手をつないで一緒に「生命の家」の門をくぐった朝。紺碧の空にツバメがすいすい飛んでいた気持ちのいいあの日。

でもどうなんだろう、とカリムは考える。
今でもあの頃と同じ気持ちであいつと手をつなげるのかな?

カリムは自分の股間のものにそっと右手を伸ばしてみたが、それは柔らかな掛け布の下で横たわったままぴくりともしない。
だのに経文を読み上げる友だちの声を聞いただけで、これがなぜあんなに固くなったのかが彼にはどうしても理解できない。
その時ふと脳裏に甦ったのは、写本室の机に広げられていた「日の下に現れ出るための書」。

我、男色をせしことなし・・・

・・・・・・男色?
なんだか嫌な言葉だな、とカリムは思った。
男の自分が男のシャダに欲情するなんてありえないけれども、改まって聞かされるとなんとも言いようなく嫌な気分になる。

どんな物事も理詰めで考える少年は掛け布にくるまって目を閉じると、固くもつれた自分の気持ちをていねいに解きほぐして分析しようと試みた。
自分がシャダに感じているのは友情なのか同情なのかそれともまだ知らぬなにか別の感情なのか。
考えれば考えるほどずっと見てきたはずの友だちが、まるで暗い闇の中から急に光の中に現れ出て今、自分の前にすっくと立っているように思えてくる。

シャダのことが、そして自分が求めているものが何なのかよく分からなくなってきた浅黒い肌の少年は、ますます寝付けなくなって、何度も何度も寝返りを打つばかりだった。





ああ、何て上等な肌なんだ!こんなの初めて見る。
寝台の傍らにひざまづいた男は感極まってひとりごちた。
木片や小刀と格闘しては傷だらけになりごつごつと節くれ立った手は、雪花石膏のようになめらかな肌をじっくりと味わうように撫で回している。

足指の先から頭頂まで完全に無毛のなめらかな体。
それが生まれつきのものなのか、それとも多大な手間と時間をかけた産物なのかは男には知るよしもない。
ただ、今は指を滑らせるたびに小さく震えるこの腰を抱え上げて、もっといい声で耳を楽しませればいいだけなのだ。


ミシリ・・・と羽目板をきしませて寝台の上に膝をあげた男は、無毛の体にのしかかると髭だらけの頬を薄い胸にすり寄せた。
乳首をざらざらした髭で撫でられて、思わず背中を浮かせた少年の喉からは嗚咽が漏れる。
「・・・ああ、あったけえ・・・あんたほんとにあったけえなぁ」
男は柔らかな体をたくましい両腕でしっかり抱き締めた。「・・・ここもそうなんだろ。なぁ?」

股間で半勃ちになったものを握りしめて耳元にささやくと、両腕を突っ張らせて形ばかりの抵抗をみせるシャダ。だが、酩酊の度合いが深すぎて腕には全く力が入っていない。
男は笑みを浮かべながら、壁龕(壁に設けられたくぼみ)に準備されたファイアンスの瓶を取り上げた。侏儒神ベスが描かれたそれは安物の香油で満たされている。
「べつに初めてってわけじゃないんだろうし・・・」
すでに猛々しく反りかえった自分の男根にたらりと香油を垂らしてひとこすりした男は、あっという間に軽い両足を抱え上げた。
「犯っちまってもいいんだろ?な?お前も突っ込まれたくてここに来たんだろ?」

だが、双丘の間に男根を押し当てながら首筋に口づけると、乾いた唇がかすかに動いて誰かの名を呼ぶのが聞こえた気がして、男はとりあえず動きを止めた。

「・・・は?なんだって?なんか言ったか?」
「・・・・・・カ・・・・・カリム・・・」
「・・・あぁん?・・・カリムって誰だ?」
「カリムって・・・?カリムはカリムだよ」
「・・・・ぜんぜん意味、分かんねえよ!」
「僕・・・カリムのとこに・・・か、かえるの」

すっかり困惑した男は、王の工房から送り出されたばかりの神像のごとく端正に整った顔を覗き込んだ。
「・・・それってお前の親父さんか?それともイロかなんかか?」
そう問うてみても、白い喉からはもう何の言葉も現れでてこない。
だが、悲しげにうるんだ紫の瞳を目にしたとき男の耳の奥に甦ったのは、ずっと昔に親方が繰り返し読み聞かせてくれた賢者の言葉。

