「......うっ......く......」

まずはご挨拶がわりに、とばかりに色味がほとんどない薄い唇に自分のを重ねたら、顔をそむけて思いっきり嫌そうな上目遣いで睨みやがる。
けど、両腕をきつく押さえてもう一回トライすると、今度はじっと大人しいもんだから、調子に乗って歯を割って舌を絡ませようとした。そしたら......
「あ痛ぁあぁーーぁーっ!」
ガリッ、と舌噛まれた。

「ぢくしょー!かむらんてひろいりゃらいか!」思わず本気で殴りかかりそうになる。
けど、「プッ......悪い悪い。つい反射的に......」だなんて口では謝ってはいるものの、悪びれるどころかゲラゲラ爆笑したいところを必死で抑えてるのを見ると、腹立てるのすらアホくさくなってきた。

なんつーか、こいつやっぱりおかしい、普通の人間の感覚じゃない。頭のネジ、どっか一本はずれてる。
何はともあれここは我慢だ我慢。犬みたく四つん這いにしてアンアン啼かせて積年の恨みを晴らすまで、あとちょっとの辛抱だぞ、ロメオ。



「キスがそんなに嫌いなら代わりにこっちを頼む。でないと先には進まないぜ」
いきなりの直球勝負はマズいかなとちょっぴり不安になりながら、ソファーに座って形のいい頭をグイッ、と下半身に引き寄せた

けど......ありゃま。キスの時の嫌がりようとはうって変わって、えらく素直にくわえ込むもんだから拍子抜けした。
それもかなり献身的なブロウ・ジョブで。喉の奥まで突っ込んでもゲホゲホ咳込みながらぎごちなくご奉仕してくれるあたり、見ようによっちゃ案外カワイイかも。

ああ......チクショ......もうダメだ。
いつもはお高くとまって人をコケにしたような目で見る奴に、こんなエロいことさせてるなんて......そう思うとどうしようもなく興奮してくる。
俺としたことがこんなに早いのはプライドに関わるけど、もう我慢の限界。
「な、なぁ......顔にブッかけてもいい?」
そう言うが早いが返事を待つ間もなく、俺は青白い顔に向かって思いっきり放出していた。

「......フン......」
しばらくはうつろな目でへたり込んでたくせして、正気に返るとあわてて手のひらで顔をぬぐいながら、さも馬鹿にしたみたいに鼻を鳴らした。「セルバ乗りだけあってさすがに早いな」。
なにをエラソーに。そんな格好で強がってもぜんぜん説得力ないと思うぜ。

それにしても......なんなんだろう、この色気。
銃とお話しするようなイカれたオッサン相手にいきなり顔射の上、色気なんたら言ってる自分もついに変人のお仲間入りかねえ。

けど、どこがどうだなんて分からないけど、やっぱスゲェ色っぺーんだ。

一方、カラダは正直なもんで、さっき出したばかりだってのにもうガチガチ。俺はそんな余裕のない自分自身になんだかムカついてきた。
畜生、こうなったら一度二度とは言わず、こいつが失神するまで時間制限無しだ。


「おい、次はブチ込んでやるからこっち来いよ。どうせネコだろ、アンタ」
ここまで来ると上官もなんもないさ。大上段に構えた俺は新兵に命令するみたいに深紅のイームスを指さした。
けど、あいつは床に座り込んだまま動こうとはしない。「なんで?」って聞くと、クソ高いソファーだから悪い、みたいなことをもごもご口ごもった。

ああ、この馬鹿野郎!なんたる貧乏性にして心配性!
これまで奴に対して漠然と抱いていた、人間というよりむしろ銃器に近いような......何の感情も交えず正確な機械みたいに敵を排除していく、冷酷で容赦のないイメージがガラガラと音を立てて崩れ去る。

まぁ、俺は別れた女に押しつけられたイームスが汚れようとなんだろうと構わないんだけどね、そこまで言うのならご希望通りに床で犯ってやる。

だから、ひんやり冷たいフローリングの床に、四つん這いにさせて首根っこを押さえてのしかかった。脂肪がほとんど乗ってない引き締まった尻を掴み上げると、低い呻き声をあげて反抗するみたいに力を入れてくる。

ああ、たまんない。この感じ。
男とヤるのは久方ぶりだけど、疑似戦場とはいえ毎日サブマシンガン片手に砂埃にまみれて走り回ってるだけある。
太鼓腹のメタボ親父とか、摂取カロリーばっか気にして脅迫観念的にジムに通ってるカッコばっかのモデル系、そんな奴らとはワケが違う。

