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(右・拡大図)
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アテム:(唖然として)・・・こ、これは何なんだカリム?
カリム:・・・神官でございます。
シモン:で、ではこの・・・肩に乗ってる小さいのは?
カリム:・・・犬でございます。
シャダ:どうして肩に犬乗せてるんだ?
カリム:そんな事わたしにも分からん!描いてるうちにこうなっただけだ!(怒) シャダ:(アテムに向き直り)王子・・・こうなったら、アクナディン様がお戻りになるまで待たれた方がよろしいかと思われますが。 アテム:う、うん、そうだな・・・でも・・・セトが・・・ シモン:?セトが何と? アテム:アクナディンが絵をかいてくれるのは自分にだけだって、いばっていうんだ。 シャダ:そんなことはありませんよ王子。アクナディン様は王子のためなら喜んで描いてくれますよ。 アテム:(泣きそうになって)・・・そ、そうかなぁ・・・
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その時アカシアの影から現れた美しい姿は、六神官の紅一点神官アイシス。
アイシス:王子様、ご機嫌うるわしゅう。(アテムに膝を折る) アテム:お、おう! アイシス:(他の三人に向き直り)皆さん、わたくしめ、スピリアを通して事情はだいたい了解しておりますが・・・ シモン:お、そうかアイシス、なら話が早い。どうじゃ?おぬしは絵が描けるか? アイシス:(微笑んで)ええ、ほんの手すさびにではございますが、描かないこともございません。 アテム:なら描いてくれアイシス!カッコいいやつだぜ!(陶片を差し出す) アイシス:(独り言のように)小さな男の子を満足させるのは、竪琴弾きでも、犬の母性愛でも、ましてや肩に犬を乗せた神官でもございませんのよ? 男の子が喜ぶ絵というのは・・・ほら、このように荒々しさを全面に押し出して・・・思い切ってこう・・・ガブリとひと噛みで敵の頭蓋骨を・・・ほら、王子、できましたわ! アテム:うわーっ!すごい!カッコいい!!
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アイシス:(澄まし顔で)ヌビア人の裏切り者の息の根を止めるファラオの化身、強い強いライオンでございます。 アテム:ライオンだ!ライオンだ!セトに見せてくる! アイシス:(振り返り)やはり王子様にはインパクトのあるものが受けるようですわね、ホホホホ・・・ それでは、午後のお勤めがございますのでわたくしはこれで失礼。 シモン:あ、ああ・・・(いきなり獅子でくるとはあなどれぬおなごじゃ) シャダ:(強い強いライオンってのはファラオというより自分の事じゃないのか?) カリム:(俺も一度画工に絵の手ほどきを受けようかな・・・) |
あっけに取られたままの男どもを振り返りもせず、しゃなりしゃなりとアイシス退場。次いで王子を追ってシモン退場。しばらく池を眺めていたシャダとカリムもやがて立ち上がると、季節の花々の咲き乱れる庭園を後にするのであった。
カイロ博物館収蔵のオストラカ(単数形はオストラコン)を使ってお話を仕立ててみました。王宮は今日も平和じゃのぉ〜・・・
オストラコンとは「陶片」を意味するギリシア語で、文字や絵の描かれた陶片や石片を指してこう呼びます。当時パピルスは高級品でしたので、ちょっとした落書きや計算、覚え書きなどはこういった陶片や、消去可能な板、今で言うホワイトボードのようなものの上に書かれました。
この話に引用したオストラカのうち、最も有名な「ガチョウを連れた猫」はデルエルメディーナの職人村出土(19〜21王朝)で、その筆致から見習いクラスではなく、画工の親方が描いたものだと言われています。 また、「襲われる仔犬」も同じくデルエルメディーナ出土で19王朝のスケッチだと見られているそうですが、この二つ以外については手元に資料が見あたりませんでした。カイロ博物館の展示物にはメモ書き一つついてませんからね。
他にも古代エジプト人は「ネズミの奥様にかしずく痩せ猫の召使い」やら「ヤギと仲良くセネトで遊ぶライオン」やら「動物戦争」などという、ユーモアたっぷりの落書きを多数残しており、私は、神や宗教行事を描いたしゃちほこばった絵よりも、こういう戯画がはるかに好きなのです。
このお話、かなりテキトーに書いてますのでその辺りご了承下さいませ。 「ファラオとその親近者」以下の階級の人間が、王宮の庭園にある人造池のほとりで勝手にくつろぐことは許されたのか・・・もうそのあたりからかなり迷ったんですが、カリムやシャダの邸宅にアテム王子が出向く、という方がもっと無理があるかと思い「王宮庭園」でスルーしました。こんなこと言い始めると話が進みませんよねホント。
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