汝、まだ子供である娘と臥所を共にするなかれ
禁じられたることは心臓のうちにて種子となり
その腹中にあることを鎮めるは不可能であるが故なり

こういう場所で出会ったからには、自分の腕の中で震えているのはもう「子供」ではないはず・・・と男は思った。
けれど、まだ大人だとも言い切れない、それも右も左も分からないほどに酔っぱらった相手を無理に抱いても後味が悪かろう。

男はぼりぼりと派手な音をたててあごを掻きながら暖かい体から離れると、床に脱ぎ捨ててあった亜麻布を取り上げ腰に巻きつけながら尋ねてみた。
「おい、あんた。・・・あんた突っ込まれたくてここに来たわけじゃないんだな?」
目をしょぼしょぼさせながらしばらく何か考えていた少年は、やがてもつれる舌で答えた。
「つ・・・つっこむ?・・・って・・・な・・・なにを?・・・ゆ、指?」
そのとたん立っていられないほどの脱力感に襲われる男。それと同時に股間でいきり立っていたものも一気に張りを失った。

ああ助かった!と男は心の中で叫んだ。
うっかりこんなガキを食っちまったら、こっちもオシリスの法廷でアメミットに頭からバリバリいかれるとこだった!
彼は腹立たしげに荒織りの腰布をめくり上げると、手を添えた自分の股間のものをシャダに見せつけてうめいた。
「男に誘われるってのはなぁ、これをケツに突っ込んだり色々してお互い気持ちよくなりましょうってことなんだよっ!そんなことも知んねえんならこんな店で色目使うなっ!」

恐るべきものを見せつけられて恐怖に体を強ばらせるシャダ。
まなじりを引きつらせた少年の様子に、少し可哀想になったのか男は優しい口調で付け加えた。
「まったく相手が俺で助かったな。ちったあ感謝してくれよな!期待ばっかさせやがって・・・」
男は骨ばった背中に毛むくじゃらの手を差し入れてシャダを抱き起こした。
「でもまぁ・・・あったかくてよかったぜ、あんた。俺もかあちゃんに逃げられちまってから寂しい独り寝だったもんでな。ははははっ・・・うん、久々に癒されたねえ!」

男は朗らかな笑い声をあげると、しょんぼりうなだれたままのシャダをうながした。
「さ、立てよ。俺もぼちぼち引き上げるからついでに送ってやる・・・で、家はどこなんだ?」
すべっこく丸い頭をなでていた男は、髭だらけの顔をにやりとゆがませるとふざけたようにつけ加えた。
「・・・なんならそのカリムってやつの家まで送って行ってもいいんだぜ?」
その名を聞いたとたんアーモンド型の目は驚いたように見開かれたが、やがておずおずうなずくシャダ。
この上なく正直な反応に男の顔にも苦笑いが浮かぶ。


「ほら、どうだ。立てるか?おっと、そこに段がみっつあるから気をつけろ」
男に肩を支えられたシャダは、相変わらず読みとり難い表情を貼り付けたままの店主に見送られながら、ふらふらとよろめきつつ玄関へと歩いていったのだった。






夢を見ていた。
痛む足を引きずりながらどこまで歩き続けても、 目の前に茫漠と広がるのは赤い不毛の地。
井戸を見つけて砂に足を取られながら息を切らして走り寄った。
けれど真っ暗な底を覗き込むと、深い闇の奥から泥土があふれ出てきて・・・
引きずり込まれそうになって必死で虚空をかきむしった手を、誰かにつかまれた。

温かい手。
温かくてこの上なく力強いその手。

「・・・・・・カリム・・・?」
ゆっくりとまぶたを開くと目の前には深い緑色をした鉱物の瞳があった。

「あ、やっと目、さめたんだ」
カリムは照れくさそうに言った。
「アメン神殿の工房の親方がうちまで送ってきてくれたんだけどさ、お前ずうっとうなされてたから心配になって見張ってたんだ」
自分がシャダの手をしっかりと握ったままだったのに気付いたカリムは、あわてて手をほどこうとしながら真面目くさった顔で言い添えた。「寝てるうちにお前のバーが離れてどこか遠くに飛んで行っちゃう気がして・・・でもよかった。もう大丈夫だね」