そこを力任せに押し広げてローションでぬめらせたヤツを一気に突っ込むと、鍛え上げられた背中が反りかえった。
へぇー、けっこういい景色じゃないの。

「ハァ......ハァッ......おい......サージャント......思いっきり犯られてるくせして......そんなに気取んなくってもいいんじゃね?」
腰を激しく打ち付けながら意地悪く言ってやった。
「キモチいいんなら......素直にでかい声......出したっていいんだぜ?」
けど、そう促してもあいつは喘ぎを押し殺したまま、荒い息を吐くばかり。なんて強情な奴なんだろう。

「ハァ.....これじゃ......一方的すぎでなんか......レイプしてるみたいじゃん」
けれど、そう耳元に囁きながら綺麗な曲線を描く後頭部をべろっ、と舐めた瞬間......
「......ヒッ......!」
喉を切られた鹿みたいなかん高い声が上がると同時に、食いちぎられるかと思うほど締め付けられた俺のイチモツ。やべ......またイッちまうかと思った。
でも分かった、こいつの弱点は頭だったんだ。

ウィークポイントを制圧されてからの奴の豹変ぶりは、さしもの俺も驚くほどだった。
「あっ......あっ......あはあっ......」
頭を攻めてやるだけでこんなにグダグダになるなんて、敵に弱点晒しすぎだよなあ。

グッとくるほどイイ声で啼きながら、高熱に浮かされたみたいに俺の背中にしがみついて、グイグイ締め付けてくるのにはかなり参った。

おいおい......ちょっと極端すぎるんじゃないの?アンタってばさ。
分かりやすいといえば分かりやすくて有り難いんだけど、ポイントを変えただけでこのありさまでは、ベッドじゃサージャントどころかせいぜいプライベート(二等兵)止まりだね。



それからはもう......何回イッたとかイカせたとかなんてよく覚えてない。
終わった後には腕枕しなきゃとか、すぐ立ちあがると怒られるとか、正直言って女とのセックスには色々と気を遣う。
けれど、タフでなんぼの兵隊同士が、自分さえ気持ちよけりゃいいって感じで抱き合うのに遠慮はいらない。まぁ、喰うか喰われるかでついハードになり過ぎるのはある意味怖いけど。

怖いって言えば......そうだ。

腰が立たなくなるほどヤりまくって、ちょっと一息ついた時のことだった。
あろうことか、女相手にピロートークする時みたいなムーディーな気分にでもなってたのかな、俺。
それとも、なにか得体のしれない独占欲にでも突き動かされてたんだろうか。

荒い息を吐きながら、一言も発さずに天井を眺めてた奴の骨張った肩を引き寄せると、汗が流れ落ちる耳元に指をすべらせながら、ついうっかり囁いたんだ。
「俺の女になれよ、ミッヒ・ハーネマン」

とその刹那、さっきまで快感の波間に漂って、ぼんやり焦点の合っていなかった両眼に浮かんだ、もの凄い色。
俺は頭からガソリンをぶっかけられて、ライターの火を近づけられた時みたいにゾッとした。
一体なんだよこれ?なんかマズいスイッチでも入れちまったのか?

おいハーネマン、頼むからちょっと待ってくれ。
アンタの来歴はよく知らないけど、あの戦争で一体何やってたんだよ?

それはまるきり狂犬、いや違う。なにかもっと嫌な......
そうだ、底の見えない虚無を含んだ......人殺しの目。

さっきまでビンビンだったブツも萎える思いで、俺はヘビに睨まれた蛙みたく固まることしかできなかった。
助かったことに、一瞬俺の網膜に照り返った強い光は、すぐに忘我の海の底に沈んで見えなくなったけど......
目を閉じると今でも時々甦るんだ。目の奥に焼き付けられたあの、凄惨な光が。




東の空がわずかにオレンジ色に染まり始めた頃、俺たちはソファーに黙って並んで座ってた。

「......なぁ......」
サイドボードに置いたジタン・カポラルの封を切りながら、俺は精一杯何気なく聞いてみる。
「これからはファーストネームで呼んでいいかなあ?」

けど、俺の手から青い箱を取り上げたあいつは、紫煙の中で舞うフラメンコダンサーをしばらく無言で眺めていたが、一本取り出して火を付けると、眉間に皺を寄せて「マズい煙草だな」と言ったきりだった。



<TO BE CONTINUED>