ナイルの流れのように深く心に響くカリムの声、太陽の光のように温かい手のひら。
シャダはそのぬくもりを手放したくなくて、頭で考える前に指先はカリムの手をしっかりと握り返していた。

「・・・カ、カリム・・・」
「・・・・・・ん?・・・」
流れ落ちる黒髪に隠したまま横顔で答えるカリム。

「・・・・・・このまま手、握っててほしい」
喉がからからになって息が止まりそうだったけれども、体一杯の勇気を振り絞ってシャダはずっと言いたかった言葉を口にした。

「お前に・・・触れてたいんだ」

生まれもっての濃いアイラインにふちどられた切れ長の目を見張ると、ほんの一瞬泣き出しそうに口元をゆがめたカリムは大きな息を一つした。

そして彼は寝台の傍らにゆっくりとひざまずくと、日の光のように温かな両手を柔らかな頬に伸ばしたのだった。





少年たちは狭い寝台の上、一糸まとわぬ姿でしっかりと抱き合っている。

出会ってから今まで・・・あっという間に背中の後ろに飛び去ってしまった年月を振り返り、それを愛おしむかのように夢中になって手足を絡ませた。
無言のまま見つめ合い微笑みを交わしながら相手の目の奥に輝く光を確かめていると、体中に何か未知の力がみなぎってくる。

やがて下半身にカリムの熱い手のひらが伸びてきた時、体をこわばらせたシャダは思わず両手で口を押さえて嗚咽をこらえた。そうでもしないと情けない声を上げてあっという間に果ててしまいそうだったから。

「どうしてそんなことするの?」カリムが不思議そうな顔をした。
「だ、だって・・・変な声が出たら嫌だもの」
「・・・馬鹿だなぁ!」
ちょっと笑ったカリムはすぐにまじめな顔に戻って紫の瞳を覗き込んだ。「俺、お前の声すごく好きなのに!」
魔除けの金環が輝く耳元にカリムはささやいた。
「お前の声聞いてると俺・・・あの・・・た、勃っちゃうくらい好きなんだよ。だから・・・思いっきり声、聞かせてほしい」
そう言うなりシャダの股間で痛いほどに勃ちあがっているものをぎゅっと握りしめたカリム。
耐えかねたシャダの喉から悲鳴混じりの喘ぎが漏れる。

その声に理性をはじき飛ばされたカリムは、背筋をざわめかせながら心の命ずるがままにシャダに体を重ねたのだった。





高い窓から差し込んだほのかな月明かりが床に滴るのを、寝台の二人は黙って見つめていた。

色鮮やかな敷物が並べられた漆喰の床、壁龕の神像、とっくに空っぽになってしまった香油入れ。
さっきまで踊り続けていた心臓はやっと大人しくなってくれた。
深い呼吸を繰り返しながらカリムはロータスの蕾のようなシャダの頭を左腕に抱いて、シャダは大きなレバノン杉の匂いのするカリムの胸に頬を寄せていた。

「カリム・・・ごめんね・・・」
その時、シャダの目に溢れた涙が頬を伝って流れ落ちた。
「・・・え?・・・何が?」
カリムは驚いてアメジストの瞳を覗き込む。
鼻をすすり上げながらシャダは言った。
「これで・・・お前までオシリスの法廷で有罪になっちゃうかもしれない・・・」
「それって・・・・・・『男色』のこと?」
こっくりうなずくシャダ。
「そんなこと・・・・・・お前のこと本当に好きなんだからパピルスに書いてることなんか関係ないよ!」
「・・・うん、でも・・・」
「・・・・・・怖いの?」
無言のままのシャダを見てしばらく何か考えていたカリムはやがてゆっくり口を開いた。

「じゃ、こうしようシャダ。これから先どっちが先にオシリスの法廷に行くことになってもね・・・」
涙を光らせたシャダの瞳に見つめられながら決然としたおももちをしてカリムは言った。

「この世でのお互いの最後を見届けたあとは、冥界の入り口で待ってることにするんだ」
「・・・冥界の入り口で?」
「そうだ、冥府の河を二人で漕ぎ渡るんだ。ずっと一緒だったら何があってもきっと怖くない・・・うん、門番もオシリスの法廷もアメミットも。そうしてずっとずっと先まで、見たことがないところまで一緒に行くんだよ、シャダ。・・・そう、葦の野の涯てまで!」

深い輝きをたたえた緑の瞳をじっと見つめていたシャダだったが、やがて優しい微笑みを浮かべながらうなずいた。
「うん、そうだね、カリム。ずっと一緒に、ずっと。葦の野の涯てまでも」





次の日の朝。ラーの光輝に満たされる朝。

軽く足を引きずりながらカルナックの参道を行くシャダの背中に声をかける者がいた。
「シャダ・・・シャダ!」

振り返ったシャダは屈託ない笑みを浮かべた。
「やあ、マハード。おはよう」
シャダに追いついた背の高い少年は、雄羊姿のアメン神像の居並ぶ参道を歩きながら、いつもとはどこか違う不自然な友だちの歩き方については何も触れずに問うた。

「シャダ、先日の質問ですが・・・もう結論は出たんですか?」
「・・・質問・・・って?」
おやおや、もう忘れたのかとでも言いたげな表情を浮かべてマハード。
「あなたが皆に聞いて回っていた、『愛とはなんぞや』って質問ですよ」
シャダは言った。
「・・・ああ・・・あれね。うん、僕なりに納得できたよ」
「納得した?じゃあなたはどんな結論に到ったんですか?」

紺碧の空を背景に、頭上高くそびえる色鮮やかな塔門を見上げたシャダはしばらく口を閉ざして・・・
「うーん・・・僕にとって愛は・・・触れ合いたいと思うこと、かな」
「・・・触れ合いたいと思うこと?」
「うん。愛は愛して欲しいと思うこと・・・同じ空の下にいるだけで幸せになってくること・・・最後に見る顔がその人であって欲しいと願うこと・・・いや・・・」
一瞬口を閉ざして足を止めるとシャダは言った。

「愛って何なのか、なんて頭で考えたって仕方ないってことだけは分かったんだよ、マハード。愛は・・・」
シャダはそこまで言うと、この上なくおだやかに微笑んだ。
「・・・一人一人が心の奥で感じるものなんだ、きっと」

意味が分かるような分からないような・・・と複雑な表情を浮かべたマハード。
朗らかに笑いながらその肩を抱いて歩きだすシャダ。

長衣の裾を強い西風にひるがえす少年らを、参道の果てまで居並ぶ石の雄羊達はただ、黙って見おろしていた。


<了>


キューピッドはヒゲオヤジv
マングースの次はヒゲオヤジ・・・いつも誰かの手をわずらわせるカリムとシャダでした〜。

「初体験」と言っておきながら肝心のエロシーンをすっ飛ばしてて申し分けない・・・
でも「入らないよシャダ!もっと力抜いてっ!」「ああっダメカリムっ!そんなおっきいのぜったい無理っ!」となると一気にギャグになってしまうもので迷った結果すっ飛ばしちまいました。なんか真面目になっちゃってすいませんねえ。でもカリムとシャダは真面目な自然体ソウルメイトですから。ええホントに!!(笑)

<このあとエッチシーンだけべつに追加しましたので、よろしければどうぞ→

古代エジプト人の名前を現代語にあてはめても意味ないのですが、現代アラビア語で「シャダ」は「美声で歌った」という意味だそうで、そこから無理に広げてこの話を書いてみました。
ついでながら「カリム」はアラビア語で
「気前のいい人」。うーん、当家のカリムそのものだなぁ。これ、人名に時折用いられるそうで、有名インダストリアルデザイナー(エジプト人)にもカリム・ラシッドという名前の人がいて、ぜったい持ちたくないようなSFチック・リュックとかSF万年筆とかをデザインなさってます。

ちなみに文中のヒゲオヤジはもちろん原作に登場する「ラクダのウインク酔っぱらいオヤジ」です。
この話は原作から遡ること12,3年前のことですので、この頃は彼もまだ若くて歯もあった・・・後でかあちゃんも家に戻ってきてよかったねオヤジ!(笑)
で、「ワニに噛まれて顔がひきつった店主」というのも原作・ラクダのウインクのシーンでカウンターの中に入ってるオヤジです。こっちは10年以上たってもちっとも変わってない。

それにしても私なんでこんなにラクダのウインクのキャラが好きなんだ!?
理由は分からないがうちほど
ウインクキャラを使ってるとこないよねっ!えっへん!というぜんぜん意味ねぇ自信だけはあるなぁ。